6:静(しず)やかな空
それから
どうしても外せない仕事などで用事が付かない日は、俺や
そしてーー。
「ふふっ。お姉ちゃんですよー?」
出産を終え横になっている
その顔は、とても幸せそうで、と同時に
「良かった……良かった、本当に……。
良く、頑張ってくれた……」
「もぉ……。何度目よ、パパ……。
先が思いやられるわねぇ……」
そんな彼の頭を愛おしそうに撫でつつ、首だけを動かし、
「ねぇ、
あなたが、名前を付けて?」
「……私が?」
「そりゃ良い。
「で、でも、私……」
「
どうせ、未来は確定してるんだから」
「
お前はまた、夢の無い
「当たり前じゃん。
じゃなきゃ死神なんて、やってませんよーだ」
「そりゃそうだが、お前……」
「……
この子は、
常に心の中に、そして周囲に、晴れやかな笑顔を守っていられる……。
そんな、明るく真っ
「
素敵な名前ね……」
「ああ。
ありがとう、
こんな
二人が本音を告げると、不意に
そして。
「ごめん……。パパ、ママ……。
勝手な事、しちゃって……。
二人よりも先に……死んじゃっ、て……」
実に、十ヶ月。
何年にも渡って本音を隠して来た
「私……
もっと、パパとも、ママとも、
一杯、思い出、作りたかった……。
二人みたいに、素敵な恋、してみたかった……。
もっと、沢山……増えた家族を、見てみたかった……。
まだ全然、生きられてないのに……」
直立する事さえ
「こんな方法でしか、大切な物を守れなくて、ごめんなさい……。
こんな……親不孝者、で……。
「そんな……そんな事、無っ!」
それを、
「な、何をっ!」
「黙ってな。
ケーゴ。例の
「……ああ。
俺は前以て
「……っ!!」
「君にとって
君の人生最後の日を、最高の形で締める為に、準備した。
忘れて
この程度、造作も
「そんな……!」
「こんな……こんな
死神という物を、まだどこか信用していなかったのだろう。無理も無い事だ。
しかし悪いが、今は二人には構ってられない。
優先すべき事が、他に有るから。
「
真ん中。父親さんと母親さんの間に居る子を見てくれ」
「え……」
言われるがままに
そこには、今の
俺のメッセージが伝わり、
「
まさか、これ……!!」
「ああ。
一八年後の、
たった今、お前が抱えている、お前の妹。
お前に憧れて立派に他の妹達、弟達の姉をやっている、お前の妹だ」
「〜っ!!
う、わぁっ……!!
わぁ、わぁぁぁっ!!
……うわぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぅ!!」
感極まり、
初めて産声を上げた瞬間みたいに、わんわんと。
まるで、残っていた未練、その
俺は屈み、彼女の肩にそっと手を置いた。
「
お前の尊い犠牲は、きちんと実を結んだ。
見ろよ、この写真。
数だって多いし、生まれたばっかの子も
……これ以上、幸せそうな家族、俺はもう、二度と見られない気がするよ……」
「ええ、ええ……。
私も、そう思います……。
こんなの、狡い……。反則ですよ、もぉ……。
こんなの……どうしたって、泣いちゃうじゃないですかぁ……」
やっと
「頑張ったね……。
凄く、凄く、偉かったね……。
ありがとぉ……
これからも、ママやパパ、家政婦さん、他の家族と、仲良くね……。
お姉ちゃん……きちんと見守ってるから……。
好きな人の
一杯、一〜っ杯、教えてね……。
ずっと、ずっと、
一方で、
そろそろ、旅立ち……別れの時が、そこまで迫って来てる。
「
「
察した両親が、手を繋ぎ、惜しむ。
「パパ……。
ママ……。
今まで
色々……
私……二人の子供で、良かった……」
「
ママもよ、
あなたの母親で、本当に良かった……!!
ありがとう、
「俺もだよ、
パパも、ずっと
パパを選んでくれて……ありがとう……!!」
約十ヵ月まで擦れ違っていた家族が、互いを抱き締め合い、一つとなる。
やがて抱擁を解いた頃、
「
今まで、ありがとうございました。
私の担当が、あなた達で良かった……」
「
でも……そこそこ楽しかったよ。
……ありがと、
「俺もだよ、
初めて
あんたみたいな、聞き分けの
ありがとう、
憎まれ口を叩きつつ、感謝を述べる
飾らず、素直に言葉を紡ぐ俺。
「
死神さんに、頼るのも……。
私、今……最っっっっっ高に!!
幸せですっ!!」
満面の笑みを浮かべた
「パパ。
ママ。
いつまでも、元気で!!
……大好きぃっ!!」
そして、
彼女の
そこまで来て、誰からともなく、
この日、窓の奥に広がっていたのは、雲一つ無い夕空の景色。
実に気持ちの
オレンジ色の、空だった。
※
ファンタジーをモチーフとしたゲームで出て来そうな、王の間。
金の刺繍の施された長く赤い絨毯が目を惹き、その先に有るのは王の
……と、金色のテーブル・クロスのかけられたテーブル。
一体、誰が想定し得ようか。
彼女こそが、死神界のトップに君臨せし
「
お待たせ致しました」
ふと、彼女しか
その右手には、彼が作ったと思しきタルトが、ホールで乗っている。
「タイミング、バッチリよ。
それで?
「はっ。たった今」
「結構」
シークと呼ばれた男性は、簡単な会話を終えると、
全体に散りばめられた真っ赤な苺も印象的だが、それさえも上回るインパクトを醸し出しているのが、
「いつも通り、素晴らしい見た目ね。
やはり、あの二体をあなたと組ませたのは正解だったわ。
して、シーク。このタルトの名前は?」
「はっ。
『
「なるほど。
苺と、一子をかけてるいるのね。面白いわ。
さて、味の方はどうかしら?」
「はっ」
シークは何も聞かずに、
そのまま、鮮やかかつ素早い手付きで、タルトを八等分にカットし、更に盛り付けた。
「ご苦労。
あなたは、話が早くて助かるわ」
「はっ」
役目を終えたシークは上品な仕草で一歩、下がる。
瞬間、苺の瑞々しい甘酸っぱさ、生地のサクサクとした食感と、その中に入ったカスタードの仕事っ振り、更に生地の上を覆うフワフワのホイップ。
そのどれもが、単体でメインを飾れる一級品だが、それ
「はぁ……」
ひとピースだけでうっとりとした
彼女は一旦、シャンパンで口の中、及び舌をリセットし、シークに
「本採用されて初めての
時間をかけただけあって、実に素晴らしい
これなら、次も期待出来るわ」
感想を一通り述べると、
といっても、じっくり時間をかけて、だが。
「ところで、シーク。
あの子の調子は、どうなのかしら?」
「はっ。
希望が叶うのも、そう、遠くは無いでしょう」
「そう。それは何よりね」
再びシャンパンで喉を潤した
「楽しみねぇ。
あの子は一体、どんな命を育んでてくれるのかしら?」
※
「どうする
俺は、ボーッとした頭で、ぼんやりとした声で答える。
「……次の
それが、
「それなんだけど」
周囲に色んなポップを展開しつつ、
「ケーゴ向きの案件が現れるのは、実に五年後だ。
悔しかったら、そのハート・ボイルドな性格を恨め」
「
毒付きつつ、立ち上がる。
にしても、五年か……
まぁでも、それまで
俺の存在意義を踏まえると複雑だが、
「てな
今から、未来送りにする」
「……
てっきり、ずっと特訓付けかと」
「そうしたいのも山々だが、新入りを鍛え上げなきゃいけなくってね。
まぁケーゴも、そこそこ働ける
先に向こうに行って、
「次女だ!
そして、変な意味は皆無だ!」
「
さっさと、目ぇ閉じろ。
君がやったんじゃ、
誤った時代、次元に飛ばれた結果、探し当てて回収に行くのも手間だ」
「俺はキングジョ○かっ!?
はいお前、ベリアロ○さん確定なっ!?」
すっかり普段の調子に戻る俺達。
そうだ。
いつまでも落ち込んでいられない。
きっと今頃、
……あんな
新しい連絡先だけでも、聞いときゃ
シーク経由で入手
……俺、頼れる相手、少な
「……
面倒だから、強制送還」
「ただの八つ当たりじゃねぇか!?」
そんなこんなで、俺は五年後の未来にワープする運びとなった。
願わくば
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