3(静空side):君の未来に、万感の願いを
「……どうしよう。
今更、緊張して来た……」
着替えを終えた私は一足お先に目的地……山を少し登った所に位置する、今は使われていない古民家で、合流予定の三人を待っていた。
にしても……本当に、大丈夫なのかなぁ?
本当に、摩訶不思議だなぁ。死神って。
なーんて……当たり前だよね。
なんたって、死神なんだから。
「はぁ!?
おいおい、
軽く吹き出していると、そんな勝ち気な声が届く。
思った通り、真っ先に着いたのは、幼馴染四人組の元気印、いつも何かにつけて勝負したがるお祭り娘、
あー……
などとノスタルジーに浸っていたら、私は無意識に、
「……どした?
大丈夫か?」
控え目に言って素朴な彼女に言われるなんて、中々である。
「……
「はぁ?
決まってるわ!
力強く宣言し、力こぶを作ってみせる
うん。やっぱり、
「あら?
もしかして、遅刻しちゃった?」
「
お疲れ様……こんばんは……です。
お招き、ありがとう……です」
続いて、体格も性格も対象的な二人が、同時に合流。
スラッとしたモデル体型で、大人っぽくて博識な、チームの知恵袋、リーダー、
小柄で引っ込み思案で
「よっ!
ご両人!
仲良く到着かぁ!?
ヒューヒュー、お熱いねぇ!」
「偶然、近くで見掛けてねぇ。
「
ペットじゃ、ない……です……」
冷やかす
困ってはいるものの嫌がってはいない、
……うん。
ちょっと戸惑う
「んでぇ?
その喫茶店てのは、どこにある
「う、うん!
その前に
「……
意図が取れず、素っ頓狂な顔を披露する
「これで
「……準備、万端……です」
「いや、早っ!?
ええい、
良く分からないながらも、素直に従ってくれる
負けず嫌いを発揮し、倣う
何はともあれ。
これで、手筈は整った。
胸に手を当て、深呼吸し。
意を決した私は、古民家の前に立ち、ドアを開ける。
瞬間、レトロモダンな、広々とした店内に、案内された。
……
まさか、死神の関係者が、念じながら扉を開けるだけで、異世界にワープ
これは、
確かに、ドアだけなら、至る所に
にしても、サイズ感、大丈夫だろうか?
喫茶店というより、大衆食堂並みだ。
明らかに、建物の大きさに釣り合ってない。
「おぉい、
最後尾から私を呼ぶ
そうだった。まだ
「ごめん、ごめん!
今、行くぅ!」
そして、幼馴染達を、色んな意味で
「うっひゃー!
青天井なテンション、略してアオテンだぁっ!!」
「こーら、騒がないの。
勢いだけ任せの造語もお止めなさい」
「とっても、落ち着く……です……」
「確かに、素敵ではあるけど……。
こんなお店、近くに
妙に年季も入ってるみたいだし……。
それに、
「
それより、飯にしよう!
「
こういう時、
……改めて考えると、このグループ、バランス
「おや。
「おわぁっ!?」
見知らぬ突然の声に、
視線の先には、
あ。ひょっとして……。
「は!?
……誰このイケメン?
誰このイケメン!?」
「シーク、さん?」
「
あー……そういえば、そこら辺、練ってなかった……。
どうしよう……。
「彼は、
以前まで、
ただ、シャイな方なので、人前には姿を現したがらないんですよ。
「おわぁっ!?
しょ、
と思いきや、今度は
注意してみれば、奥の方で、ひっそりこっそりと、優雅に一人で紅茶を飲みつつ、読書をしていた。
余談だけど、
……そっか。
私の家族も同然で、死神の
っても、まさか実際に、先に
この人、私よりも死神に馴染んでない?
そんな私達の心境とは対象的に、
「彼は元々、
しかし先日、独立したいという旨を旦那様、奥様に進言し、屋敷を後にしたのです。
その後、消息は不明だったのですが。
よもや、人里離れた古民家でカフェを営んでいようとは。
しかも、パティシエ志望だったとは。
てっきり、イタリアン専門かと」
「……だから、バレたくなかったんですよ。
……
ひょっとして、勝手知ったる間
……
「え……え、え?」
口をパクパクさせ、アワアワと二人の顔を行ったり来たりする
「もしかして……
質問しつつ、指ハートを作る
……
普段ああいう感じだから、忘れがちだけど。
「ご冗談を。
それに私は、もう三十年以上も前に嫁いでおります」
「そうなのぉ!?」
「さて、と。
お嬢様。どうぞ、ご友人方と、ごゆっくり。
帰りが遅れるのであれば、ご一報くださいませ。
では、失礼します」
一方的に要件、別れを
「
「……おやつ……」
「はいはい。
そろそろ注文しましょうか。
ほら
早く頼まないと、
「
「うふふ。
私もよ、
「う、うんっ」
「あいよ」
着席し
「ところで、魔法でパッと出てきたりせんの!?
ねぇ、ねぇ!」
「……そう、なの?」
「だったら、ホグワー○みたいで素敵ね。
でも、そこまで時代は進んでないわ。
未来に期待しましょう」
「ちぇー」
……実は、やろうと思えば
「確かに
その代わり、軽易な類なら、使えますよ?」
「え?」
し、シークさん?
まさか……!?
「嘘っ!?
どんな!? えっ、どんなっ!?」
「それは」
思わず立ち上がった
「僕の料理で、レディー。
貴方様方を魅了する、魔法ですよ」
……物凄く、チャラい
イケ
シークさんが
「……シークさん、
「気分と条件、時期が合ったら、考えさせて頂きます。
それまで、もっと素的に成長し、存分に煌めいてくださいませ」
「っしゃあ!!」
「それと、今はオーダーをしてください。
でないと、貴方様のハートに、僕の魔法がかけられない」
「任せろっ!!
マッハでやるっ!!」
案の
まぁいつも通り、
「ところで、お嬢様」
「わ、私、ですか?」
「残念ながら、今ここにおわす方の中で、
皆さんの食の好みを聞きたいので、少し
「は、はいっ……」
わー……目が、語ってる。
プラン台無しにすんな、勝手にアドリブ入れんな、させんなって。
気持ちは分かるけど、私の
監督不行き届きって
「え〜!?
「
あなたは少し、じっとしてなさい。
「……ズルい、です……」
「
それより、早く決めちゃいましょう」
「……棚ぼた、です……」
「それより、ほら、
早く行ってらっしゃい」
「う、うんっ」
……どうやら、行くしか
弱ったなぁ。私、シークさんの
※
シークさんは
私は、
「わ、私より、シークさんが先に……」
「女性を敬うのが、俺の流儀、作法、礼儀の一つだ。
ちょっと、
……レディーファーストは、ポーズじゃなかったんだ。
根っからのジェントルマンなんだ。
ちょっと無骨だけど、
「じゃあ……失礼します」
「ああ」
お言葉に甘え、スカートを意識しつつ、私は座る。
シークさんも、魔法で
「……俺の
「死神のシェフだと」
「それだけか。
そこら辺の説明も込みで、あんたを一時的に俺に預けたのか。
あ。
やっぱり、
……
「……少し長くなるかもしれんが、話しても
「私は大丈夫ですが……」
渋りつつ、客席の方を見やる。
シークさんは、依然としてフラットに返す。
「心配には及ばない。
今、この空間の時間を止めている。
用件が済むまで、動けるのは、あんたと俺だけだ」
「そうなんですか?」
「ああ
便利だろ? 俺の店は」
「ええ、まぁ……」
……そういう問題?
もしかしてシークさんって、天然寄り?
「話を戻すぞ。
「は、はいっ。
お願いしますっ」
私は背筋を直し、改めてシークさんと向かい合う。
シークさんは、軽く
「俺の担当分野は、料理。
取り分け、
「
「
死神と
謂わば、バックアップの
「……少し、違う気がしますけど……」
「『
他に上手い例えが思い当たらないんだ。
仕方ないだろう?」
「分かりますけど」
……あれ?
もしかして、意外と話し
そっか。
よくよく考えてみれば、
「その
「
正確には、
やれやれ感を出しつつ腕組みし、シークさんは続ける。
「
特に、
だが、人間の強欲、不安定、無気力さに、昨今の不景気も相まってな。
人生を棒に振るったり、命や心を粗末にする人間ばかりになってしまった。
上質な
その結果が、あんた
「それは、また、その……。
……つまり、あれ?
その
……思ってたより、身近な理由だったんだ。
決して、食事を侮辱する
「だから今日、私に協力してくれたんですか?
私の心を満たし、人生に彩りと実りを与える
「
俺は
あいつの受け持つあんたを支えるのは、自明の理だ。
……その辺りの要素を排除しても、一つの生き物として、助けたいがな。
あんたみたいな、好感は持てども、損ばかりして報われたがらないタイプはな。
にしても」
ここに来て初めて、シークさんは動揺した。
「……思った通り。
やはり、話してなかったのか。
我がコンビながら、手が焼ける……。
今日だって、俺は
理由は、定かじゃない。
ズケズケと聞いていいのかも、分からない。
けど、どうしてか。
それでいて、知らなきゃいけない気がした。
「……どういう、意味ですか」
質問ではなく、脅迫をした。
シークさんは、それを把握し、私に答える。
「……あいつは今、大事な
あんたにだけは是が非でも気取られたくない。
そう願い、自分と、運命と、必死に戦ってる。抗ってる。
身も心もボロボロにして。絶えず
だから、あんたを俺に預けた。
ここに
「……
そんなの、一言もっ……!!」
あいつが言うと思うか?
そう、シークさんが目で訴える。
気遣い屋のあいつが、言うか?
それがどう、私に影響を齎すのかなんて、てんで読めない。
でも、これだけは断言
それは、私に関係していて。
尚かつ、私を親身に思っての
「……すまん。
どうやら、無粋だったらしい。
あいつが不憫な
文字通り、忘れてくれ」
そう言い、腰を上げ、シークさんはフィンガースナップを鳴らし。
ーーあ、あれ?
私、どうしたんだろう?
……思い出せない。
確か、シークさんに招かれて、
それから……。
……それから、えっと……。
「……
平気か?」
記憶を捜索していたら、シークさんに声をかけられた。
い、いけない。
しっかりしないと。
いや……フリーズしてるからこそ、早く助けたいと言うべきか……。
「……平気です。
それより、
「……そういえば、そんな口実だったな」
「でまかせだったんですね……」
しっかりしてるんだか、抜けてるんだか……妙な男性だ。
何はともあれ。
三人の好物をレクチャーし、会釈し、そそくさと客席に戻った。
「……
それに、
……悪く思わないでくれ」
悲痛そうな顔で放たれたシークさんの一言を、耳に入れないまま。
※
シークさんの料理は、控え目に言って絶品だった。
別に奇抜な
そして、食卓を囲って繰り広げられた、三人との会話も、実に楽しかった。
バリアーのお
私は、心から感謝していた。
人間を捨てつつある私に、こんな素敵な時間を提供してくれたシークさん、そして
「
なのに。
だからこそ。
私の部屋に戻ってから、電話越しに
「……別に、
そんな感じにさぁ……上手い
……嘘だよね?
いつも通り、ジョーク飛ばしてるだけだよね?
そうなんだよ、ね?
「『そんな感じ』、って……
今更……
「……前例が
話せば、きっと……
「仮の話を前提に置かないでよ。
もし、分かって
ママは? 赤ちゃんは? パパは? 私は?
悩んで、苦しんで、強がって、泣いて、愛想笑いして、
そうまでして、その
……
いつもみたいに、見え透いた嘘で、私に仕返しさせてよ。
そしたら、何日かクールダウン挟んだ後、許しはしない代わりに、流してあげるから。
今の発言、
だから……だからさぁ……!!
「……黙ってないで、答えてよ。
ねぇ……!!
「……すまん……」
「〜っ!!
もう知らないっ! 担当、代わって
二度と……もう二度と、私に関わらないでっ!!」
そのまま、怒りに身を任せ、スマホを壁に投げ飛ばそうとして。
けど、上手く
「私の、
別に、
私の心境も知らずに、あんな最低な提案をして来た相手に、同情、擁護の余地なんて
が、それを差し引いても、私は浅はかだった。
こんな
強か、悪女の自覚は
それでも、私は模索した。
やはり、話し
いや……シークさんは、あくまでも料理担当。そこまでの権限は
それとも、
グルメらしいから、特産品でも持っていけば案外、どうにかしてくれるんじゃあ……。
……なんて、安直にも
いきなりラスボス戦だなんて、正気の沙汰じゃない。
となれば、残る伝手は、あと一つ。
三人の中で
などと思っていたからだろうか。
当の
※
「……どういう
変に静かで、彩度の低い、ゴシック調の世界。
「……こっちの
そっちこそ、どういう
「質問してるのは、こっちだ」
「どう考えても、私が被害者です。
早く説明してくださいよ。
どうせ、
「ああ」
……やっぱり。
なら、話が早い。
「
「……」
呼び方、違う?
普段なら、『ケーゴ』って呼ぶのに。
その真意はさておき、どうやら
これは、思わぬ幸運だ。
「説明不足だし?
唐突だし?
適当だし?
配慮も足らないし?
見切り発車だし?
スケ管
「……そうです。
だから、私は」
私が思っていた
そう……単なる、
「……は?」
私が賛同した瞬間、
普段より、怒りがマシマシになった。
「『だから』……何?
今、何を言おうとした?」
……違う。
そんな生温い、生易しいレベルじゃない。
もっとトゲトゲ、殺伐とした、
「……確かに、あいつは間違った。
君に対して、明らかに対応を間違えた。
君の気持ち、きちんと推し量れてなかった。
でも……それは、君も一緒だろ。
それに、
怖い。
一歩、後退る。
「そりゃ、出だしから躓いてたら、聞き
君は、ただの一言も、あいつの真意を、理由を聞いてないだろ。
あっちが悪い、自分に非は
そうじゃなきゃ、『自分は被害者』だなんて、口が裂けても言えない
結局の所……君達は、揃いも揃って、ただガキなんだよ」
……その通りだとは、思った。
それは、
けど。
にしたって、まだ彼を許せそうにない。
真相を確かめるにも、相手は彼以外が
だったら。
「じゃあ、
「……楽しい話じゃない。
それでも、聞きたいか?」
今一度、私に問う
私は、
「……教えてください。
ここに来た時点で、覚悟なら出来てます」
「……あっそ。
強情な子だよ、
まっ……
憎まれ口を叩きつつも、
「『
それが、
あいつは、最初から死神になる
元人間とか、そういうんじゃない」
不自然だと思った。
にしては、
「素体も前世も無しにゼロから作られる死神は、役割の他に、
更に
「……それって、つまり……!?」
「ああ。
生後間も無い赤ん坊が、大きな体と、
これが、どれだけ危険な
どれだけの悲哀を背負っているのか。
君に、理解
……知らなかった。
てっきり、売れない芸人とか、憎めないセールスさんとか、そんな感じだと思ってた。
まさか……人間ですら、なかったなんて。
「付け加えれば。
君にとっての幼馴染、家族の
こっちも、シークも、立場上そうならざるを得なかったから、今も
家族はともかく、君の
つまり、あいつは……なるべくしてなった、コミュ障。
相手を尊重し過ぎる
「そん、な……」
残酷、嘘にも
足が。
足が、
付いてるのかどうかも、分からない。
彼に……申し訳が、立たなさ
……それでも。
「……
腕だけで立とうとして力を入れながら、
私がここに来た、本当の目的を。
「
屈んで目線を合わせ、
「……今のよりも、キツい。特に、君には。
それでも」
「私はぁ!!」
両手両足の感覚を失いつつあり、自責の念で体を震わせてもいる。
それでも、私は食い気味に乞う。
今度こそ、
「……謝らなきゃ、いけないんです……。
でも、その
彼の気持ちを、理由を。
今度こそ、彼と向き合う
……そうだ。
落ち込んでなんて、いられない。
自分を叱責するのは、いつでも
今、私が一番、最速でやらなきゃいけない
それは、罪滅ぼしでも、反省でもない。
「……
私なんかじゃ永遠に及びも付かない
彼の傷を、
その程度の代償、
だからっ」
気持ちが切り替えられたからか、やっと体が言う
数分振りに取り戻した両足を、しっかり地に付け、踏みしめ。
揺るがない心と体を武器に、私は改めて、懇願する。
「教えて、ください。
私の思いが、切れ端程度には届いたのかもしれない。
真実を目の当たりにし、私は思い知った。
数時間前の私は、どこまで、どれ
※
見慣れた町並み。
聞き慣れた雑踏の音。
いつもと、
けど、何かが足りない。
……違う。
その『何か』が私である
ただ……知らない振りを、貫きたかっただけ。
だって、そうでしょ?
誰だって、見たくなんかない
ーー自分が、死ぬ所なんて。
「っ……!!」
パラレルの私が居合わせてるだなんて分かる
「
……あぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁっ!!」
血塗れになるのも厭わず、違う私の遺体に駆け寄り、もう死んでいる
この世界の絶望と悲しみ、苦しみを一身に背負ったみたいに、泣き叫ぶ
「……」
魔法で正体を隠しつつ、彼に近寄る。
「……大至急、救急車をお願いします。
まだ……まだ、助かるかもしれないんです。
俺……信じて
今度こそは、次こそは救うんだって、その度に自分を戒めて、叱って、背中とケツ叩いて。
けど……全然、
だから、もう……合わせる顔が、
俺には……彼女を助ける資格なんて、もう……」
私は、無言で彼を抱き締めた。
そんな
そう、伝えたくて。
けど、言葉なんかじゃ遅過ぎて、てんで足りなくて。
だから……行動で示す他、無かった。
「しず……く……?」
気付けば、ダミーの私の姿が剥がれてしまっていた。
アバターを維持するだけの余裕も、無かったのだ。
私の気持ちを、根こそぎ
「お前……。
……
「……どうしようもなく、会いたかったから。
「……っ!!」
決して雑にならない程度に私を引き離し、
「……ダッセーよな、俺。
お前に切られて、キレられて当然だよ。
俺……マジで、ダサ
「そんな
「有るんだよっ!!
その証拠が、今っ!! お前の目の前にっ!!」
この世界の私の亡骸を指差し、血みどろになった衣装と顔で、
「お前だって見たろ!?
俺は、お前を助けられなかった!! 救えなかった!!
お前の気持ちを、何一つ背負えなかったっ!!
だから今、この世界のお前は、お前の前で死んだんだろがっ!!
俺はっ……!!」
ひょっとしたら、それは私の勘違いで。
彼は最初から、血涙を流しているのかもしれない。
「……お前の言う通り、俺は最低だ。
人間味を持たされた
嘘の一つも満足に
何もかも中途半端の、減らず口ばっかの
生まれた意味も、生きる理由も
それが、今の俺……俺の、全部だ」
今日の
当然だ。
だって彼は、この数時間の内に、もう何万日も、何万人もの私を、繰り返し助けようとしてくれていたのだから。
「違うんだ……。
今度こそ……今度こそ、何もかも、
気紛れで偏屈な
お前の妹、弟が、元気に生まれる状態のまま。
お前の家族も、
全員、一人残らず存命である
お前の笑顔も、夢も、未来も、健康も、心も、体も、趣味も、過去も、世界も、きちんと維持したまま。
ちゃんと……ハッピーエンドで、終えられる
だってのに、この体たらくだ。
倒れかけた
私の方に顎を乗せ、消え入りそうなガラガラの声で、
「なぁ……教えてくれよ……。
俺は、一体……何度、お前を殺しちまったんだ……」
ははっ……と、渇いた笑みを浮かべる
イメージを投射する魔法さえ使えない
私に電話して来た時点で、もう
もっと、彼の言葉を、声を聞くべきだった。
もっと、ちゃんと……余す
「お前が自殺するまでのシミュレーションを、
その果てで
でも、俺は……その何万通りを、どうにか覆したかった。
お前と
エレクトリカルパレードの時みてぇな……お前の、
こっちの、計算尽くされた未来を変えて、その方法を、経験を活かせたら、リアルのお前も、心から笑ってくれるかなぁって。
けど、無理だった。
体を治すだけならまだしも、命に関わるレベルは、
それでも……塵も積もれば山となる精神で、どうにか、
文字通り、万策尽きたよ。
俺にはもう、手段が思い付かない。
もう……これしか」
私から離れ、
地面に額をぶつけ、血を流し、私に訴える。
「俺を、殺してくれ」と。
「お前の代わりに、俺を生贄してくれ」と。
「お前等のお
そんな
けど残念ながら、それを正確に聞き取る、理解するだけの余力は、もう私の中には無い。
彼を、一刻も早く、助けたい。
この、どうしようもなく不器用で、身勝手で、自己犠牲的で、純粋無垢で、ボロボロで、誰よりも優しい、熱い心を持った彼を、今度は私が、救いたい。
今、私の心に渦巻き、私を支配しているのは、そんな母性、家族愛に近い感情だけだった。
「ごめんなさい、
私……やっぱり、死にます。
もう、贅沢言いません。
だって……もう、他に方法が無いじゃないですか」
死神さん達が、何度もシミュレーションしてくれた。
私の命と引き換えに、私の願いを叶えてくれた。
もう、これ以上……欲張ってなんか、いけない。
私の
色々あった
自分から手放した命や未来に、いつまでも縋り続け。
あまつさえ、その
そんなみっともない身勝手、もうしない。許される
全部、私の責任だ。
私が、全ての
だったら……私が死ぬのが、筋だ。
「待ってくれ……。
俺がしたかったのは、こんな
これじゃあ俺は、無能、無力、無様を晒しただけ……。
死から
「違いますよ、
座って目線を合わせ、私は否定する。
決して、無駄なんかじゃなかった。
意味無くなんかなかったと。
だって。
「お
けど……
この人なら、私の
地面に膝を置き、
これからは、少しでも守れる
本の一時でも、彼を癒せる
分かってる。
これは
結局の所、
でも、それの
私は、今の、ありのままの
だったら、それで、それだけで
彼を大切に思うのに、他に
「俺……無駄じゃない、かな……?
無意味じゃ、ないのかな……?
生きてて……
体を離し、横に顔を振った。
そして、
「あなたが、生きてくれてるのが、
下の下以下。
マイナス百万点。
再び抱擁、包装し、私は提案する。
彼も、私も納得、笑顔になる、折衷案を。
「
「……え゛」
正直、ちょっとムッとしてしまった。
自分が可愛いかとか、性格
おまけに
けど、それを差し引いても、異性に告白されてのリアクションとして、失礼なのではないだろうか。
でも、まぁ……特別に許すとしよう。
今日の私は、彼を怒れる立場にない。
「
だったら、私の、彼氏になってください。
今の私に残ってる後悔の中で特に印象的な物を、まだどうにかなる範囲で、叶えてください。
あ……でも、どうせだったら、こう、義務的? 業務的な感じではなくてですね。
もっと、こう……ドラマティック? ロマンチック?
自然な感じが、個人的には理想なんですよね。
あーでも、禁断の恋っていうのも、唆られる……」
「……お前、『もう贅沢言わない』んじゃなかったっけ?」
あれ?
ま、いっか。
結果オーライ。
「そうですよ。
だからこそ、たった一つの願望を、徹底的に叶えて
「へーへー、分ぁりましたよ。
んで? 俺に、どうしろっての?」
「……今、『恋愛ど
「言ってねぇよっ!?」
その後も、あーでもない、こーでもない、そーではあるなどと話しつつ、計画を練る私達。
正確には、過去……二年前の、私に。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます