第九話 素質の盲点

「気分は落ち着いたかな・・・?」


「ふぁい・・・、どうもすみません・・・」



 倒れた守くんはお姉さんに介抱してもらい、朝食の席に着いていました


 鼻に栓を詰めている状態はもう何度目でしょうか、

お姉さんも守くんの鼻血に少し慣れてしまった様子です



「それじゃ朝ごはん食べちゃおっか♪ 今日はお買い物に行くんだからね♪」


「はい、ありがとうございます」


「マモルくんは果物味でいいかな? 朝からお肉味はおすすめしないけど・・・」


「えっと、じゃあ果物でお願いします」



 朝食には、昨夜食べた物と同じ、エネレーの味が違うものを出されました


 マモルくんの物とお姉さんの物は色が違っているため、

同じ果物でも味に変化があるらしいと伺えます



「ごちそうさま、っと・・・、あ、使い終わった飲み物の容器はここに入れてくれるかな?

洗ってまた使わないといけないからね」


「その機械で洗うんですか?」


「そうだよ~♪ 魔法でお湯を入れておけば勝手に洗ってくれるんだ♪

・・・おっと、お湯が切れそうだね、入れとかなきゃ動いてくれないよ」


「魔法、お湯・・・、もしかして昨日お風呂で使った魔法ですか?」


「そうそう♪ お湯を出す魔法だよ・・・、そうだ、試しにマモルくんもやってみる?♪」


「いいんですか?♪ じゃあやってみます♪」



 恐らく洗浄機のような機能を持つであろう機械に

昨夜見せたお湯を出す魔法を使おうとしたアミーお姉さんは、

好奇心旺盛な様子の守くんにその役目を任せてみます


 守くんはウキウキしながら機械の前に立つと、

水を入れる部分に手をかざしてみますが・・・



「・・・えっと、何て言うんでしたっけ?」


「呪文を忘れちゃったの? ウェルエム・ヴィーダよ」


「あ、そうでした、えっと、うぇる・・・、うぇるえむびーだ」



 魔法の言葉をぎこちなく唱えてみたものの、

何の反応も起こりません


 昨夜お姉さんが使った時とは違い、容器のお湯は増えておらず

水面が揺れることすらありません


 きょとんとした様子を見せながら、

守くんはもう一度同じようにやってみます



「うぇ、うぇるえむびーだ・・・、

・・・何も、起こりません」


「あら・・・、おかしいわね、どうしてかしら?

魔力が足りない、なんてわけはないはずよ、

あんなに大きな攻撃魔法が使えて、初歩的な魔法が出ないなんてこと・・・」



 やはり何も起こらないことに戸惑う守くんと、

その原因を探ろうとするお姉さん


 何気なく呟かれた言葉の中で覚えのある単語が聞こえ、

守くんはふと気が付きます



『そしてもう一つは、「攻撃魔法の神童」だよ、

これは攻撃魔法の習得がとても簡単になり、威力が高くなり、

必要な魔力がかなり減るっていう素質なんだ』


『ただし「攻撃魔法」に限定されるからね?』


(そういえば・・・、女神さまがそんなこと言ってたっけ・・・、

それに・・・、女神さまと言えば、昨日の夢で頼まれてたことがあったんだ)



 貰った素質で使えるようになるのは『攻撃魔法』だけだと、

そう言われていたことを思い出しました


 そして、今朝の出来事で忘れかけていた頼まれごとも思い出し、

その旨をお姉さんにお話しします



「あの・・・、今思い出したんですけど、

女神さまに貰った素質は、『こうげきまほう』だけが

使えるようになるらしいんです・・・、もしかしたら原因はそれかも・・・」


「えっ? そうなの・・・? 攻撃魔法だけが使えるようになる・・・、

う~ん、普通ならまずありえない状態だし、

女神様に特別なお力を頂いたのなら説明もつく、かしら?」


「やっぱり普通は違うんですか?」 


「それはそうよ、普通はこういう簡単な魔法から練習するの、

いきなり大きな魔法から使おうとするなんて危険だわ」


「危険・・・、っていうのは一体・・・」


「失敗すれば怪我もするし、魔力がなくなってしまえば倒れたりもするわ、

まあ、大抵は感覚で分かるから、危ないことを進んでしようとする人じゃなければ

そんなことにはならないけど・・・」


「け、怪我・・・、倒れる・・・」



 大きな力には危険が伴うことを告げられ、

守くんの顔は少し青ざめてしまいました


 最初に魔法を使った時はもしかするととても危なかったのではないか、

今更になって恐怖を感じているみたいです


 とはいえ結局は何事もなかったのだと自分に言い聞かせ、

話題を切り替えようとする守くんですが、

女神様に頼まれていたことについても話さなければいけないと気が付きました



「あの、そういえばお姉さんは、モンスターを退治する人なんですよね?

確か・・・、せと・・・、しゅく・・・?」


「もしかして、シュクトゥル・セージュのこと?

確かに私はその資格を持ってるけど・・・、マモルくんに話したかしら?」


「いえ、僕は昨日の夜、夢で女神さまに聞いたんです・・・、

それで、僕にもその資格を手に入れてもらいたいって、女神さまに頼まれました、

だからその・・・」


「夢の中で・・・、女神さまが・・・、資格を・・・?」



 あまりに突拍子もない話だからでしょうか、

守くんの言葉にお姉さんはとても困惑した様子を見せています


 ところがお姉さんの答えは、

信じる信じないといったものとはまったく違うものでした



「だ、だめよ、いくらなんでも危険すぎるわ!

シュクトゥル・セージュの資格を手に入れるなんてマモルくんにはまだまだ早いわ!

せめてもう10年・・・、いえ5年は待たないと!」


「えっと、もしかして、年齢制限があるんですか・・・?」


「そ、そういうわけじゃないんだけど、とにかく危ないわ!

いい? 当たり前だけど、それになるってことは

モンスターと戦わなければいけないの、どれだけ危険か分かるでしょう?」



 守くんのことが心配なのか、彼がモンスター退治の資格を得ることに対して

お姉さんが反対する姿勢を取っています


 もちろん、初めての戦いで非常に怖い思いをした彼が

お姉さんの言葉を理解できないはずはありません


 けれど、守くんはなおも食い下がります



「危ないってことは分かります、本物のモンスターはすっごく怖かったです、

でも、そうするって女神さまと約束しちゃったんです・・・、ごめんなさいお姉さん・・・」


「う・・・、う~ん・・・、弱ったわねぇ・・・」


「どうしてもだめですか? お願いします」



 瞳を潤ませながら頼み込む守くんに

アミーお姉さんはたじたじになってしまいます


 そして大きくため息を吐くと、諦めたようにこう言いました



「はぁ・・・、仕方ないわね、何か変な手段を取られても困るし、

一応は試験を受けてもいいわ」


「いいんですか? ありがとうございます♪」


「ああ・・・、こんな小さな子を戦わせようだなんて・・・、

女神フィリィ様への信仰を考えなおさなきゃいけないかしら」


「それは・・・、えっと、女神さま、何か困ってたようでした」


「どんな理由があるやら、ね・・・、ともかくお買い物の予定は変更しなきゃ・・・、

一応いろんな人に話を通しておかなきゃいけないし本部へ行くわ、

・・・昨日あなたと一緒にいた建物のことよ」


「あのおっきな建物ですか・・・、分かりました」


「そうと決まればすぐに出発しましょうか、

守くんもおでかけの準備をしておいてちょうだい」


「はいっ」



 ひとまずは納得してくれたらしく、

お姉さんは守くんが資格へ挑戦するための準備をしてくれるようです


 ここからどんな物語が始まるのか、

守くんは不安と・・・、そして少しの高揚に背筋を震わせました・・・



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