第十話 守くん、またお姉さんと出会う

「それじゃ行きましょうか、まずは昨日の場所まで行くわよ」


「はい」



 簡単な準備を済ませたお姉さんと守くんは、

家を出て歩き始めました


 目的地は二人がいろいろと話し合った場所のようです


 人の多い時間帯なのか、道を歩いている人は昨日よりずっと多く、

道すがらお姉さんはいろいろな人と挨拶をかわします



「おやクィストンさんおはようございます、今日も本部に?」


「おはよう、本部は本部だけど今日は別件、この子のことでちょっとね」


「おや、小さな坊や、おはようございます」


「お、おはようございます」


「色々手続きとかしなきゃいけないから早く出てきたの」


「なるほど、ではお気を付けて」


「ありがと、じゃあね♪」



 優しそうなおじいさんと軽く話をしたり・・・



「アマリエちゃんおっはよう♪ あれっ? その子はどちらさま?」


「おはよ、昨日言ってたでしょ? あの子よ♪」


「お、おはようございます」


「なるほど、昨日掃討行ってたのに早いなって思ったらその子関連?」


「そういうこと♪ じゃ、もう行くわね」


「うん、またね~♪」



 気さくそうな同年代の女性とも話をしたり、

守くんから見ると知り合いの人は多そうでした



「アミーお姉さんってお友達がいっぱいいるんですね」


「お友達、か・・・、まあそうかもね、確かにみんなお友達よ、

ここら辺はお家もたくさん集まってるから知り合う人も多くなるの」


「やっぱりそうなんですね」



 どこか含みのある言い方をするお姉さんですが、

守くんは表現の違いに気付くことなく相槌を打っています


 そのまま歩き続ける二人でしたが、

人通りが少ない道に出たところでお姉さんが足を止めました



「マモルくん、ちょっといいかしら?」


「はい、なんですか?」


「私は・・・、あなたが資格を手に入れようとすることに

まだ反対したい気持ちがあるの」


「え・・・、でも、さっきは・・・」


「一応は許可したわ・・・、だけどやっぱり危険なの、

あの資格を持っているといろいろなことができるけど、

その分モンスターと戦わなきゃいけないのよ」


「そうなん、ですか・・・? でも、女神さまと・・・」


「女神様がなんて言ったとしても、

今マモルくんの保護者になってるのは私なの、

だから試験を受けることに条件を付けさせていただきます」


「あの・・・、分かりました・・・、

それで条件って、なんですか・・・?」


「・・・7日後、一番近い試験は7日後に行われるの、

受ける許可をあげるのはその日の試験だけ、

それに合格できなかったら、どうか大人しく私が言った通り5年待ってちょうだい」


「な、7日・・・、ということは、あと一週間後ですか・・・?」



 やはり守くんがモンスター退治をすることには賛成できなかったのでしょうか、

アミーお姉さんは唐突に条件を、それもかなりの無理難題と思えるものを付けます


 守くんは当然驚きますが、アミーお姉さんはひるむことなく

同じ言葉を繰り返しました



「試験は年に数回あるけれど、今のあなたに合格できるだけの実力がないとすれば、

数か月程度待ったところで同じことだと思うわ、

どうする? やっぱりやめる・・・? 私としてはその方が・・・」


「う・・・、わ、分かりました、やります・・・!

女神さまと約束したんです、きっとその試験に合格してみせます!」



 挑戦を取りやめる方へ誘導するお姉さんですが、

それまでおどおどしていた守くんは少しだけ表情を引き締めながら

その条件をのんでしまいます


 やはり取りやめて欲しかったのでしょうか、

今度はお姉さんが驚いた顔になり、

そして諦めたように溜息を吐きました



「・・・はぁ、分かったわ、やっぱり考えは変わらないのね、

それなら手続きはしてあげる」


「ありがとうございます」


「だけどマモルくん、そもそも試験でどんなことをするか

知ってるのかしら?」


「あ・・・、そういえば何も知りませんでした」


「あら、そこは女神さまに教えてもらわなかったの?

そういうことはちゃんと聞いておかないとね」


「えっと・・・、はい、すみません」



 ちょっと意地悪したくなったのでしょうか、

アミーお姉さんは威勢よく啖呵を切った守くんが

何も知らなかったことを少しだけからかいます


 だけどそれ以上の追及はなく、微笑みながらこう言いました



「心配しなくても教えてあげるわ、・・・と言っても私じゃなく、

私の先輩に教授してもらうことになるけど」


「えっ? お姉さんの先輩さん、ですか・・・? でもどうして・・・」


「私がいろいろ教えてあげたいところだけど、

生憎私は試験まで何日かお仕事が入ってるの、

・・・簡単に言うとその試験の準備をするから、信頼できる人にあなたを任せるわ」


「そうなんですか・・・」


「ええ、それと試験が始まるまでの間、

その人に特訓を頼んでおくからしっかりやってちょうだいね」


「と、特訓ですか? ということは魔法を使ったり・・・?」


「基本はそうね、まあ詳しくは先輩に任せるから

はっきりとは言えないけど・・・」



 用事があるために守くんのことを先輩に任せるというアミーお姉さんですが、

守くんはどちらかというと特訓の内容の方が気になるようです


 二人は再び歩き出すと、道すがら試験のことや

件の先輩についてあれこれ話しました



「その試験って、どんなことをするんですか?」


「もちろんモンスターを退治する試験よ、

時間内にどんなモンスターをどれだけ倒せたかっていう単純なもの、

でも昨日のザン・ヴィーボラみたいな大型のモンスターを倒す必要はないわ」


「あ・・・、それは良かったです・・・、

もうあんなおっきいモンスターと出会いたくありません」


「そもそも試験会場となる場所はそういう大型モンスターの出現区域じゃないし、

その付近も試験前は私たちみたいに資格を持ってる人たちが

危険そうなモンスターを倒しておくの」


「そうなんですね・・・、あ、じゃあアミーお姉さんがいたのは・・・」


「ええ、試験の準備としてモンスターを掃討していたの、

あの時はびっくりしたわよ、資格を持ってる人以外は立ち入り禁止の場所に

あなたがいたんですもの」


「それは・・・、すみません」


「まあ結果的には大ごとにならなかったし・・・、

それに新しい家族ができて良かったかもしれないけどね♪」


「あ、あはは・・・、あ、あの・・・、

その、今から会うお姉さんの先輩ってどんな人なんですか?」


「そうね・・・、いい人よ、私もいっぱいお世話になったわ、

・・・だけど悪戯っぽい一面もあったわね、

私もよくからかわれたりしたものよ」


「悪戯、ですか・・・、でも、いい人なんですね?」


「ええ、そこは保証するわ♪ 信頼はできるし、

あなたのことを話しても大丈夫だと思う、

・・・おっと、あの角を曲がれば本部よ」



 いろいろとお話している内に、守くんたちは

昨日の建物に到着します


 お姉さんは中に入ると、受付らしき場所で窓口の女性に

何か尋ねていました



「おはようございます、ベルリーナさんは今いらっしゃいますか?」


「おはよう、あの子ならいつもの場所よ」


「ありがとうございます」



 二言三言話していたかと思うとお姉さんはすぐ戻ってきます



「ん、お待たせ、こっちよ」


「はい」



 通りざまに受付へ頭を下げつつ、守くんはアミーお姉さんの後をついていきました


 階段を上がり、重厚そうな扉の前でお姉さんが止まります



「多分ここにいると思ったけど、やっぱりね・・・、マモルくんちょっと待ってて」



 そう言うと、アミーお姉さんは扉をノックして中へ呼びかけます



「ベルリーナ先輩、いらっしゃいますか?

私です、アマリエです」



 しかし応答はありません、中には誰もいないのでしょうか?


 守くんがそう考えていると、アミーお姉さんが何とも言えない顔をしながら

また中へ声を掛けました



「はぁ・・・、仕方ない・・・、こほん、ベルお姉ちゃん♪

アミーよ、開けて?♪」



 何とお姉さんは、可愛らしい声でもう一度呼びかけます


 初めて聞く声に守くんが驚いていると、

今度は扉の向こうからも声が聞こえてきました



「あらアミーちゃん、いらっしゃぁい♪

珍しくお姉ちゃんにご用かしら?♪ どうぞ中へ入ってきて?♪」


「ありがとう、でも今日はお客さんを連れてきたの、

二人一緒でもい~い?♪、


「・・・ええいいわ♪ ほかならぬあなたのお願いですものね、

二人一緒にいらっしゃい♪」


「お姉ちゃんありがとう♪ ・・・さ、マモルくん、行きましょう」


「は、はい・・・」



 不思議なやり取りにぽかんとしていた守くんは、

お姉さんに呼びかけられてはっとします


 疑問は抱いていたものの、ひとまずは何も言わず

お姉さんの後をついて中へ入りました


 そこに広がっていたのは、見渡す限りに存在する大量の本棚です


 まるで図書館のような場所へ呆気にとられながらも、

守くんはその中央に立つ人物に気が付きました


 腰まで伸びる黒い髪に、長い前髪で片目を隠した不思議な女性


 黒色を基本とした、胸元が大胆に開いた服へ身を包んでいます


 おまけにスカートは大きな切れ目が入っており、

膝上まで覆うソックスに包まれた少し太くて長い足を大胆にひけらかしていました



「ようこそいらっしゃい、アミーちゃん♪

そして、あなたがお客さんね?」



 これが守くんと、ベルリーナと呼ばれていたお姉さんの邂逅です・・・


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