第七話 夢の中の女神様

 お風呂場で鼻血を出しながら気絶してしまった守くんは、

結局そのまま目を覚ますことなく眠ってしまいます


 そして彼は、夢を見ていました・・・


 周りは闇に包まれ、自分のいる場所だけがぼんやりと光る

奇妙な空間に立つ不思議な夢


 ゆっくりと周りを見回し、

守くんはここが女神様と出会った場所だと理解します



「ここ・・・、もしかして女神さまがいたところ・・・?」


「そうさ♪ 良く覚えていてくれたね♪」


「わっ!?」



 急に後ろから声を掛けられ、守くんが驚きながら振り返ります


 するとそこには、温和な笑みを浮かべる女神様の姿がありました



「異世界での生活、なんとか無事にスタートを切れたようだね、

どう? 楽しんでくれてるかな?♪」


「女神さ・・・」



 気さくに話しかけてくれる女神様に返事をしようとする守くんですが、

その姿を見た瞬間声がでなくなってしまいます


 胸元が大胆に開き、身体の線が浮き彫りになった服装や

整った顔立ちや薄く紅の引かれた艶めかしい唇


 始めて出会った時にはさほど気にならなかった部分、

女性的な魅力に満ちた部分がとても気になっていたのでした


 彼は途端に顔を赤らめ、思わず顔を背けます



「おや、どうしたんだい? 恥ずかしそうにそっぽを向いてしまったね?

私の方を見られない訳があるのかな?」


「あ、あの・・・、ごめんなさい・・・、

その・・・、僕、あの世界に行ってから病気になっちゃって・・・、

女の人を見るとドキドキしちゃうんです・・・」


「ああ、それは病気じゃなくて、私があげた素質のせいだよ」


「えっ? どういうことですか・・・?

魔法が使えるようになったからこうなっちゃったんですか?」


「違うよ、ほら、魔法の素質と一緒に必要だからって渡した素質があるだろう?

「女性に弱い」、その素質のせいでキミは女の人と接するのが苦手になってるんだ、

言わなかったっけ?」


「そういえば聞いたような聞かなかったような・・・、

で、でも、その・・・、それだけじゃなくて、急に鼻血が出るようになって・・・」


「それも原因は素質にあるかな、しかしどう説明すればいいんだろう・・・、

まあ簡単に言うと、えっちなものを見たり触ったり、えっちなことされたりしたら、

興奮してそうなっちゃうんだ」


「え、えええっ!? えっと、それじゃあ僕、このままずっと女の人にドキドキして・・・、

ちょっとしたことで鼻血出しちゃうんですか・・・?」



 自分の身に起きていることの原因が女神様から貰った素質にあると言われ、

守くんは驚きながら自分がどうなるか尋ねました


 女神様は、表情を変えることなく微笑んだまま答えてくれました



「まあ、ずっとってわけじゃないから安心しておくれ、

女の人に慣れてくれば、小さなことじゃ動揺しなくなるだろうから、

同時に悪い素質の効果も出なくなるはずだよ」


「そうなんですね・・・、でも、うう・・・」


「ちょっと不自由をかけてすまないね、でもこれくらい影響のある素質をあげないと、

充分に魔法を使わせてあげられなかったから」



 今度は少し真剣な顔をすると、女神様は簡単な解決策を説明しつつ

ゆっくりと頭を下げます


 謝ってもらうつもりのなかった守くんは、慌てて謝罪しなくてもいいと言いました



「あ・・・、いえ、女神さまが謝らなくても・・・」


「そうかい? ありがとう、キミは優しいね♪」


「や、優しいなんて、そんな・・・」



 褒められてしまい、今度はあっさり顔を赤らめる守くん、

説明が不足している点など、文句を言っても良い部分はありそうですが

今のところあまり気になっていない様子です


 女神様は守くんを見て微笑んでいましたが、

ふと何かへ気が付いたように声を上げます



「あ・・・! すまない、思ってたより時間がないみたいだ、

こうして私がキミに会える時間と機会は限られていて・・・、

だから急いで頼みたいことがあるんだ」


「頼み事、ですか?」


「ああ、率直に言おう、キミにはモンスターを退治する資格を手に入れてもらいたい」


「モンスターを、退治する資格?」


「そうさ、この世界ではモンスター退治の専門家みたいな人達がいるんだ、

資格を持つ人はシュクトゥル・セージュと呼ばれ、キミを引き取ってくれたアミーお姉さんもその一人」


「アミーお姉さんが専門家・・・」


「でなければ、あんな大きなモンスターの出る場所でキミと出会わないよ、

それで、もう一度言うけど、キミにもその専門家、シュクトゥル・セージュの資格を手に入れてもらいたい」


「女神さまは、僕にモンスター退治の専門家になって欲しいんですか?

でも・・・、あの、僕、正直言って、怖いです・・・」



 魔物退治の資格を手に入れるよう女神様にお願いされたものの、

守くんは難色を示し、恐怖していることを伝えました


 たった一度ではありますが、モンスターとの邂逅は

自分の想像とはかけ離れた恐ろしいものだったため、

怖さが頭から離れないのでしょう


 すると、女神様はそんな守くんの手を取り、

両手で包み込みながらこう言います



「やっぱり怖いよね・・・、ゲームよりずっとリアルな体験だったろうし、

命の危機だって少なからずあるとは思う・・・、でもごめんね、

これはどうしてもやってもらいことなんだ」


「う・・・、だけど、その・・・」


「どうかお願い、まずはキミ自身に少しでも強くなってもらわないと

大変なことになってしまうんだ・・・」



 不安を抱いてばかりの守くんでしたが、

なぜか女神様に手を握られると少しずつ恐怖が和らいでいきました


 そして口を開くと、自然にこんな言葉が出てきます



「わ、分かりました・・・、僕、がんばってみます・・・」


「そうかい♪ ありがとう♪ そう言ってもらえてとても嬉しいよ♪」



 彼の答えにとても嬉しそうな顔をする女神様ですが、

答えた方の守くんは自分がなぜ了承してしまったのか分かりません



(あれ・・・、僕、どうして頑張るって言っちゃったの・・・?

何回も頼まれたら断れなくなって・・・)


(そういえば、アミーお姉さんにお風呂へ誘われた時も

断れなかったけど、もしかして、これ、そしつの・・・)



 女神様のお願いを受け入れた理由を探ろうとする守くん、

しかし考えがまとまる前に女神様から声を掛けられます



「そうだ♪ 私のお願いを聞いてくれたご褒美に、

ささやかなおまじないをしてあげよう♪」


「へっ? おまじないですか・・・?」


「そうだよ、ちょっと動かないでね・・・?♪」



 そう言うと、女神様は前屈みになりました


 ちょうど目線と同じ高さにとても大きな胸が来てしまい、

それを見た守くんは思わず顔を赤らめます


 慌てて顔を背けようとしましたが、

それを遮るように女神さまが両頬へ手を添えました



「動いちゃだめだよ・・・?♪ ん・・・、ちゅっ❤」


「ふえっ!?」



 女神様は動かないよう言いながら守くんの額へ唇を近づけ、

なんと軽いキスをします


 柔らかく濡れた感触がおでこに貼り付き、

女神様が付けていた薄い口紅の色が残りました


 少し遅れて何をされたのか理解したらしく、

女神様の顔が離れたところで守くんの顔は真っ赤になってしまいます



「め、めがみしゃま・・・?」


「ふふ、私からのご褒美、女神のキスだよ♪

気に入ってもらえると嬉しいな♪」


「き・・・、きしゅ・・・、めがみしゃまの・・・?」


「うんうん、気に入ってくれたみたいだね♪

じゃあもしキミが私のお願いした資格を手に入れてくれたら、

その時はまたこうして夢の中でご褒美をあげちゃおうか♪」


「ご・・・、ごほうび・・・?」


「そうさ♪ 今のよりも、もっとずっと『すごいもの』あげちゃおうかなぁ・・・?❤」


「す、すごいもの・・・、うぅ・・・、あふぅ・・・」



 女神様の接吻を受け、更にはとても官能的な言葉を告げられて

許容量を超えてしまったのでしょうか、守くんは力なくその場に崩れ落ちてしまいました


 そんな彼に悪戯っぽい笑みを浮かべながら女神様が独り言を呟きます



「おっとっと、ちょっとやりすぎたかな?

どうやら私のあげた素質はきちんと効果を発揮してるようだね」


「・・・どうか頼んだよ、今はキミしか頼れないんだ」



 最後に真剣な眼差しでそう言うと、女神様の姿は消えてしまいます


 その言葉が守くんに聞こえたかどうかは、定かではありませんでした・・・



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