第五話 異世界の食べ物

 お家の中に入った守くんは、自分の家とは少し違う内装に

さっそく興味津々となりました


 レンガ造りのような壁に木材でできた床、

光が差し込む大きなガラス窓に暖炉や煙突


 端的に言うと洋風な装飾に新鮮さを感じ、

守くんは心を躍らせます



「わぁ・・・♪ とってもきれいですね♪」


「ふふ、ありがと♪ それじゃ、中も少し見てもらおうかしら?

どこに何があるか覚えてもらわないとね」


「はい♪ お願いします♪」


「うん、いいお返事よ♪ あ、履き物はここに脱いで、この中へ入れておいてね?

お家の中ではここにあるものを履いておくの」


「あ、分かりました」



 しかし家の中で靴を履く文化はないらしく、外靴は入口で脱ぐよう言い、

簡素なシューズのような室内履きを出すアミーお姉さん


 想像と少し違う現代的な文化に少し落胆しながらも、

守くんは自分の足より一回り大きい上履きを履きました



「あら、マモルくんにはちょっと大きいわね・・・、

ちゃんと合うのを買ってあげないと」


「あ、大丈夫です、これでもちゃんと歩けますから」


「そうはいかないわ、合わない履き物だと自分でも気付かないうちに

変な歩き方をしちゃうから、転んだりしたら大変よ」


「そうなんですか?」


「ええ、・・・それによく考えたら、服も替えはないのよね?

他にも日用品は足りないものばかり・・・、

明日にでも買いにいかなくちゃ」


「すみません、何から何まで・・・」


「ふふ、何言ってるの? 私たちはもう家族なんだから、このくらい当然よ♪

それに、こういう時言わなきゃいけないのは『すみません』じゃなくて・・・」


「えっと・・・、その、ありがとう、ございます・・・?」


「そう♪ よくできました♪」


「あ・・・、ありがとうございます・・・♪」



 明日の予定を雑貨の購入と決定しながら

穏やかに会話をする二人


 それが途切れたところで、不意に守くんのお腹から鈍い音が鳴りました



「あら・・・♪ そういえばもういい時間ね・・・、

私もお腹が空いちゃったし、考え事は何か食べてからにしましょうか♪」


「は、はい・・・」



 微笑みながらそう告げるエミーお姉さんに、

守くんは恥ずかしげに返事します





「すぐ用意するから、先にそこへ座っててちょうだい」


「あ・・・、えっと、何かお手伝いは・・・」


「お気遣いありがとう♪ でもすぐ済むからご心配なく♪」


「あ、分かりました・・・」



 小さなお部屋に案内された守くんは、着席を促され

おずおずと席に着きました


 アミーお姉さんは棚を開け、中を眺めているようです


 その間、守くんは少し周りを見回してみました



(ここがキッチン、なのかなあ・・・、コンロも冷蔵庫もないんだ・・・、

お家の中もちょっと違うし、やっぱり僕がいたところとは別の世界・・・)


「マモルくんお待たせ♪ はいどうぞ♪」


「わっ、あ、ありがとうございます・・・?」



 あちこち見ながら考え事をしているところに声を掛けられ、

守くんは驚きながらアミーお姉さんの方へ振り向きます


 そして、差し出された四角形の何かを見て

きょとんとした顔になりました


 薄い茶色のそれをとりあえず受け取ってみて、匂いを嗅いでみます、

するとお肉のような匂いがしました



「これ・・・、お肉の匂いがします」


「ええ、そうね、お肉だから・・・、あ、もしかしてお魚の方が良かった?

ごめんなさい、お魚は昨日私が食べ切っちゃったからそれしかなかったの、

それとも野菜や果物の方が・・・」


「えっと・・・、これが、ご飯なんですよね?」


「うん、間違いなくそうよ、

・・・もしかして、マモルくんは見たことがなかった?

というより、あなたの世界ではこういうものを食べないの?」



 携帯用の保存食みたいな食べ物を夕餉として当たり前のように差し出すアミーお姉さん、

その反応からも、それがこの世界では当たり前だということが分かります


 あまり見慣れない食べ物に戸惑いながらも、

守くんは自分の世界ではどうだったのかを軽く伝えました



「はい・・・、こういうのはあんまり食べません、

僕がいた世界では、いろんなお料理が・・・」


「えっ!? りょ、料理・・・!? 料理を食べたことがあるの!?

もしかして、マモルくんってば偉い人の息子さんだったりする?」


「え、ええ・・・? いえ、そんなことありません、

僕のお家は普通の家で・・・」


「そ、それじゃあなたの世界では、みんなが当たり前のように

料理を食べてると、そういうことなの・・・?」


「はい、そうなんですけど・・・、この世界では違うんですか?」


「そう、ね・・・、お料理なんて一部の偉い人しか食べられないの、

私たちは基本的にこのエネレーを食べて生活してるわ」



 そう言いながら、お姉さんは自分の手にあった

守くんが持っているものと同じ携帯食を指し示します


 どうやらこのエネレーという食べ物がこの世界では一般的な食事のようです


 似てるようで大きく異なる生活の違いに驚きながらも、守くんは自分が持っているそれに目を落としました



「そうなんですか・・・、これがエネレー、みんなこれを食べてるんですね」


「ええ、料理なんて私たちは話に聞くくらいよ、

マモルくんはこれまでに一体どんな料理を・・・」



 話が続きそうになったところで、また守くんのお腹が盛大に鳴ってしまいます


 当然お互いにそれが聞こえ、守くんは顔を赤らめお姉さんは笑みを零しました



「ふふ、ちょっとお話が長引いちゃったわね、とにかく食事にしましょう♪

お料理にはかなわないかもしれないけれど、味は保証するから食べてみてちょうだい♪」


「はい、いただきます・・・♪」



 守くんは一度両手を合わせてから、エネレーを恐る恐る口にします


 すると、少し湿った携帯食のような噛み心地と濃厚な味が口内へ広がりました



「あ・・・、おいしい♪ ほんとにお肉の味がします♪」


「気に入ってもらえてよかったわ♪ あ、お水もあるから飲んでちょうだい♪」



 そう言いながら、お姉さんは細長い筒の付いた円筒形の容器を差し出します、

さしずめこれはストロー付きの水筒なのでしょう


 守くんがお礼を言いつつストローを口にすると、中には確かに水が入っていました


 食べ物の味がやや濃かったこともあってか、味についてはあまり分かりませんが、

ともかく水分は補給できます


 この世界に来てようやくありつけた食べ物に

守くんは夢中となって口を動かします



「ごちそうさまでした・・・♪ おいしかったです♪」


「もう食べちゃったの? 何ならおかわりもあるわよ?」


「いいえ、もうお腹いっぱいだから大丈夫です♪ ありがとうございます♪」


「そっか♪ じゃあ私も食べ切っちゃうからちょっと待っててね」


「はい♪」



 お腹が空いていたこともあってか、少し珍しい食事をすぐに済ませ、

満足げにお腹を撫でる守くん


 そのままアミーお姉さんが食べ終わるのを待ちますが、

疲れが溜まっていたのでしょう、お腹が満たされたこともあり段々と眠くなってきます



「ん・・・、ふわぁ・・・」


「ごちそうさま、っと・・・、あら、マモルくん、もしかして眠くなっちゃった?」


「ふぁい・・・、ちょっと眠いです・・・」


「色んなことがあって疲れちゃったんでしょう、

だけどお風呂にも入らず寝るのは良くないわ、

私も一緒に入ってあげるから、行きましょう?」


「ふぁい・・・、ふぇっ?」



 食事を終えたお姉さんは、なんと守くんをお風呂に誘ってきました


 何も考えず返事をした後、何を言われたのか気付いて思わず目を覚ます守くん


 どうやら、眠ることができるのは少し先になってしまったみたいです・・・


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る