第四話 新しいお家
二人は手を繋いだまま町中をゆっくりと歩いていました
アミーお姉さんは守くんの早さに歩幅を合わせてくれています
「マモルくん、疲れたら言ってちょうだいね? ・・・そうだ、今日は少し暑いし、
どこかで一休みして冷たいものを飲みましょう♪」
「ありがとうございます、でも僕、もっと町を見て歩きたいです」
「あらそうなの? そんなに珍しいものがあったかしら・・・、
じゃあもうちょっと歩きましょうか♪ でもほんとに疲れたら言ってちょうだいね?」
「はい、ありがとうございます♪」
守くんを気遣うアミーお姉さんですが、当の彼はとても嬉しそうにあちこちを見ていました
綺麗な運河に石畳でできた道など、見たことのない光景にさっそく心が躍っているようです
何より、一人っ子の守くんには、新しくできたお姉ちゃんの存在も
嬉しくて仕方がないようでした
「あっ、見てっ♪ 見てください、あそこ、不思議な動物がいますよ♪
ほらっ、角が4つも生えてて足がすごくおっきいです♪」
「ああ、あれはニルーね、人を乗せたり車を引いたりいろいろできる動物なの♪
マモルくんは見るの初めて?♪」
「はい♪ 初めてです♪」
「そうなんだ♪ 結構あちこちにいるから、そのうち触れる機会もあると思うわ♪
人懐こいし温厚だし・・・、ああでも、角に触られるのは嫌がるから触っちゃだめよ?♪」
「そうなんですか・・・、分かりました♪」
上機嫌ではしゃぐ守くんですが、アミーお姉さんはそれを少し不思議に思います
と言うのも、守くんが興味を示すものの数々が、
この世界では別段珍しいものではないのです
それなのにどうしてこんなにも楽しそうにあれこれ聞いてくるのか、
女神様にこの世界へ連れて来られたと言う話がなかなか信じられないお姉さんは
その理由を考えました
(さっきからどこにでもあるようなものに興味津々だけど、
それを見たことがないくらい、外へ出た経験がなかったのかしら・・・?)
(ご両親が厳しくて遊びにも行かせてもらえなかったとか・・・、
もしかして・・・、ううん、変な想像はやめておきましょう)
(さっきの戦いで魔法を使ってたし、きっとたくさんお勉強してたのね、
・・・でもいくら学んだとしても、あの年であんな魔法を・・・)
思考の中で、守くんが使っていた魔法のことを思い出したアミーお姉さんは、
どうして彼がそれを容易く使ってのけたのかという新しい疑問が浮かび上がります
どうやら、少なくとも守くんぐらいの年齢で扱えるような魔法ではなかったみたいです
「ねえマモルくん、お姉さんからも聞きたいことがあるんだけど、ちょっといいかしら?」
「えっ? はい、なんですか?」
「さっきあなたがザン・ヴィーボラ相手に使っていた魔法のことなんだけど、あれはどこで習ったの?」
「えっと・・・、それってあの蛇に向かって出したやつ、ですよね?
あれは、その・・・、女神さまに、そしつ、というものを貰って、
それで使えるようになったんだと思います」
「女神様に素質を頂いて・・・? え~っと・・・、素質って、才能とかそういうもの?」
「う~ん・・・、僕にも良く分かりません・・・、魔法をすぐ使えるようにするためのものだとか・・・、
とにかくそれで魔法が使えるようなっていたみたいで、
アミーお姉さんが使っていた魔法を覚えてて、それで使おうと思ったら魔法が出て・・・」
「・・・? えっと・・・、つまりマモルくんは、女神様から魔法を使えるようにしてもらって、
私が使った魔法を見ただけで覚えて、それを真似したってことでいいのかな?」
「あ、そうです、多分そんな感じです」
要領を得ない守くんの説明をなんとか頭の中で組み立て直しながら、
簡潔にまとめるアミーお姉さん
そして、とても簡単になった言葉を彼に肯定され、
ますます訳が分からなくなってしまいました
(どういうことかしら・・・、誰かに教わったわけじゃなくて女神様に力を貰ったと、
そう言ってるみたいだけど・・・、そんなことが本当にあり得るの・・・?)
(彼が嘘を付いてるようには思えないけど・・・、
・・・あ、もしかしたら信心深い家系だから、持って生まれた、あるいは習得した力を
女神様からの賜物だと、そういうつもりで言っているだけなのかしら)
(うん、それならまだ分かるわ、そう考えた方が自然ね)
やはり女神様に出会い、魔法の力を貰ったと言われてもすんなり信じられないらしく、
お姉さんは自分の中で彼の言葉を辻褄が合うように解釈します
そんなお姉さんの様子を見ていた守くんは、彼女が何か考えていることに気が付きます
そして、それが自分の言葉に対する疑問だということもすぐに分かり、
話題を変えたいとでも思ったのでしょうか、目に付いた物に関する質問を投げかけました
「あの・・・、そういえば、ここではみんな日本語をしゃべってるんですね?
さっきから見える看板の文字も全部そうだし、僕が名前を書いた紙も
ちゃんと日本語で書かれてたし・・・」
「え? ニホンゴ・・・? それは言語の名前、なのかな?
みんなが喋ってるのはフィリィ語だけれど・・・、
ほら、女神様の名前と同じ言葉よ? 聞き覚えはない?」
「えっ? あ、そうなんですか・・・? フィリィ語・・・、
女神さまと同じ名前・・・、なんですか?」
「あ、あら・・・? 女神様にお会いしたことがあるって言ってたから、
もちろん名前も知ってると思ったのだけど・・・」
「えっ? あ、あの・・・、その・・・、そういえば、聞いてません、でした・・・、
あの・・・、本当に・・・」
不思議そうな表情で質問を返すお姉さんの顔を見て、
守くんは自分の言っていることがとてもおかしいのだと理解し、
声も段々と小さくなっていきます
女神様に直接出会い、この世界へ連れて来られたと散々繰り返しておきながら、
その女神様の名前すら知らなかったのです、
これで誰かに自分の言葉を信じてもらおうという方が無理でしょう
言っていることは紛れもない真実なのですが、
守くん自身、自分の言葉が誰かに信じてもらえるようなものだとは思えませんでした
そして、これでは嘘つきだと思われても仕方ないのではないか、
そんなことを考え始めてしまいます
(どうしよう・・・、もしかしたら、アミーお姉さんは僕のこと
嘘つきで変な子なんだって思ったのかも・・・)
(そうだよね・・・、女神さまに会ったっていうのに
お名前も聞いてないなんて・・・、信じてもらえるわけないよ)
(これ以上変なこと言わない方がいいのかな・・・、
何か聞いたらまた変な顔されちゃうかも・・・)
顔を俯かせ、不安そうな表情を浮かべる守くん
すると、そんな彼の様子を少しの間黙ってみていたお姉さんは、
急に立ち止まり、しゃがみこんで目線を合わせつつ声を掛けます
「マモルくん?」
「あっ、あの、ごめんなさい・・・」
「私の目を見てくれる?」
「えっ? あの・・・、こうですか?」
「うん、それで・・・、お姉さんの質問に答えてくれる?
あなたは・・・、決して嘘を付いてはいないのね?」
「あ・・・、嘘じゃ、ありません・・・、僕、嘘つきじゃありません・・・」
咎められていると思ったのでしょうか、
守くんはお姉さんの顔を見ながら涙ぐんで自分の言葉が真実であることを訴えました
すると、アミーお姉さんはにっこりと笑い、
彼の頭を優しく撫でながらこう言います
「うん、分かったわ♪ お姉さんは、あなたのことを信じます♪」
「えっ・・・? でも・・・、でも・・・」
「不安にさせてごめんなさい、女神様に出会ったと言われて
すぐには全部信じることができなかったの・・・、でも、少なくともマモルくんは
嘘を付けるような子じゃないわ♪」
「あの・・・、じゃあ、信じてくれるんですか・・・?
僕がこの世界の人じゃないってこと・・・」
「もちろんよ♪ そう言ったじゃない♪ だからあなたのこと、
いっぱい聞かせてちょうだいね?♪ もちろん私もあなたに
この世界のことをいっぱい教えてあげるから♪」
「あの・・・、あの・・・、あ、ありがとうございます・・・♪ ぐすっ・・・」
「よしよし、いろんなことがあって大変だったでしょう?♪
お話はこのくらいにして、そろそろお家で休みましょうね♪
ほら、私の家、もうすぐそこなの♪ ほら、見えるかしら?」
「あ・・・、はいっ♪ あれがアミーお姉さんのお家、なんですね」
「ううん、ちょっと違うわね・・・、今日からは、あなたのお家でもあるのよ♪」
「・・・はい、ありがとうございます♪」
目じりに涙を浮かべながらも笑顔を見せる守くんを見て
お姉さんはもう一度微笑んで見せると、立ち上がって
手を引きながら自宅へと歩いていきます
守くんの言っていることを一から十まで信じられたかどうかは定かでありませんが、
少なくとも彼は嘘を付いていないとして接することを決めたようです
そのまま二人は、立ち並んでいる小さな家の内の一つ
扉に小さな模様を付けた家の前で止まりました
「はい、到着よ♪ ここが今日から私たちのお家、
さ、入って入って♪」
「はい、お邪魔します」
「あら、違うでしょう? 外からお家に帰って来た時は
『お邪魔します』じゃなくてもっといい言葉があるはずよ?」
「えっ? ・・・あ、た、ただいま・・・?」
「はい♪ よくできました♪」
異なる世界において、新しい家族とお家に出会うことができた守くん
ここから、ようやく彼の新しい、少し刺激的な生活が始まろうとしています
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