第三話 新しい家族
「ええと・・・、それであなた・・・、マモルくんはそのナカヤシって場所に住んでると、
そう言うのね・・・?」
「ふぁい・・・、本当なんです・・・、そこで女神さまに出会って
この世界へ来たんです・・・」
「う~ん・・・、とにかくおとうさんもおかあさんもいないということか・・・、
さてどうしましょう・・・」
先ほどまで荒野にいた女性と守くんは、いつの間にやら
小さな一室であれこれと話をしていました
大蛇を退けたはいいものの、目の前の女性に抱きしめられ、
鼻血を出して気絶してしまった守くん
どうやらそのまま近くの町まで運ばれて事情を聴かれているようです
守くんは血を止めるための栓を鼻に詰めたまま、なぜあのような場所にいたのか正直に話しました
ですが、別の世界から女神さまの力でこの世界へ来たなどという話はそのまま鵜呑みにできないらしく、
女性は困ったような表情を浮かべています
(困ったわねえ・・・、話を聞いても要領を得ない答えばかりと来ましたか・・・)
(ナカヤシなんて名前の地区はこの国にないし、
そもそもどうしてあんな危ない場所にいたのかしら)
(・・・やっぱり親御さんに何かあったのか、それとも彼は・・・、
いずれにせよ、待っていたところで親族の引き取り手が来ることはまずないでしょう)
(となると・・・、施設へ預けることになるか・・・、
でも私としては、だけど・・・、まず、本人の意志を確認しましょう)
守くんを見ながら、女性はいろいろな想像をしつつ思考を巡らせ、
彼の扱いをどうするか決めようとしています
そんな女性の顔を不安そうに眺めながら、守くんも守くんでいろいろと考えていました
(うう・・・、鼻血出して倒れちゃうなんてかっこわるい・・・、
なんでこんなことになっちゃったんだろう・・・)
(お姉さんに抱きしめられたら急に頭がぼーっとしちゃって・・・、
変なの・・・、今でも見るだけでドキドキしちゃう・・・)
(せっかく女神さまからそしつ、をもらって魔法が使えるようになって、
怖かったけどモンスターと戦えるようになったのに・・・)
(そしつ・・・、そういえば、よく分からなかったけど必要だからって
もう一つ女神さまにもらったような・・・)
どうしてあんなにかっこ悪く、恥ずかしいことになってしまったのか
その原因を一生懸命に探ろうとしています
ですが、そこへ不意に声をかけられ守くんの思考は中断されました
「マモルくん? ちょっといいかな?」
「えっ、あっ、はい、なんでしょう?」
「とにかく、あなたのお家はこの国になくて、おとうさんもおかあさんもこの国にはいらっしゃらないと、
そこは間違いないのね?」
「はい、そうです」
「となると・・・、あなたは身元不明の孤児ということで、通例に従えば施設へ預けられることになるわね、
つまり・・・、一人ぼっちの子供たちが集められた場所へ行くことになるわ」
「えっ!? そうなんですか・・・?」
「あなたが済む場所も、世話をしてくれる人もいないということは当然そういうことになるわね、
どなたか親戚の方でもいらっしゃれば・・・、それか信頼できる知り合いの方なら引き取ってもらうこともできるけど」
「ここには僕の知ってる人はいません・・・、女神さまに連れてこられた世界なので・・・」
「ああ・・・、そうだったわね、ごめんなさい、となるとやっぱり
施設で他の子どもたちと一緒に、ということになるんだけど・・・」
「うう・・・」
異世界に来て間もないうちに、孤児院のような場所へ預けられると聞かされ、
守くんはとても不安になってしまいます
見知らぬ場所でたった一人、家族も誰も、帰る家もないということが
これほど心細いことだったとは、この世界に来るまで分からなかったみたいです
女神様の言う通り、リアルなゲームをするような軽い気持ちでここに来た守くんですが、
それを少しずつ、早くも後悔し始めていました
でも、そんな守くんを安心させるように、女性が笑顔で声をかけてきました
「だけど・・・、もう一つ、私があなたを引き取るという道もあるわ♪」
「えっ・・・?」
「あなたさえ良ければ、の話だけど、私があなたの保護者になるの、
そうすれば私の家で一緒に暮らすこともできるわ♪」
「お姉さんと一緒に・・・? 本当にいいんですか?」
「良いかどうかは、私があなたに聞いてるの、
もちろん、施設に行けばあなたくらいの子もいるし、お友達もできると思うけど・・・」
「ぼ、僕・・・、お姉さんと一緒がいいです・・・!」
「そう♪ じゃあ決まりね♪ 手続きしてくるから、ここで待っててくれる?」
「はい・・・♪」
女性は自分が守くんを引き取るという選択肢を提示し、
彼はすぐにそれを快諾します
守くんには、自分を助けてくれた、少なくともこの世界で唯一
面識があると言ってもいい女性が信頼できたのでしょう
女性はこの部屋で待つように言うと席を立ちますが、
扉の前に立ったところでふと足を止めて振り返ります
「そうそう、マモルくんの名前は聞いていたけど、
私の名前をまだ言ってなかったわね」
「あ・・・、そう言えば・・・」
「これから一緒に住む相手に対して名乗らないなんて失礼だったわね、ごめんなさい、
私の名前はアマリエ・クィストン、アミーお姉さんって呼んでちょうだい♪」
「わ、分かりました・・・、えっと、あま・・・、アミー、お姉さん・・・♪」
アマリエと名乗る女性は、愛称で呼んだ守くんに嬉しそうな笑顔を見せると
静かに扉を開けて部屋を出ていきます
ほどなくして誰かを連れて戻って来たアミーお姉さんは、
その人と二、三回言葉を交わし、何枚かの紙にいろいろ書いたかと思うと、
最後に守くんへ名前を書かせました
「はい♪ ひとまずはこれで良し、その他の手続きはまた後でするとして、
今日は家に帰りましょう♪」
「は、はい・・・、えっと・・・、よろしくお願いします・・・」
「うん、よろしく♪ それと、私たちは一応今日から家族、
まあ姉弟ってところかしら? だからそうかしこまらなくてもいいのよ♪」
「うぇ・・・? えっと、は、はい・・・」
「ん~・・・、ま、じきに慣れるでしょう♪ それじゃ行きましょうか♪」
「あ・・・」
アミーお姉さんはそう言うと、彼の手を取りしっかりと繋いだまま部屋を出ていきます
優しくて温かい手の感触に少しだけ頬を赤く染めながら、
守くんは彼女に引かれるまま歩き出し始めました
前途多難で不安ばかりの生活が始まりそうな守くんでしたが、
ようやく少しだけ良いスタートを切れたみたいです・・・
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます