第二話 守くん、お姉さんとモンスターに出会う
「女神様・・・? あれ、誰もいない・・・? ここ、どこ・・・、
あ、そっか、ここがいせかいなんだ・・・、じゃあ、魔法が使えるようになったのかな?」
女神さまがいた場所とはまるで違う、草木よりも石や砂の多い場所で
一人立たされる守くん
ここが異世界であるのだと実感しつつ、魔法が使えるようになったのか
試してみようとしたその時、後ろから声がかけられます
「あ、あなたここで何してるの!?」
「えっ? わっ!」
「お父さんやお母さんはどこ!? まさか一人でこんなところに!?」
「あっ、あのっ、えっと・・・!」
他の人がいたとは気付かず、突然声をかけられて驚いた守くんですが、
振り向いた瞬間更に驚いてしまいます
そこに立っていたのは、背が高くて髪が長く、
薄くてひらひらした服に身を包んだ、腰に剣を携えているとても綺麗な女性でした
ただ、あちらも守るくんの存在に驚いているのか、
とても狼狽えた様子でこちらを見ています
「ここは危険区域よ? あなたのような子供がいては危険だわ・・・!」
「ご、ごめんなさい、僕・・・、あの、ここに来たのは初めてで・・・」
「始めて・・・? いえ、今は事情を聴いている場合じゃないわ、
すぐにここを離れないとモンスターが・・・、あっ!」
「も、モンスター!? え、あの、ここにモンスターが・・・」
「大変、来るわ・・・!」
その女性は剣を抜くと、何もない場所に向かって構えながら
鋭い声で警戒を促します
すると次の瞬間、女性が向いている方向から
土煙と共に大きなヘビが現れました
青い色をしていて、頭にトサカのようなものが付いた、
守くんにとってはあまり見たことのないヘビです
「うわっ!! あ、あれがモンスター!? お、おっきい・・・!」
「やっぱりザン・ヴィーボラ・・・! 今は動いちゃだめよ!?
あいつは動くものを追う習性があるの!」
ザン・ヴィーボラという名前らしいモンスターから目を逸らすことなく、
女性が少し焦った様子で守くんに動かないよう言いました
でも、当の守くんはすっかり腰が抜けてしまったのか、
動きたくても動けない状態となっています
耳に届く音や目の前にある光景、その全てが想像していたゲームの世界とは何もかもが違う、
とてもとても現実的な今の状況に彼が委縮してしまうのも無理からぬことでしょう
「あ、ああ・・・」
「大きくはないけど一人じゃ手に余る相手ね・・・、でもここで退くわけにはいかない、
交戦の音を聞いて誰かが駆けつけることを期待するしかないわ・・・!
さあ、来なさい!」
挑発するような言葉を大声で投げかけると、女性はモンスターに向かって走り寄ります、
その動きは人間離れしているという表現が相応しく、
あっという間に距離を詰めたかと思うと、そのまま勢いよく大蛇の胴体へ斬りかかりました
「はぁっ! ・・・くっ、やっぱり固いわね、おっといけないっ! ふっ!」
「あわわわ・・・」
女性の攻撃はそれほど効果がなかったのでしょうか、
大蛇は攻撃に対してひるんだ様子を見せることもなく
大きく尻尾を振って女性を弾き飛ばそうとします
守るくんがはらはらしつつ見ているなか、
女性は宙返りしながらそれをかわすと
空中で手のひらを前に出しながら何か言いました
「ラー・グレース・ハイト!!」
「わっ!?」
女性が大きな声を上げた瞬間、いきなり空中に透明な鋭い物体が現れ
大蛇に向かって勢いよく飛んでいきます
しかし大蛇は身をくねらせてそれをかわすと、
今度は大きく身体をのばして自分の頭を振りかぶり、女性に叩きつけました
女性の身体を一回りも二回りも大きくしたような頭に勢いよくぶつかられ、
女性はそのまま地面に叩きつけられてしまいます
「ぐっ・・・、まさか全部避けられるとは、油断したわね・・・、
・・・あなた! もう動いていいわ! あいつが私を狙ってるうちに
早くここから逃げなさい!」
「あ、あわわ・・・、に、逃げ・・・?」
普通の人なら怪我だけでは済まないかもしれないほど
勢いよく落ちてきながらも、女性はゆっくりと立ち上がり守くんに逃走を促します
ですが、目の前に広がる光景があまりに衝撃的で
すっかり腰を抜かしてしまったんでしょう、
守くんはへたりこんだまま、動くことはおろか返事をすることもできません
「お願い、早くっ! ・・・腰が抜けてるみたい、やっぱりこの状況で動いてもらうのは無理かしら、
だったら・・・、さあこっちよ、来なさいっ! クォール・フォー! はぁっ!」
「あ、ああ・・・」
守くんの様子を見て、逃げてもらうのは無理だと判断したのでしょう、
女性は大蛇に挑発する言葉を投げかけながら、またよく分からない言葉を叫びつつ
手に持っていた武器を振り被ります
すると、不思議なことに剣の刃が赤い光を放出し始めました
そこへ大蛇の尻尾がもう一度襲い掛かってきますが、
今度は女性がタイミングを合わせて持っていた武器を振り下ろし、
逆に尻尾を弾き飛ばしてしまいます
「ぐぅっ・・・! 重たい・・・、そう何度も受けられるものじゃないわ・・・!
だけど、なんとかあの子から距離を取らないと・・・!」
「え・・・? 剣が、光ってる・・・、もしかして、さっきのも・・・、
あれが、魔法・・・?」
怖がり続けていた守くんですが、女性が起こした不思議な出来事が
女神様から聞いていた魔法なのだと気付き、恐怖も忘れて見入ってしまいます
ですが、それもあっという間に終わってしまいました、
なぜなら、女性はまた飛んできた大蛇の尾を迎撃することができず、
弾き飛ばされてしまったのです
「きゃあっ!! ぐっ・・・、まずい、わね・・・」
「あっ! ああ・・・、このままじゃあの人が・・・」
先ほどよりも危険な状態なのでしょうか、
最初と違い、女性はすぐに立ち上がることができず
地面に横たわったまま震える手で身体を起こそうとしています
そこへ、無慈悲にも大蛇が身をくねらせながら迫り、
大口を開けながら頭を振りかぶりました
目の前で自分を守ってくれていた人が危ない、
そう考えた瞬間、守くんの中に残っていた恐怖は消え去ります
「大変だ・・・、なんとかしなくちゃあの人が食べられちゃう・・・、
でもどうしたら・・・」
自分に何かできることはないのか、頑張って考えながら立ち上がる守くんですが、
高々と伸びる木のように背を伸ばせる相手に自分の力でできることなどあるはずがありません
そんな中、女性は起き上がった守くんを見て少しだけ安心します
(なんとか立ち上がってくれたみたいね・・・、あのまま逃げてくれればいいんだけれど・・・、
後の問題はこっちね、イチかバチか、食らいついてきた瞬間に剣を突き立ててやる・・・!)
守くんの心配をしながらも、自分を食べようとする大蛇を仕留める方法を考える女性
そんなことなど分からない守くんは、自分ができることを一生懸命考えます
「あんな化け物どうしたら・・・、あの人みたいに魔法が使えれば・・・、魔法・・・、素質・・・!
そうだ、女神さまにもらった・・・!」
立て続けに起きた衝撃的な出来事に、すっかり失念していた
素質の存在を思い出した守くん
そこへ、大蛇が大きく身体を逸らしたかと思うと
勢いよく頭を女性に振り下ろそうとします
「魔法・・・、魔法・・・! ラー・グレース・ハイト!!」
それを覚えていたのは女神さまに貰った素質の力でしょうか、
守くんが魔法を使いたいと願った瞬間、無意識のうちに呪文のようなものを唱えていました
すると、目の前に女性が出したものと同じ透明な・・・、
氷のように見える刃が複数現れ、大蛇に向かって飛んでいきます
横からの攻撃は予想外だったのでしょうか、
飛んでいった刃のうち何個かは当たり、大蛇はその巨体を地面に倒れ込ませます
「わ・・・! な、何か、ほんとに、出た・・・? それで・・・、あのへびに、当たっ、た・・・?」
「い、今の魔法は・・・!? 援軍が・・・? 違う、誰もいない・・・、
まさかあの子の・・・? ・・・いえ、そんなこと言ってる場合じゃないわ、今のうちに・・・!」
轟音を響かせ地面に横たわった大蛇と、その原因になった魔法を見て目を丸くする二人ですが、
女性の方が先に正気へ戻り、剣を支えにしてなんとか立ち上がりました
そして、まだ動いている大蛇の頭部まで近づくと、剣を振りかぶりながら呪文を唱えます
「これなら防げない・・・! クォール・フォー! でやぁっ!」
大きな掛け声とともに勢いよく振り下ろされた赤く光る剣は、
大蛇の頭にしっかりと命中し、鈍い音が響きました
するとその直後、地面に横たわった長い身体が頭から尻尾まで
まばゆい光を放ったかと思うと、それがおさまった瞬間大蛇の姿は忽然と消えてしまいます
「倒せた・・・! ねえ、あなた大丈夫? 怪我はない?」
魔物が退治できたことを確認すると、女性は剣を収めて守くんの側に駆け寄り
無事を確かめようとしました
大蛇が消えてしまったことで気が抜けたのか、守くんはその場に膝をつき、へたり込んでしまいます
「あっ・・・、と、大丈夫? 怪我は・・・、なさそうだけど、腰が抜けちゃったのかしら?
あなた、魔法使いだったのね」
「大丈夫、です・・・、でも・・・、魔法・・・、あれ、僕がやったんですか・・・?」
「あなたしかいないから間違いないと思うけど・・・、
実戦は初めてだったの? それにしても良く頑張ったわね、その年で大したものだわ」
「分からないです・・・、魔法・・・、手を出したら・・・、口が動いて・・・、何か出て・・・、蛇に当たって・・・」
「ああ、ごめんなさい、そうよね、初めての戦いだとしたら落ち着いていられるはずないわ、
ほら、大丈夫よ・・・、もうモンスターはいなくなったの・・・」
「あ・・・、わぷっ・・・」
うわごとのように訳が分からないことを呟く守くんの様子を見て
興奮状態にあると判断したのでしょうか、女性は優しい声をかけながら
守くんをしっかりと抱きしめます
柔らかく、暖かな身体に包み込まれて少しだけ安心できたのでしょうか、
守くんは段々と正気を取り戻しました
(そうだ・・・、僕、今魔法を使ったんだ・・・、それで、あの蛇に当たったんだ、
女神さまに貰ったそしつ、のお蔭なのかな・・・、ありがとうございます・・・)
(このお姉さん、あんなにいっぱい蛇にぶつかられて、大丈夫なのかな・・・、
でも、怪我してるみたいには見えない・・・、なんでだろう)
(どこからも血は出てないし、それに・・・、とってもきれい・・・、
あれ・・・、僕、なに、考えて・・・)
落ち着いてきた守くんは、自分を助けてくれた女性に怪我らしきものが見えないため、
不思議そうな顔をしつつも安堵します
でもどうしてでしょうか、なぜか今度は今まで気にしたことのないような部分が
色々と気になり始めました
とても美しい女性の顔立ち、布地が薄く身体の線が浮き彫りになった服装、
そして守くんの顔を優しく包み込む、とても大きな胸
どういうわけか、その全てに心をかき乱され、
取り戻したはずの落ち着きをどんどん失ってしまいます
(お姉さん、すごくきれい・・・、おっぱいもおおきくてやわらかい・・・、
僕、どうしちゃったの・・・?)
(胸がどきどきして・・・、頭がぼーっとして・・・、何も考えられないや・・・、
それに・・・、お鼻、むずむずして・・・)
守くんの思考は本人の意思に関係なくどんどんおかしな方向へ進んでいきますが、
考え事もそう長くは続きませんでした
一方、守くんを抱きしめていた女性は、
相手が落ち着いたように見えたからでしょうか、ゆっくりと抱きしめる力を緩めます
「静かになっちゃったけど・・・、もしかして寝ちゃった?
どうやら落ち着いてくれたみたいで・・・・・・、あら・・・? あらら?」
「きゅ~・・・・・・」
守くんが寝てしまったと思ったのでしょう、
女性は一度彼を放そうとしたものの、その顔を見て困惑してしまいました
それもそのはず、どういうわけか守くんはすっかり目を回しており、
鼻からたくさんの血を流していたのです
「ちょ、大丈夫・・・? やだ、すごい鼻血・・・、おまけに気絶しかけて・・・、
どこか怪我してたの? それとも苦しかった?」
「おね・・・さ・・・、お・・・ぱ・・・」
「た、大変、とにかく血を止めてあげないと・・・」
彼の異変に気が付いた女性は、鼻血を出している理由が分からないらしく狼狽えますが、
とにかく治療を試みようとします
少しだけ恰好が悪いない始まり方をした守くんの異世界生活
これから彼は一体どうなってしまうのでしょうか・・・
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