第54話 相談結果

 俺は、木下さんへ全てを打ち明けた。

 SNSの写真を盗撮していたのは京谷でありそのSNSを管理していたのは部活の後輩である姫織だったこと。

 二人へSNSで噂を流すよう指示していたのは、なんと紗季先生本人であり、京谷と姫織の弱みを握って裏で暗躍していたこと。

 そして今日、俺が呼び出されて、紗季先生に婚姻届を渡されて、好きだと伝えられたこと。

 俺はそれに対して、答えを出せないでいること。

 全てを打ち明けたところで、しばしの沈黙が休憩スペースに流れる。

 そして、木下さんはふぅっと重いため息を吐き出した。


「幻滅した」


 と一言だけ言って、木下さんは冷たい目を向けてくる。


「あんたの愛優に対する恋心って、そんなもんだったの?」

「そ、それは……」


 木下さんに的確な所を突かれ、何も言えなくなってしまう。

 そして、木下さんは再び大仰にため息を吐いた。


「結局みんな、最後には綺麗事言いつつ自分の都合いいようにしか動かない。それが楽だから……。他の人との関係を崩すことになってもね」

「でも俺の場合は……」

「須賀だって薄々わかってるんでしょ? 相反する自分の気持ちに踏ん切りをつけて決断することしかないくらい。それを理解してても、どっちを選べばいいか分からなくて、その苦しい気持ちを誰かにわかって欲しいからこうしてあーしに相談して共有してる。違う?」


 的確過ぎる木下さんの推察に、俺はぐうの音も出なくなり、ただ俯くことしか出来なくなってしまう。


「まっ……あーしからしたら須賀がどっちを選ぼうが自由だよ。ただどっちを選ぼうが、片方は傷つけることになる。その覚悟が出来てないから、あんたはこうして私に相談してる」

「……あぁ、そうだよ。結局俺は、どっちを選ぶにしろ失うのが怖い臆病者なだけだよ」


 テーブルに肘を置いて、両手で頭を抱えながら自分の弱さを認めて吐露する。


「俺も京谷や姫織と同じで、ただ自分のために利己的な考えしか持っちゃいない。他の人のことなんて考えられないくらい追い詰められてるってわけさ」

「それがもしかしたら、紗季先生の狙っていた思惑なのかもしれないね」


 そう指摘されて、俺は木下さんの意見が腑に落ちてしまった。


「まっ、あーしから何か言えるとしたら、須賀には愛優を選んで欲しい。それだけ」


 そう言って、話はこれで終わりとでもいうように、木下さんは席を立ち、飲み終えた缶コーヒーをゴミ箱に投げ入れて、学習机へ戻って行こうとする。


「一つ聞いていい?」

「……何?」

「木下さん。冷静で客観的に物事を見れて、論理的思考が出来るのに、どうして俺が田浦さんに告白するとき、SNSの件を田浦さんにあたかも本当であるかのように吹き込んだわけ?」

 俺が尋ねると、木下さんはふぅっと息を吐いてから、何の気なしに口にする。

「まっ、あーしも利己的に動かなきゃいけなかった理由があったって事かな」


 そう言って俺の方を見る木下さんの表情は、どこか物寂しさに溢れる笑みだった。


「そんじゃ」


 木下さんは手を上げて自席へと戻って行ってしまう。

 恐らく、木下さんもまた、何かしら悪事を突き止められてそうせざるお得なかったのだろうか?

 だとしたら俺は……学校で培ってきた仲間を選ぶか、昔馴染みとの縁を選ぶか……?

 その答えは……。

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