第50話 ついに姿を現した黒幕
「ふぅーごちそうさまでした」
「お粗末様」
紗季姉は久しぶりの俺の手作り料理にご満悦な様子で、椅子の背もたれに身体を預けてお腹をポンポンと手でさすっている。
お酒の酔いもいい感じに回っているせいか、鼻歌まで歌っている上機嫌っぷりだ。
俺は食器をシンクへと持って行き、テーブルを台吹きで吹いてからもう一度キッチンへと戻り、使った食器の後片づけを始める。
「海斗~……おつまみ~」
完全に背もたれに脱力して上機嫌の紗季姉が手を力なくこちらへ伸ばして、酒のつまみを催促してくる。
「はいはい、これ以上飲むと明日二日酔いになるから、おつまみもお酒も終わり」
「ええー⁉ べっつにいいじゃーん」
「良くない」
きっぱりと俺が言い切ると、紗季姉はテーブルに突っ伏して
「……」
唇を尖らせ、じーっと俺を見つめながら
しかし、俺はそんな紗季姉を完全に無視して皿洗いを進めていく。
シンクから流れる水の音と、時々お皿とお皿が重なる音だけがリビングに
しばらく無言が続いたので、ちらりと紗季姉の方を覗き見ると、視線が合う。
俺はすぐに視線を手元に戻して皿洗いに集中する。
「そうやってずっと駄々こねても何も出てきません」
「ちぇ……つまんないの」
そう言って、ぷぃっとそっぽを向いてしまう紗季姉。
「あっ……そうだ紗季姉」
「ん、何―?」
「この後ちょっと話したいことがあるんだけど。いいかな?」
「えぇーなになに? あっ、もしかしてぇー海斗、あたしと一緒にお風呂入りたいとか?」
いきなりにやりと笑みを浮かべたかと思えば、突拍子もない事を言ってくる紗季姉。
「……俺今までそんなこと一度も言ったことないよね?」
「でもほらー。こうして私と二人きりで会える機会がなかったから、ついに海斗も寂しさと欲求に我慢できなくなっちゃってー」
「んなわけあるか。もっと大事な話だよ!」
「なーんだ。つまんないの」
そう言って、つーんと唇を尖らせて突っ伏してしまう紗季姉。
全く、このお姉さんはどうしてそうエロい方向へ物事を持って行こうとするのかね。
そんなことを思いつつ、皿洗いを終えた俺は、タオルで手を吹いて水気を取り、紗季姉の座るテーブルへと戻った。
紗季姉の向かい側に座り、俺はポケットからスマートフォンを取り出して、テーブルへと置く。
「それで……大切な話って何かしら?」
ゆっくりと身体を起こして、肩や首を回しながら何の気なしに聞いてくる。
それに対し、俺は背筋を伸ばして、真っ直ぐ紗季姉の顔を見据えながら口を開いた。
「単刀直入に言うけど……今回の件、全部最初から罠を張ったのって紗季姉だよね?」
「何が?」
「俺が紗季姉と付き合ってるって噂を流すように指示したの」
一瞬、紗季姉が俺をじっと睨みつける。
けれど、すぐに視線を逸らしてため息を吐いた。
「……どうしてそう思うのかしら?」
「前々から可笑しいと思ってたんだ。誰かに脅されてない限り、京谷や夢香ちゃんが俺を陥れるようなことするわけがないって。それも全部、二人の情報を紗季姉が握ってたから、指示したものなんでしょ?」
「……二人が話したの?」
「まあ、詳しくは聞いてないけど、大体の察しは付いてる」
「……そう」
一つため息を吐いた紗季姉は、すっと俺の方へ冷たい視線を向けてくる。
そして、今まで見たことのないような平然とした様子で、淡々と言い放つ。
「そうよ。これは私が全部仕向けた罠よ」
俺の目の前に座るのは、お隣に住む明るいお姉さんではなく、悪魔のような魔女だった。
「紗季姉はこんなことして、何が目的?」
「そんなの。あんただって分かってるでしょ?」
俺は首を横に振る。
「分からないよ。だって、俺にとっても紗季姉にとってもメリットが無いことなのに。どうしてこんなことしたの?」
俺が問い詰めるように追及すると、紗季姉は深いため息を吐いて席を立つ。
そして、スタスタとそのままリビングのドアに向かって歩き出してしまう。
「ちょっと、勝手にどこに行くんだよ⁉」
すると、紗季姉はドアの前で立ち止まる。
「明日の朝、家庭科室に来て頂戴」
それだけ言い残して、リビングの扉を開いて玄関へと向かって行ってしまう。
バタンと無造作にドアが閉められ、リビングには静寂が訪れる。
俺は脱力して椅子にもたれかかってしまう。
「なんなんだよ一体。何でこんなことになっちまったんだよ……」
そんな言葉だけが、俺の口から漏れた。
けれど、遂に黒幕を追い詰めるところまでやってきた。
ここからはもう明日の決戦に向けて、魔王城へ乗り込む準備を整えるだけだ。
ついに、最終決戦が幕を開ける。
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