第48話 最終決戦前の準備
姫織との話を終えて、俺は一人視聴覚室を後にして、帰路についていた。
夕陽が俺の背中を照らして、アスファルトの上に長い影が伸びる。
「……須賀君」
「……田浦さん」
そんな帰り道、駅に向かう途中の四つ角で、俺を待っていたかのように現れた田浦さんに声を掛けられた。
「説得は上手く行った?」
田浦さんは間髪入れずに心配そうな声でそう尋ねてくる。
「どうだろうな。姫織の気持ちに整理が付くまで、しばらく時間が掛かるだろうから、一旦様子見ってところかな」
「……そっか」
姫織の俺に対する気持ちは簡単に切り替えられるだろう。
しかし今回の場合、彼女の抱える過去の苦しみと複雑に事情が絡み合っているため、彼女がそれを乗り越えなければ、幸せな道を進み報われることはないのだ。
そのためには、まずは姫織自身が今後どうしていきたいのか、指針をしっかりと示す必要がある。
そこまで姫織に俺はこれ以上深入りできる立場にはいないので、後は彼女自身が変わってくれることを願うしかない。
「その……ありがとう」
そして俺は、田浦さんに感謝の言葉を述べた。
「……えっ、何が?」
「そのぉ……姫織の件に本当は田浦さんも色々言いたいところはあっただろうけど、俺が一人で解決したいって気持ちを考慮してくれて」
姫織が裏でSNSや裏サイトを管理していた件。
噂を流した元凶であることを知っていた田浦さんとしては、本当は俺と一緒に解決したかったのではないかと思ったのだ。
「そりゃまあ、私はそんなに小林さんと面識ないわけだし、直接何か訴えかけても心に響くものじゃないから」
しかし、田浦さんは意外にも、あっさりとそう答えたのである。
「まあ、それもそうか」
俺も納得して頷いたところで、気持ちを切り替えて腰に手を当てる。
「んでだ。……恐らく次が最後になると思うんだけど、どうする?」
「須賀君はどうしたい?」
肩をすくめて、俺に試すような視線を向けてくる田浦さん。
こんな状況でも、彼女はこの場を楽しんでいるかのように見える。
だから俺も、ありのままの気持ちを答えた。
「そりゃ勿論……最後の一番厄介な相手だからね。俺としては、その場に田浦さんがいてくれた方が心強いに決まってるよ」
「……そっか。なら須賀君がそれを望むなら。私も一緒に戦うよ」
そう言って、田浦さんは俺の腕にそっと手を絡めてくる。
夕陽に当たっているせいか、頬が少し赤くなっているように感じた。
「まっ……やるっきゃないもんな」
「うん……そうだね」
お互いの決意を確認し合ったところで、俺は前を向いた。
「行こうか」
「うん」
意を決して、俺と田浦さんは最終決戦に向けて歩き出す。
まあ最終決戦と言っても、まだ戦う日程も決まってなければ、ただ二人で決意を固めて駅に向かうだけなのだけれど……。
「あのさ、田浦さん」
「ん? 何、須賀君?」
「この問題が全部解決したら、田浦さんに伝えたいことがあるんだけど、聞いてくれる?」
俺がそう尋ねると、田浦さんはしばし黙考した後に、ちょっと引きつった笑顔で言ってくる。
「そうだね。もし全部解決した時はね」
田浦さんの口調には、そう簡単に解決できるようなものではないという意味が内包されているように感じた。
実際その通りだと思う。
いわば俺たちが今から立ち向かおうとしているのは、ダンジョンでいう魔王。
つまりはこの問題の発端であり元凶にして覇者。
史上最恐の相手なのだから。
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