第44話 冷淡な後輩
SNSの犯人が京谷だと判明して、一週間が経過した。
事の次第について、俺は教頭先生からの呼び出しを食らい事実を説明。
そして、SNSの事件は京谷の独断での犯行ということで結論づけられた。
教頭からはSNSのアカウントを削除することを条件に、京谷への厳重注意が行われ、停学処分などの罰はなく、お咎めなしという形で事態を収めた。
学校側としては、あまり事を大きくしたくないのだろう。
まあ俺としても、学校側が何か具体的に対策してくれないのはわかっていたことなので、これ以上どうこう言うつもりは無い。
しかし、 一度大きく空いてしまった穴というものは、簡単に埋まるものではないのである。
京谷とはあれ以降、顔を合わせることもなく、俺は教室で孤立状態になっていた。
時々田浦さんが様子を窺いに来てくれるものの、どこかぎこちない様子で苦笑いを浮かべるだけで、それ以上事件のことについて言及してくることはない。
六時限目の授業が終わり、HRを済ませて俺はさっさと教室を後にする。
向かったのは、俺が今現在学校で唯一のオアシスとなっている所。
視聴覚室へ入ると、PC画面に向き合いながら、部活動に勤しむ後輩の姿が目に入る。
姫織はくるりとこちらを見ると、にこっと花咲くような笑顔を向けて来てくれる。
「先輩、お疲れ様です」
「おう……お疲れさん姫織」
そして、いつものように隣の席へと腰かけ、隣のPCの電源を付ける。
「先輩、今日もアペのランクマします? それともスイッチで違うゲームしますか?」
「そうだなぁ……姫織は何かやりたいことあるか?」
俺が尋ねると、姫織は指を顎に当てながら虚空を見上げる。
「そうですねぇー……あっ! そうだ」
すると、姫織は何やら閃いた様子で両手を合わせてキラキラした瞳を向けてきた。
「せーんぱいっ! なら姫織、ちょっと行きたいところがあるんですー」
「行きたいところ?」
「はいっ! ついてきてください!」
そう言って、さっと手際よく立ち上がった後輩は、俺へ有無を言わせぬまま視聴覚室の扉の方へと向かって行ってしまう。
「姫織⁉ どこ行くんだよ!」
俺は慌てて席を立ち、急ぎ足で姫織の後を追っていった。
昇降口で靴に履き替え、向かった先はグラウンド。
そこでは、トラックで陸上部が、中のコートではサッカー部が練習をしている。
姫織はそのまま何食わぬ顔でグラウンドの端にあったベンチへと腰かけた。
「さっ、先輩も座ってください」
「お、おう……」
促されるようにして、俺は姫織の隣へ腰かける。
そして、二人とも無言のまま、部活動に勤しむ生徒たちの様子を見つめた。
コートの中央では、サッカー部が紅白戦を行っており、元気よく声を出しながらボールを追いかけている。
しかしそこで、俺は妙な違和感を覚えた。
その違和感の正体に、俺はすぐに気が付いてしまう。
俺と姫織が座るベンチの向かい側、ベンチメンバーと思われる選手たちが紅白戦を羨ましそうに見学している。
その輪の中に、一人ポツンと京谷が立っているのだ。
タイミングを見計らったように、姫織が声を掛けてくる。
「三浦先輩。今回の件でこの一週間ずっと練習に身が入らなかったせいで、メンバーから外されたらしいですよ」
「そ、そうだったのか……」
この一週間、俺は京谷と話すどころか、顔すら合わせてこなかった。
だから、知らないと言えば当然なのかもしれない。
けれど、姫織がここへ俺を連れてきた理由がなんとなくわかった。
「先輩、三浦先輩と何かあったんですか?」
そう言って、姫織は俺の顔を覗き込むようにして尋ねてくる。
「……」
俺は姫織からの質問に答えずに黙っていた。
「なんか答えてくれないと、余計に怪しいですよ」
「別に……お前には関係のない事だろ」
俺が少し突き放すような口調で言って顔を逸らす。
「もーっ、ちゃんと喧嘩したら、仲直りしないとダメじゃないですかー」
「だから、別にそう言うんじゃ……」
「あっ……三浦先輩がこっちに気づきましたよ」
姫織の言葉につられ、俺は視線を京谷の方へと向けてしまう。
一週間ぶりに目を合わせた二人。
京谷は、自分の惨めな姿を見られたことが相当嫌だったのか、すっと背を向けて近くにあったボールを蹴り出してしまう。
「はぁ……三浦先輩があんな調子じゃ。推薦どころの話じゃなさそうですね。もう少し期待してたのに」
そうつまらなそうに姫織は言い捨てるように言葉を放つと、すっと席を立ちあがる。
「おい……どこ行くんだよ?」
「戻りましょ先輩。もう三浦先輩を見てても時間の無駄です」
冷淡な口調を崩さず、スタスタとグラウンドを後する姫織。
俺は急いで姫織の後を追いかけてグラウンドを出る直前で、ちらりと京谷の方へ視線を向ける。
京谷は相変わらず、リフティングをしながらこちらへ視線を向けようとはしない。
ったく、俺と紗季姉を陥れておいて、何やってんだよアイツは……。
そんな何とも言えない気持ちを覚えながら、俺は姫織の後を追って視聴覚室へと戻っていくのであった。
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