第34話 その人の裏にある顔
俺は京谷といつものように学校生活を過ごし、気づかれぬように注意深く動向を観察してみた。
けれど、特に何も手がかりを見つけることは出来なかった。
それどころか、京谷は声を掛けられたら誰にでも明るく振る舞って接し、校舎裏でゴミ捨てに行った時は、腰を痛めた用務員さんの代わりに手伝いをかって出て荷物を運び、自転車置き場で迷い込んだ子猫の母猫を熱心に探したりと、悪事が出るどころか知れば知るほどいい所しか出て来ない。
放課後の部活動では、グラウンドで誰よりも人一倍声を出して練習に励んでいる姿があった。
そんな完璧超人な京谷の姿をお腹いっぱい
「改めて思ったけど、どうして俺って京谷なんかとつるんでるんだろう?」
思わず、そんな独り言が漏れてしまうほどに、俺と京谷には天と地の差があった。
「今さらそんなことに気づいたんですか? 先輩の目ってもしかして節穴?」
「うるせぇな。お前にだけは言われたくねえよ」
青みがかった髪をサイドテールに結び、サラッと俺に
「だってそうじゃないですか。見た目もパッとしない先輩と違って、三浦先輩は顔もよくて性格も優しくて笑顔を
「やめて、今そんな純粋な疑問投げかけられたら傷ついちゃうから!」
「じゃああえて聞きますけど、先輩はいつから三浦先輩と仲良くなったんですか?」
「酷い! 俺のメンタルあえてえぐりに来るとか、どんな神経してんだお前!」
「やだなぁー後輩の純粋な疑問じゃないですかぁー」
冗談っぽく手をぱたぱたと振って笑みを浮かべる姫織。
彼女のあざとさは多少イラと来るけど、俺もそこまで
俺は椅子に座って腕を組むと、当時のことを
「あれは、俺が入学して間もない、四月半ばのことだった」
「あっ、そういう前置きとか面倒くさいんで、完結に言ってくれればいいですよ」
「少しは語らせてくれよ!」
本当にこの後輩は、俺の扱いが容赦ない。
「まああれだ。たまたまグループワークの授業で話す機会があって、そこで話して仲良くなったって感じだよ」
「ふぅーん……なんか普通でつまんないですね。もっと衝撃的なスパイスが欲しかったです。例えば、一人の女子生徒を
「……どこの世界のフィクションだよ。非現実的でありえねぇだろそんな出会い
「だってその
「お前は漫画の見過ぎだ。そんな大層なことは現実には起きねぇよ」
「なーんだ……つまんないの」
興味をなくした様子で、姫織はPC画面へと視線を戻し作業を再開してしまう。
「ってか、京谷って一年の間でも有名なのか?」
「そりゃそうですよ。むしろ、一番の人気者と言っても過言ではないです」
「姫織もやっぱ。京谷みたいなイケメンに憧れたりするのか?」
「うーんそうですね……私はどちらかというと現実主義なので、先輩みたいに毎日姫織のくだらない話に付き合ってくれるような人が好きですよ♪」
「あーはいはい。あざとい、あざとい」
「何があざといんですか!」
PCの手を止めて、俺の方へと身体を向けて不満げにぷくぅーっと頬を膨らませる姫織。
そう言う所だぞ。
「でも、なんか意外だわ。てっきり姫織も、京谷みたいな奴が好きなのかと思ってた」
俺がそう言うと、姫織はすっと冷めた表情を浮かべて、PC画面を見つめる。
「姫織は、誰にでもいい顔して、自分を犠牲にしてまで手を貸してくれるような人はあんまり好きじゃないです。まっ、姫織がいえる立場じゃないですけど」
あまりに姫織の真剣な口調に、俺は返答に困ってしまう。
しばし視聴覚室に沈黙が流れると、はっと我に返った姫織がニコッと笑みを浮かべる。
「なーんてね! まっ、今の姫織は自分のやりたいことをやってるだけなので! 三浦先輩のことなんてこれっぽっちも興味ありませんよー」
そう誤魔化すようにして、姫織はPC画面へ視線を移して作業に戻ってしまう。
まあ、人間誰にも言えない隠し事の一つや二つあるものだ。
俺だって、未だに好きな人へ自分の気持ちを伝えられていない。
れっきとした隠し事をしているわけだ。
姫織や京谷にも、他の人には言えない隠し事があるのかもしれない。
もしそれが、今回のSNSと関係があるのなら……。
きっとそれは、そいつにとっては他人を犠牲にしてまでやらざる終えなかったことなのだろう。
それなら、俺は俺なりにやらせてもらうことにする。
たとえそれが、他人を傷つける結果になるとしても。
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