第30話 協力体制

 修学旅行最終日。

 バスで向かったのは、火災焼失で有名になってしまった首里城しゅりじょう

 その間、俺は京谷とずっと引っ付き虫のように行動を共にした。

 もちろん理由は、周囲からの視線を避けるため。

 今日の朝方から、俺は例のSNSの件で、興味と奇異の混ざった視線を多くの生徒たちから受けていた。

 もちろん、京谷もSNSでその情報を得たのだろう。


「今日は出来るだけ俺に着いてろ」


 と、フォローしてくれたのだ。

 京谷も俺をおもんばかって行動してくれているけど、もしこれで裏工作している協力者が京谷であったら、虫唾むしずが走りそうになる。

 けれど、他の何も事情を知らない奴らに嘲笑されるよりはマシだった。

 それにまあ、今俺と京谷の隣には――


「ニュースで知ってはいたけど、実際に見ると火災の恐ろしさを身に染みて感じちゃうね」


 田浦さんが火災の爪痕残る首里城跡を見て、呆然とした様子で立ち尽くしていた。


「火気厳禁。基本的でもこういう有名な世界遺産で起きると、他人事じゃないんだなって実感するよね」

「ホント。火元がある場所では気をつけないとね」


 そんな他愛のない会話をしつつ、俺は田浦さんと一緒に行動を共にしていた。

 これこそ、昨夜の夜に田浦さんが提案してきた作戦。

 例のSNS事件後、紗季先生との接触を避けるため、俺と田浦さんが一緒に行動することによって、京谷、木下さんが自然とついてきて四人体制になる。

 もしこの状況で紗季先生が近寄ってきたら、京谷と木下さんに紗季先生の隣は任せ、俺は出来るだけ自然と田浦さんの隣のポジションを維持しておく。

 これが目先の修学旅行での目標。

 他の人を寄せ付けることなく、合法的に田浦さんと隣同士で一緒に行動できるという、なんとも素晴らしい案だった。

 もちろん、これは京谷と木下さんがいなくては成り立たない。

 心苦しいけれど、二人を利用することによって紗季先生が俺に近づいてくるための壁を築いているのだ。

 紗季先生との噂が再熱している以上、他のクラスメイトの女の子と行動することが悪手であることは分かっている。

 それでも、田浦さんは俺を信用してこの役を買って出てくれた。

 感謝するにもしきれない。

 だからこそ、俺は絶対にSNSへこの情報をばらまいた黒幕を見つけ出さなくてはならないのだ。

 そんな決意を胸に秘めつつ、一同は首里城周りの観光を終えた後、バスに乗り込み、那覇空港へと向かった。

 帰りの飛行機のフライト時間まで余裕があったので、生徒たちにはしばし空港内で自由時間が与えられた。

 ここまで、紗季先生が俺たちに声を掛けてくる様子はない。

 自由時間を与えられて、俺は何の気なしに京谷へ声を掛ける。


「京谷は何か買うものある?」

「いやっ、特にはないかなぁ」

「俺はちょっと適当にそこら辺散策してみようかなって思うけど、京谷はどうする」

「まっ、しょうがねぇから俺も付き合ってやるよ」


 そう言って重い腰を上げて立ち上がる京谷。

 すると、隣の方から田浦さんが声を掛けてくる。


「須賀君と三浦君、お土産買いに行くの? 良かったら一緒に見て回らない?」

「うん、俺は全然平気だけど、京谷は?」


 自然な流れで京谷へ尋ねる。


「あぁ、別にいいけど」


 不審がる様子もなく、京谷は快く一緒に行動することを許可してくれる。


「ありがとう。ほら、夢香も一緒に行こ!」


 そう言って、田浦さんが疲れ切った様子の木下さんを起き上がらせようとする。


「えぇ……別にアーシはいいって。買うものも特にないし。ゲームしながらここで荷物番してるから、三人で行ってきな」

「うん、分かった……それじゃあ、申し訳ないけどそうさせてもらうね」

「はいよー」


 木下さんは本当に疲れている様子で、腰かけながら力なくこちらへいってらっしゃいと手を振って見送ってくれた。

 三人はお土産ショップへと向かい、目新しいものがないか吟味する。


「俺、このパイナップル味のハ○チュー買おうかな」

「いいね、沖縄らしくて!」

「そうかぁ? それなら、もっとサーターアンダギーとか沖縄らしい物の方がいいんじゃねーの?」


 そんな会話を三人で繰り広げながら、買い物を済ませて荷物番をしていた木下さんの所へと戻った。

 結局、紗季先生が俺たちの元へ声を掛けて来ることはなく……。

 しばらく雑談に興じていると、続々とお土産を購入し終えた生徒たちが戻ってきて、最後に先生たちも各クラスごとに整列している列の前に立つ。

 帰りの飛行機のチケットが配られ、俺と京谷はまたも隣の席。

 そして、田浦さんと木下さんも横隣の席になった。

 保安検査場を無事に通過して、搭乗ゲートから飛行機へと乗り込み、指定された席へと座る。

 あとは、都内へと戻るだけだ。


「なんか、二泊三日ってあっという間だったな」

「ホント。ふあぁぁぁ……機内ではゆっくり寝れそうだぜ」

「まあ、みんな昨日は盛大に夜更かしして疲れてるから、行きに比べて随分と静かだろうね」

 

 そんなことを思いつつ辺りを見渡すと、隣に座っていた田浦さんが既に首をたれてうたた寝していた。


「あははっ……疲れがたまってたんだろうね」


 俺は思わずそんな田浦さんの様子を見て、ほっこりとしてしまう。

 通りかかったCAさんへブランケットを頼み、受け取ったブランケットを田浦さんにかけてあげた。

 飛行機なら紗季先生が訪れることもないだろうし、俺も先ほどまで警戒していた神経を緩めた途端、一気にどっと疲れが押し寄せてくる。

 そのまま気づいたうちに、まぶたを閉じて俺と田浦さんは眠りについてしまったのであった。

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