第28話 混乱する私~愛優Side~

 同時刻、女子部屋。


「はぁ……今日は疲れたね夢香」

「楽しかったじゃなくて疲れたって言葉が出てくるあたり。愛優もまだまだだね」

「ふぃーっ」


 私はボフっとベッドにうつ伏せに倒れ込む。


「あー……このまま今日はぐっすり寝れる」

「今日の観光ぐらいでへばってるようじゃ、愛優も須賀を満足させることできないよ?」

「ど、どういうこと⁉」

「そりゃもちろん。愛優が須賀と夜に――」

「待って、それ以上はやっぱり言わなくていい!」


 うつ伏せの状態から瞬時に起き上がり、夢香の言葉をさえぎって制止する。


「それに、本番はこの後なんだから、寝ちゃダメっしょ」

「へっ……?」

「須賀に告るんっしょ?」

「……えぇ⁉」

「何驚いてるんだし……」


 夢香から言われ、私は動揺してしまう。

 そりゃまあ、そういう雰囲気になったら告白しようかなぁ……とは、軽い気持ちでは思ってたけど……。


「で、でも……今はそう言う雰囲気じゃないというか」

「逆に愛優はどういう雰囲気だったらいいわけ? 非日常での高揚した修学旅行の夜。これ以上に須賀との距離を縮めるのに絶好のチャンス、そうそうないと思うけど?」

「そ、そうかもしれないけど……」

「はいはい、グズグズしてる暇があるんだったら、とっとと今から二人で合う予定を取りつける」

「えぇ……でも……」

「はぁ……ったくこれだから……」


 夢香がやれやれと言った様子でため息を吐いてこちらへ近づいてきたかと思うと、ベッドボードの棚で充電していた私のスマホをかっさらう。


「ちょっと、何してんの⁉」

「何って、須賀に約束取り付けるに決まってるっしょ」


 そう言って、当たり前のように私の暗証番号を入力してロックを解除する夢香。


「ちょ、何で私の暗証番号知ってるの⁉」

「にっしっしー。それは言えないね」


 私は慌てて夢香からスマホを取り返そうと手を伸ばす。

 しかし、夢香は日々のテニスで鍛えた身のこなしの良いステップワークで私の手を軽々避けてしまう。

 伸ばした手は空を切り、私はバランスを崩してベッドと壁の間の通路に頭から地面に転げ落ちる。


「いったぁ⁉」


 私が顔面を床に直撃して痛みに苦しんでいる間にも、夢香は物凄いスピードで事を進めていく。


「えっと、須賀……須賀……おっ、あった」

「ちょ、ちょっと待って夢香! 分かったから、ちゃんと会う約束取り付けるから、せめて文章だけは自分で書かせて!」

「……本当に?」

「うん!」

「じゃああーし須賀に返事送るまで目離さないからね?」

「わ、分かってるってば……」


 私はついに観念して、海斗君に会う約束を取り付けるメッセージを送ることになった。

 夢香からスマホを返して貰い、私はベッドに腰掛けて文章を考えながら打っていく。

 数分後。


「えっと、『今日はお疲れ様。突然で申し訳ないんだけど、須賀君と二人きりで話したいことがあるの。就寝後、0時に北階段の最上階の踊り場まで来れるかな?』……こんな感じでいいかな?」

「まあ、固い感じはあるけど愛優らしくていいんじゃない?」


 夢香からのお墨付きも貰い、私はふぅっと息を吐いてから、震える指で送信ボタンをタップした。

 すると、送信した瞬間に既読マークが付く。


「早っ⁉」

「おーっ? これは須賀の方も何か送ろうとしてた感じかぁ?」


 そんな憶測をにやにやと隣で語る夢香をよそに、しばらくして海斗君から返信が返ってくる。


『お疲れ様! うんわかった、その時間に向かうよ』


 私はその返事に、『ありがとう。待ってるね』と無難な返事を返してトークを強制的に終わらせてアプリを閉じる。

 そして、スマホを胸に抱え込むようにしながら、困惑してしまう。


「良かったじゃーん。これで準備は整ったっしょ」

「ちょっと待って、夢香! 私、約束取り付けたのはいいけど、これからどうすればいいの⁉」

「そんなの。会って自分の気持ちを須賀に伝えるだけっしょ」

「だから、それを具体的にどうやってすればいいのって聞いてるの!」

「さぁ? そこは愛優自身が決めることっしょ……!」

「まさかの丸投げ⁉」

「ってことで、ガンバー」


 そう言って夢香はすっとベッドから腰を上げて、そのまま自分のベッドの方へと歩いて行ってしまう。


「ちょっと待ってよ!!!」


 あぁぁぁぁぁ、一体私はどうすればいいのよぉぉぉ!!!

 ベッドに寝転がり、身体をゴロゴロと左右に揺らしていると、部屋のインターフォンが鳴る。


「就寝前の点呼よー」


 外から聞こえてきたのは、紗季先生の声。

 私が困り果てて死んでいるので、夢香が対応してくれる。


「ちぃーっす。二人共部屋にいますよ」

「そう、なら今日は夜更かししすぎないようにね」

「はーい」

「田浦さんもね」

「はぁーい……」

「それじゃ、おやすみなさい」


 紗季先生が軽い点呼を終えて出て行ったところで、私はスマホを開いて気持ちを落ち着かせるためにプラウザを開く。

 そして、『告白 女子から 方法』と検索して、女の子が男の子に告白する方法を探してみる。

 しかし、愛優が求めているような有益な情報は出て来ず。

 最終的には時間だけが過ぎていき、違うSMSのタイムラインをスクロールして見るだけの脳死状態に。

 そんな時だった。


「えっ……」


 とある投稿を見つけて、私は目を丸くしてしまう。

 そこには、目を疑うような投稿が写真付きで投稿されていたのだ。

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