第27話 逆呼び出し……⁉

 ホテルへと何事もなく戻り、夕食を食べ終えた後すぐに、今日の疲れを癒すため京谷と一緒に大浴場へと向かい、汚れた身体を洗い流して心を清めた。

 そして、風呂に入り終えた後、大広間で明日の最終日の予定が教職員から連絡されて、今は就寝前のしばしの自由時間。

 俺と京谷は歯を磨いて寝る支度を整えていた。

 まだ就寝時間まで時間があるものの、田浦さんへこれから再告白するという緊張からそわそわしてしまい、何かやっていないと落ち着かなかったのだ。

 テスト前日、無性むしょうに部屋の掃除に力を入れてしまうようなものだろう。

 まさに勉強からの現実逃避と同じで、告白からの逃避。

 おかげで、明日朝急いで身支度を整えなくていい程には、荷物整理も完璧に終えてしまった。

 手持ち無沙汰になったところで、気晴らし程度にテレビをつける。

 テレビ画面には、見たことのない地方局の番組が放送されていた。

 正直、面白いのかどうかも分からない。

 俺がベッドに腰掛けて貧乏ゆすりをしながらテレビを観ていると、ベッドに寝転がりながらスマホをいじっていた京谷に声を掛けられる。


「そろそろ呼び出さなくていいのか? 早くしねぇと就寝時間になっちまうぞ」

「いやぁ……就寝後の方がいいかなと思って。ほら、深夜の方が修学旅行の雰囲気的にもいいのかなって」

「まあ確かに、それでもいいとは思うけど、夜先生に見つかって反省文書かされる羽目になっても、俺は擁護しねぇからな」

「分かってるっての! ってか、そんなへまはやらかさないから!」

「だといいけどよ」

「やめて、そのフラグみたいな台詞!」


 こっちとら告白の緊張で、先生の目を気にしてる場合じゃないっての!


「まあでも、告るなら深夜の方が恋バナに花を咲かせてるかもしれないし、成功する可能性も高まるかもな」

「おう、そうだろ!」


 京谷の意見に、俺は大きく首を縦に振って同調する。

 まさに修学旅行の深夜テンションそのままに、気持ちを伝えることによってOKをもらう寸法。修学旅行マジックである。

 俺はその可能性にけているのだ。


「あーっ、でも田浦さん今日相当疲れてたみたいだし。もしかしたらすぐ寝ちゃってるかもしれないな」

「えっ……」

「そしたら、呼び出しても寝てるから気づかないよな。朝起きた時に気づいて、明日の午前中に、『昨日の夜送ってきてくれた話したい事って何?』とか聞かれるんだろうな」

「いやぁぁぁぁぁ!!」


 それだけはやめて。

 めちゃくちゃダサいしかっこ悪すぎて、俺のメンタルが持たないから。

 京谷に不安をあおられたせいで、俺は頭を抱えて身悶えてしまう。


「あぁぁ!! 俺は一体どうしたら!!」

「だから連絡は今のうちにしとけって。場所と時間指定しとけば、向こうも寝るわけにはいかないだろ?」

「なるほど! わ、分かったよ……!」


 俺は意を決して、スマホの画面と向き合う。

 トークアプリを起動して、田浦さんとのトーク画面を開く。

 そこで、俺はじっと画面を見つめたまま固まってしまう。


「ってか、どう言って呼び出せばいいんだ⁉」


 またもや新たな問題に直面してしまい、頭を抱えてしまう。


「別にそんなの。『ちょっと話したいことがあるから、何時にどこどこに来てくれるかな?』とか無難なのでいいんじゃね?」

「大丈夫だよな? 気持ち悪いとか思われないよね?」

「思われねぇっての。不安になるのも分かるけど、どんだけ自信ないんだよ」

「そりゃだって……」


 ピロン。

 俺が駄々だだをこねていると、メッセージの通知を知らせる音が鳴る。

 視線をスマホの画面に戻せば、今まさに開いている画面に、新着のメッセージが届いていた。


「……えっ?」


 その文面を見て、俺は唖然あぜんとしてしまう。

 なぜならトーク画面に新たに届いたメッセージには――


『今日はお疲れ様。突然で申し訳ないんだけど、須賀君と二人きりで話したいことがあるの。就寝後、0時に北階段の最上階の踊り場まで来れるかな?』


 と、俺が送ろうとしていたのと類似した文面が田浦さん側から送られてきたのだから。

 田浦さんの方から俺に話したいこと……。

 一体何だろう?

 これって、つまりそう言うこと⁉

 えっ……え⁉

 既にトーク画面を開いて既読を付けてしまっているので、今は混乱する気持ちをぐっと抑えて、無難な返事を返す。


『お疲れ様! うんわかった、その時間に向かうよ』


 ボチっと送信ボタンを押すと、すぐに既読が付き――

『ありがとう。待ってるね』

 と、返事が来て会話が終わる。


「ど、どどどどどどどうしよう京谷。なんか田浦さんの方から話があるって言われて、深夜0時に最上階の踊り場で会うことになったんだけど⁉」

「良かったじゃねーか。向こうからわざわざ呼び出しなんて。もしかしたら、田浦の方から告白してきたりしてな」

「ま、まさか、そんなことあるわけ……いや……ワンチャンあるのかこれ?」

「さぁな」


 京谷は知らん顔で肩をすくめる。

 俺は思わず、もう一度田浦さんとのトーク画面を確認してしまう。

 修学旅行最終日の夜。

 気になっている女の子からの突然の呼び出し。

 つまり……それって……⁉

 まさかの展開に、俺はさらなる緊張が胸を支配する。

 田浦さんからの呼び出し……。

 一体この後、俺はどうなってしまうのだろうか。

 0時までの残り時間、居ても立ってもいられず、そわそわとせざる負えないのであった。

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