第25話 体験型パーク

 美ら海水族館を後にして次に向かったのは、名護パイナップルパーク。

 ここでは、パイナップルの歴史や知識について学ぶことが出来て、パイナップル尽くしの人気商品を買い物することが出来る。

 入り口ゲートからくぐり、そこからパイナップルカラーに彩られた通称パイナップル号へと乗り込み、パーク内にあるパイナップル畑の間を通り抜けていく。

 パーク内には、刺々しいパイナップルの葉が辺り一面を埋め尽くすように生えている。

 園内のパイナップル畑を走り抜けてカートが到着したのは、工場を兼ね備えている建物。

 到着した一同は、建物内へと入っていく。

 ここでは、パイナップルワイナリーの工場内部の様子を見学することが出来る仕組みとなっている

 しかし残念ながら、今は休憩時間のようで、稼働しているところを見ることは出来ず、そのままショップへと進む。

 そこでは、ワイナリーで製造されたパイナップルワインの試飲ができるコーナーがあった。

 もちろん、俺たちは未成年なのでワインの試飲は出来ないかわりに、果汁100%のパイナップルジュースの試飲とカットパイナップルの食べ放題を堪能することが出来るらしい。


「うっま!」


 パイナップルジュースを飲んだ瞬間、パイナップルの甘みと爽やかな香りが口内へ充満して、飲みやすい口触りは市販で売られているような既製品とは訳が違った。


「んんっ……おいひい」


 すると、後ろではカットパイナップルを試食する田浦さんの幸せそうな笑顔が輝いていた。


「おっ、俺も頂き」


 そう言って、京谷がカットパイナップルを手に取り、ぱくりと口に運んでいく。


「んんっ、うまっ! 甘っ! 海斗も食ってみろよ」


 テンションの上がる京谷に促され、俺もカットパインを一つ手に取り、口のなかへと放り込む。

 噛んだ瞬間、一気に瑞々しい果汁がぶわっと口のなかに溢れ出す。

 天然のジュースとはまさにこのこと。


「うわっ、口のなかで勝手に溶けてく……なにこれ、ウマッ⁉」

「だよね、だよね! やっぱり沖縄のパイナップルは別格だよね」


 俺が感動した矢先、田浦さんが同調するようにテンション高く尋ねてくる。


「ホント美味しい! ……これ、もう一個食べていいのかな?」

「何個でも食べていいらしいよ」

「よっしゃ。それじゃあ食べちゃおう」


 そう言って、俺たちはカットパイナップルに舌鼓を打つのであった。

 ショップでパイナップルスイーツをお土産として購入した後、次に向かったのはパイナップルパークの隣に併設されているOKINAWAフルーツランド。

 ここには、多くの南国のフルーツが実を成しているのを間近で見ることが出来たり、その熱帯雨林の中を飛び回るインコたちの姿を観察することが出来たりと、体験型のテーマパークになっているらしい。

 館内へと入ると、配られたのは謎解きアドベンチャーと書かれた用紙。

 そこには、『妖精にさらわれた 王様を救い出せ!』という謎書きが書かれており、どうやら園内にあるフルーツに由来する謎を解いていくゲームのようだ。


「それじゃあ、早速謎解きゲームをしていきましょ!」

「って、いつの間に⁉」


 そしてなぜか、そこには俺と田浦さんの班を引率する紗季先生の姿があった。


「なんでこの人、さっきから私達のいる所ばかりに現れるわけ?」


 再三たる紗季先生の登場に、木下さんは眉根を顰めて嫌悪感を抱いている。

 俺と京谷も苦笑いを浮かべることしか出来ない。

 そんな『こいつ、何でいるの?』感の空気を読むことなく、紗季先生は俺たちを先導し、OKINAWAフルーツランド園内へと入っていった。

 まず向かったのは、園内のフルーツジャングルと呼ばれるエリア。

 そこにはマンゴー、バナナ、パッションフルーツなど南国沖縄特有のフルーツの木が生い茂り、実を作っていた。


「へぇ……バナナってこんなにいっぱいひと房から出来るんだな」

「ざっと20、30本くらいありそうだね」


 初めて知る知識を得ながら、紗季先生に先導されて奥へと進んでいく。


「みんな、どうやらここに問題があるらしいわ」


 連れられて向かったところには、確かに問題らしき文字が書かれていた。


「どれどれ?」


 俺たちは、看板に書かれている問題を覗き込む。


『問題。パパイヤは○○○○をイッパイにする。さて、この○に入る言葉は?』


「えっわかんな」


 まさかのノーヒント。

 これじゃあスマホで調べる以外方法がないじゃないか。

 問題用紙を眺めていた紗季先生が何やらふむふむと顎に手を当てて考え込んでいるかと思いきや、突如顔を上げる。

「どこかにパパイヤの木があるはずだわ」


 そう言って辺りを見渡すものの、どれがパパイヤの木なのか全くわからない。


「みんな、このどこかにヒントが隠されているらしいから、探して頂戴」


 流石は子供向けのアミューズメント施設。

 しっかりヒントは用意されているらしい。


「なんか、小学生が先生と戯れてるみたいだな……」

「ホント、どうして大津先生はあんなはしゃいでるんだか」


 そう言って、京谷が呆れたように近くにあった花壇へ肘を突く。

 すると、京谷が肘掛けたところに、何やら怪しげなボタンが配置してあった。


「おい京谷それ……」

「んあっ? お……なんだこれ?」


 躊躇うことなくポチっと京谷がボタンを押すと、突如目の前の花壇にガラガラガラっと地面から何かが飛び出してきた。


「うわっ、な、なんだ?」


 地面から突如現れたのは看板のようで、何やらそこには文字らしき言葉が書かれている。


『ヒント。胸のことをひらがな四文字で何という?』


「……」

「……」


 二人沈黙。

 何だこれ。なんかの嫌がらせか?

 そんなことを考えて二人が立ち尽くしていると、紗季先生が颯爽とこちらへ近づいてきて、二人を掻き分けるようにしてその看板へと視線を向ける。


「……なるほど、おっぱいね!」


 紗季先生、公共の場でそんな言葉を口にするんじゃありません!

 そんなことを思っていると、紗季先生がボタンをもう一度押した。

 すると、くるりと看板が回転して裏側が現れる。

 そこには、正解という文字とともに、解説が書かれていた。


『正解。パパイヤはおっぱいがイッパイ』


 なんとまあ、酷いジョークにも程がある。

 と思いきや、しっかりとそこには解説が書かれており、パパイヤに母乳の出をよくする成分が含まれていることが解説されていた。


「なるほど、それでおっぱい(母乳)がいっぱい(沢山)出るようになるからってことなのか」


 すると、またもや花壇の中から今度はスタンプのようなものが浮き出てくる。

 どうやら、このスタンプが正解をした証らしい。


「これで一問正解ね!」


 嬉しそうにして、紗季先生はスタンプをポンっと押した。

 その様子を端から見ていた木下さんがぼそりと呟く。


「母乳の出が良くなるなら、紗季先生パパイヤ沢山食べておいた方がいいんじゃね?」

「なっ、そ、それは私にもまだ早いわよ」

「いやぁ。少なくともアーシらよりは母乳出るようになるのは先っしょ。それに、いつ出るようになるか分からないし」

「待って頂戴。まず相手がいないから!」


 そう言って恥ずかしそうに顔を赤く染める紗季先生。


「別にヤんなくても出るもんは出るっしょ」

「それはファンタジーの世界だけです! もう、ほら良いから次の問題探して頂戴」


 紗季先生はぷぃっと背を向けると、そのまま進んでいってしまう。

 木下さんはにたにたと悪い笑みを浮かべつつも、『はーい』と間延びした声で返事を返して、田浦さんと一緒に歩いていく。

 ちなみに田浦さんは、気まずそうにしつつもちらちらとパパイヤの問題の答えを見ていたことには、誰も気づかなかった。


 その後も順調に問題を見つけ出すことが出来て、ついに一同が辿り着いたのは、何やらゲーム機の筐体のようなものが並んでいる所。

 そこへ、全てのスタンプを押し終えた紙を挿入口に差し込むと、何やら目の前のモニターに映像が流れ出す。

 映像内に現れたのはたくさんの妖精たち。

 そして、城内では王様が捕えられていた。


『よくここまでたどり着いたな勇者たちよ』

『早く、私達に王様を返しなさい』

『はっはっは……そう簡単に渡すと思っているのかい?』

『な、なんだと⁉』

『君たちには、これから10問のクイズに答えてもらおう』


 突如音声付きの台詞が流れたかと思うと、いきなり壮大なファンタジー風のバトルBGMが流れ出す。

 何、このいきなりの世界観⁉

 戸惑っているうちに、バトル画面に切り替わり、映像内に問題が表示される。


『問題。フルーツランド内には、全部で何種類のフルーツがある?』


「えっ⁉ そんなの知らないわ! みんな、パンフレットからヒントを探し出して頂戴」

「えぇ⁉」

「えぇっと……」


 紗季先生に促され、慌ててリュックの中からパンフレットを取り出して、問題の答えを探していく一同。

 そんなこんなで、問題を正解していき、ついに妖精の国のボスを倒しきる。

 するとそこから、謎の壮大なストーリー(過去編)が始まり、30分ほどしたところでようやくエンディングを迎えた。


「なんか、壮大すぎたな」

「えぇ……まさか王様にあんな秘密が隠されていたなんて……」

「俺たちも真摯にこの問題に向き合って行かないといけませんね」


 結論から言うと、王様は人間が荒らす地球環境を戒めるため、あえて妖精たちに頼んで捕えられたという呈にして、来場した人々へ世界中で起きている環境汚染問題について疑問を投げかけるという形で話は締めくくられた。

 ただのアミューズメント施設だと思って気楽に入ったものの、まさかここで地球環境の問題について考えさせることになるとは夢にも思っていなかった一同。

 これもまた、沖縄が占領地としてアメリカに支配されていたからこそ提唱できる問題なのだろう。

 頭の中でもやもやとする気持ちが残りながら、園内を後にするのであった。

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