第24話 普段とは違う行動(修学旅行二日目)

 田浦さんと紗季先生の三人で一階の深海魚ゾーンを抜けて、出口ゲートをくぐったところで京谷と木下さん達と無事に合流。


「悪い、遅くなった」

「平気、平気。俺たちがちょっと早く進み過ぎちまったから……ってか、どうして紗季先生も一緒にいるんですか?」


 当たり前のようにいる紗季先生を見ながら、京谷が首を傾げる。


「須賀君と田浦さんが無事に三浦君達と合流できるのを見届けるためよ。教師として当然の務めだもの」

「……まあ、別に電話して連絡取り合えばいい話だと思うんすけどね」

「何か悪いかしら?」

「い、いえ……何も」


 紗季先生の圧に負けて、京谷は萎縮いしゅくしてしまう。


「それはそうとみんな! 十分後にイルカショーが始まるらしいわよ。早速向かいましょ」

「いやっ……だからなんて紗季先生が仕切ってるの⁉」


 もう引率のことなんて忘れて、ただ水族館を楽しみたい一般人になってるよこの人。


「ほら、さっさと行くわよ」


 俺たちは紗季先生に半ば強引に背中を押されて、館内の外にあるイルカショーが行われる野外ステージへと向かう。

 その途中、京谷が俺に耳打ちをしてきた。


「そんで、田浦さんとのデートは上手く行ったのか? 折角二人きりにしてやったんだ」


 どうやら、意図的に京谷は俺を田浦さんと二人きりの状況にしてくれたらしい。


「まあ、途中まではいい感じだったんだけど……ほら、先生来ちゃったから」

「なるほど……まっ、次のタイミングを待つんだな」

「あぁ……」


 ほんと、あと少し紗季先生に見つかるのが遅れていれば、田浦さんとのツーショット写真が撮れたというのに……。

 残念な気持ちになりながら、俺たちはイルカショーの行われる野外ステージへと向かった。

 既にステージの席は多くの人で埋め尽くされており、全員同じ場所に座るのは困難を極めている。


「凄い人混みだな」

「空いてる所見つけて、各自分かれて座ろうか」

「そうだね」


 こうして、田浦さんと木下さん達女子グループと男子グループに分かれて、それぞれ座れる場所探しを始める。

 すぐに二人分の席が空いていたので、黒縁メガネーズ達を先に座らせて、俺と京谷は他に空いている席を探す。

 しばらくして、椅子が三つ空いている場所を見つけた。

『すみませーん。前通ります』と端の席に座っていたお客さんの前を通って、その空いていた三人分の席に奥から京谷、俺、そして紗季先生の順に詰めて座る。


「って、何当たり前のように俺たちの隣に座ってんの⁉」

「あら、別に同席したっていいでしょ? 席も空いてたんだから」


 別に文句はないけどさ……それなら田浦さんと一緒に座りたかったとは、口が裂けても言えないけどね。

 まあでもそしたら木下さんが一人になってしまうので、ここは仕方ない選択だったのかもしれない。

 そして、開演時間間近だったらしく、ステージ内に流れていたBGMが鳴り止み、辺りのお客さんの喧噪だけが鳴り響く。

 すると、先ほどとはけた違いの大きな三味線を基調にした沖縄らしい音楽とともに、イルカショーがスタートした。

 その沖縄らしい音楽に合わせて、イルカ達が技を次々と披露していく。

 今まで何度かイルカショーは水族館で見たことがあったけど、ここまでクオリティーの高いショーは初めてだった。

 音楽に合わせ、息ピッタリにイルカ達が次々と高パフォーマンスを披露していく姿に、ただただ圧倒させられ見入ってしまう。


「凄いわ……」


 すると、隣に座っていた紗季先生が圧巻のパフォーマンスを目の当たりにして、感嘆の声を漏らす。

 そしてそのまま、俺の手を不意に握ってきて、ぎゅっと掴んできた。


「えっ、急に何⁉」


 俺の意識が一気に紗季姉の方へと向けられる。

 はっと我に返った様子で紗季姉は掴んでしまった俺の手を離す。


「ごめんなさい……無意識に握っちゃった」


 紗季姉は耳元で俺だけに聞こえるようにして謝ってくる。


「まあ、次から気をつけてくれよ」

「うん、分かった」


 そう言葉を交わすと、紗季姉は幼馴染の表情から先生の顔へと戻り、視線をイルカショーへと向け直す。

 俺もつられるようにして、イルカ達がパフォーマンスを続けるプールへ視線を戻した。

 普段の紗季姉なら絶対にこんなことしてこないのに、一体どうしたんだろうか?

 そんな疑問を抱きながらも、あっという間に圧巻のイルカショーは終わりを告げ、気づいたときにはステージに座る観客から盛大な拍手がショーを終えたイルカ達に送られていた。

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