第23話 突如現れた邪魔者(修学旅行二日目)

 田浦さんと一緒に向かったのは、美ら海水族館のメインともいえる黒潮の海。

 視界一面に広がる巨大水槽の中には、約60種類の魚たちが優雅に泳いでおり、ここでしか見られないジンベイザメやナンヨウマンタなどの珍しい生き物が自然界のそのままに近い姿で水槽内を郡泳している。


「うわぁ……凄いね」

「これは圧巻だな」


 水槽前で思わずそのスケールの大きさに圧倒される二人。

 見上げるだけで、一面にマンタやサメの群れたちが悠々と俺たちの上を泳いでいく。


「あっ、見て見て須賀君! ジンベイザメがこっちに近づいてきたよ!」


 はしゃいだ様子で田浦さんはポケットから取り出したスマートフォンでカメラを起動させて、近づいてくるジンベイザメへと向ける。

 そして、パシャパシャと何枚かジンベイザメを撮影して、アルバムに保存された写真を確かめる。


「いい写真は撮れた?」

「うん! みてみて!」


 満面の笑みを浮かべて、田浦さんは自分で撮影したジンベイザメの写真を見せてくれる。

 そこには、ジンベイザメの可愛らしい写真が液晶画面に映っていた。


「あっ、そうだ! 折角だから記念に一緒に撮らない?」

「えっ、いいの⁉」

「うん、だって須賀君と一緒に来た思い出が欲しいから……」


 そんな嬉しいことを上目遣いで言われたら、断ることなんてできるわけがない。


「よしっ、それじゃあ一緒に撮ろうか」

「うん!」


 そう言って、田浦さんは早速手を伸ばして自撮りする体勢に入る。


「須賀君、もっと近づいて!」

「う、うん……」

「もっと!」


 促されるまま俺は田浦さんと身体が密着しそうなほどそばに近づく。

 ふわりと田浦さんのフローラル系の香りが漂ってきて、頭がクラクラしそうだ。

 心臓がドクンドクンと波打ち、緊張でごくりと生唾を呑み込んでしまう。


「ほら、もっと笑って」

「う、うん」


 俺は無理やり口角を吊り上げて笑みを浮かべるものの、スマホに映るインカメの画面にはぎこちない笑みが映っている。


「それじゃあ行くよ……」


 スマホに映るインカメの画面へ、田浦さんがにっこりと微笑む。

 そして、ジンベイザメがこちらへと近づいてきたところで――


「行くよ……はいっ――」

「チーズ!!」


 刹那、バシっと後ろから突然肩を掴まれる。

 カシャっとシャッターが切られ、写真にはにこりと微笑む田浦さんと、驚いた目を開く俺と、俺の肩に手を置いて無理矢理映り込み、無邪気に笑顔を浮かべる紗季先生の姿があった。


「さ、紗季先生⁉」


 田浦さんが驚きつつ紗季先生を見つめる。


「二人とも、水族館は楽しんでるかしら?」


 紗季先生はテンション高そうに、はきはきした様子で尋ねてくる。

 くそ……せっかく田浦さんとのツーショットが取れると思ったのに……!

 紗季姉の野郎!


「紗季先生はこんなところで何してるんですか?」


 俺は皮肉交じりに、じとっとした目で紗季先生を見据える。


「何って、もちろん生徒たちの見回りに決まってるでしょ」


 当然と言った様子で胸を張る紗季先生。


「いやっ、見回り中なら、写真にはしゃぎながら映りこんできて何してるんですか?」

「そりゃ、教師だって少しは楽しみたいじゃない」


 だからって、こんなベストタイミングで現れなくてもいいでしょ。

 そんなことを心の中で愚痴りつつも、俺は田浦さんへ弁明する。


「ごめんね田浦さん。せっかくの写真だったのに」

「あっ、うん! 平気だよ」


 田浦さんは笑っているものの、どこか少し残念そうに見えるような気がした。


「それで、二人とも三浦君と木下さん達はどうしたのかしら?」

「えっと、実はこの人混みではぐれちゃって」

「そう。なら連絡して合流しなさい。一応今日は班行動厳守なのだから」

「分かったよ」


 まあ、紗季先生には京谷が半ば強引に理由をこじ付けて田浦さん達と同じ行動をすることを許可してもらっているので、バラバラで行動しているのを見たら看過できないのだろう。

 俺は仕方なくポケットからスマホを取り出して、京谷に電話を掛ける。

 それから京谷達と合流するまで、紗季先生はずっと二人の後ろをぴったりとマークして、目を付けられてしまうのであった。

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