第20話 沖縄旅行一日目②
祈念公園を後にして、バスの乗り込み向かったのは沖縄一の繁華街である国際通り。
俺たちは近くの駐車場でバスを降りて、そこから歩いて国際通りへと入った。
辺りは多くの観光客でにぎわっており、中には外国人の旅行客も多く写真を撮りながら歩いている。
どこか異国情緒あふれる街並みを歩きながらまず向かったのは、沖縄で有名な紅芋タルトが製造されている直営店。
「へぇ、タルトってこんな感じにクリームが乗せられるのか」
「手作業でも大変なのに、機械だとあっという間だな」
直営店では、紅芋タルトの製造過程を見学することが出来て、俺と京谷はベルトコンベアの上を乗って完成していく紅芋タルトの製造過程をガラス越しに眺めていた。
「うわぁぁぁ……美味しそう」
そんな中、隣ではガラス越しに目を輝かせる田浦さんの姿があった。
「ホント愛優はお菓子になると目がないんだから」
「だって見てよ夢香! この紅芋タルトの神々しさを! これはもう、沖縄が作りあげた奇跡のタルトと言っても過言ではないんだよ!」
「あーはいはいっ……」
田浦さんが熱弁する中、木下さんは多少面倒くさそうにしながらも話を聞いてあげていた。
恐らく、半分は左から右に受け流しているのだろうけど。
直営店で紅芋タルトを各々購入して次に向かったのは、一般的なお土産屋さん。
俺と京谷が足を踏み入れると、それとなしに田浦さん達も続いてお店の中に入ってくる。
「うわぁ……すげぇ。マジでハブが入ってるぜ」
「ホントだ。なんか、このお酒を飲む勇気は出ないよね。俺だったら泡盛の方がいいんじゃないかって思っちゃうな」
「まあ、この状態で見たら、結構グロテスクだよね」
ハブがそのままつけられた状態で置いてあるハブ酒を前にして、そんな感想が漏れ出る。
「おっ、ちんすこうじゃん」
「俺、雪塩の奴めっちゃ好きなんだよね」
製菓コーナーに置かれていたのは、沖縄の銘菓であるちんすこう!
あの特有のクッキーみたいな食感に、砂糖菓子特有の甘さとココナッツの風味を感じることのできる沖縄定番のお土産の一つだ。
「須賀君達も、ちんすこう買っていくの?」
そう言って陽気な様子で声を掛けてきたのは、田浦さんだった。
田浦さんは満面な笑みを浮かべて、そのちんすこうの入った箱を手に抱えて、頬を緩めている。
のだが……
「あぁ……」
「えっと……」
俺と京谷は、思わず黙り込んでしまう。
「ん、どうしたの? 買わないの?」
不思議に思った田浦さんは、首を傾げて尋ねてくる。
ここは、ちゃんと説明した方がいいよな。
ちらりと京谷に目配せすると、お互いに苦い笑みを浮かべながらも頷き合った。
そして俺は意を決するように一つ咳ばらいをしてから、田浦さんへ優しく声を掛ける。
「えっと、田浦さん……それ、ちんすこうじゃないんだよね……」
「えっ? でも……ちんすこうって書いてあるんだけど……」
そう言って、田浦さんは自身の手に持っているパッケージの表紙を確認する。
「……」
田浦さんは言葉を失って唖然としてしまう。
無理もない、田浦さんが手に持っていたのは、ちんすこうが男のアレに似ていることから開発された別のお菓子だったのだから。
その名は、『ち○こすこう』。
形も色も男のそれを彷彿した姿をしており、いわゆる沖縄のネタ枠のお土産である。
田浦さんは頬を真っ赤にしつつ、『ち○こすこう』の箱を陳列してあった棚に戻して、となりにあった本家ちんすこうの方をぱっと手に取った。
「わ、私っ、お会計済ませてきちゃうね!」
恥ずかしさに堪えられなかったのか、田浦さんは俯きがちに駆け足でレジへと向かっていってしまう。
「ふふふっ……愛優、全然気づいてないの」
木下さんは最初から気づいていたらしいが、あえて教えないで面白がっていたらしい。
今は肩を揺らしてクスクスと笑っていた。
何というか、田浦さんの天然でピュアな一面が見えて、さらに可愛らしいなと感じてしまった。
そんなちょっとしたプチエピソードがありつつ、一日目の国際通り散策を無事に終えるのであった。
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