第19話 沖縄旅行一日目①

 しばらくして、搭乗ゲートのアナウンスがあり、俺たちは飛行機に乗り込み隣の席の京谷とふざけあいながら沖縄までのひと時の空の旅を楽しんだ。

 残念ながら、京谷がお目当てにしていた綺麗なCAさんはおらず、他愛のない話をしながら時間を潰した。

 飛行機は定刻通りに那覇空港へと到着して、飛行機から下りると、都内とは違う熱帯気候特有の蒸し暑さを感じる。

 流石は沖縄、もう十一月だというのに、まだ夏の気配さえ感じさせるような温かさ。


「やっぱり、こっちは熱いな。これなら半袖でもいいくらいだ」

「ホントだな。俺、パーカーとか持ってきちゃった」

「まあ、夜は冷えるかもしれねぇし。あるに越したことはないだろ」

「それもそうか」


 そんな会話を交わしつつ、那覇空港の建物内から出ると、さらにもわっとした熱さが俺たちを襲い掛かる。


「うわっ……あっつ。こりゃタオルが必要なレベルだな」

「ホントだね」


 空は青空が広がり、絶好の修学旅行日和ではあるけれど、都内の肌寒さからこの寒暖差は、流石にすぐに適応するのは難しい。

 俺たちはバスターミナルの臨時乗場へと向かい、既に止まっていたバスへとクラスごとに乗り込む。

 車内はエアコンが効いていて涼しく快適な気温だった。

 俺と京谷は後方の二人掛けの席を陣取り、ふぅっと息を吐いて座った。

 初日のスケジュールは、このままクラス行動がメイン。

 バスでひめゆりの塔と平和祈念公園へと向かい、昔この地で起こった戦争の内容についての学習をする。

 その後は、バスで国際通りへと移動してしばしの自由行動、沖縄一の繁華街でお土産品などを見て回った後、宿へと向かうという比較的緩めのスケジュールになっていた。

 また今日は、特に班行動の制約もないので、クラスごとに好きなメンツと各々歴史を学んだ後は、市街地をみんなで観光するといったところだ。


 空港からしばらくバスに揺られて、ひめゆりの塔へと到着する。

 バスから降りて、そのままひめゆりの塔へと向かうと、そこは南国沖縄からどこか乗り遅れたような奇妙で不可思議な、人によっては気味の悪いと感じてしまいそうな空間が広がっていた。

 異様な雰囲気漂う慰霊碑の前を通り過ぎて、その隣に併設されている資料館へと足を踏み入れる。

 資料館には、当時戦火の中で救命活動を行っていた女子生徒たちの話が記されており、とても悲惨で残酷だった状況を生々しく後世に伝えているのだ。

 流石にここではふざけてけらけらと笑っている者はだれ一人おらず、その悲惨さに同情していたり、当時の現実を目の当たりにして言葉を失っているものが大半だった。

 何とも言えない雰囲気で資料館を後にして、次に向かったのは平和祈念公園。

 ここには、沖縄戦で亡くなった人の名前が刻まれた「平和のいしじ」というものがあり、多くの千羽鶴が全国の学校などから寄付されて、亡くなった方へのご冥福を祈るように飾られている。

 しかし、既に戦後から70年以上も経過していることもあり、今は観光名所としての用途が強くなっているらしく、公園内では地元の人たちの家族連れがレジャーシートを張って子供たちを遊ばせていたり、ご当地のアイスクリームやお菓子などが売られている屋台などが設置されていた。

 屋外ということもあり、先ほどまでの重苦しさはなく、クラスの奴らも少し気楽な様子で公園内を散策している。

 俺が平和の礎に刻まれた名前をぼんやりと眺めていると、ふと隣に紗季先生が現れた。

 紗季先生は真剣な眼差しで、じっと名前の刻まれた石碑を見つめている。


「こういう所に来ると、ほんと私達が今幸せな生活を送れているっていう実感がわいてくるわよね」

「まあ、そうですね……」

「ホント、こういうこと言うのはダメなのかもしれないけど、彼らの犠牲があったおかげで、今の私達の生活があるのよね」


 そうしみじみと語る紗季姉の表情は、どこか感謝に満ちているような気がした。

 紗季姉と別れ、さらに公園を奥まで進むと、沖縄のオーシャンブルーの海が一望できる展望台が設けられていた。

 その綺麗な海をバックにして、多くの生徒たちが記念写真を撮影している。


「おぉ……流石沖縄。綺麗だなぁ!」

「うん、そうだね」


 京谷がキラキラと目を輝かせるなか、俺もその綺麗な真っ青な海を見つめる。

 確かに、海は太陽の光に反射して真っ青に光り輝いていた。

 これを見て、何も感じない方がおかしいというほどに美しい。


「おっ、三浦達いるじゃーん」


 ふと声を掛けられた方向を見れば、木下さんと田浦さんが手を振ってきていた。


「ねぇ、記念に一枚写真撮ろ―」

「おう、いいぞ。海斗も一緒に撮ろうぜ」

「お、おう……」

「ほら、愛優もこっちこっち!」

「えっ⁉ う、うん……」


 俺は京谷に、田浦さんは木下さんに肩を押されて、俺たちは強制的に隣同士にさせられる。


「じゃ、いっくよー。はいっ!」


 カシャっとスマートフォンのカメラ音が鳴り、木下さんがインカメで自撮り写真を撮影した。


「おっけー。そんじゃ、後で写真共有しとくねー!」


 すぐに木下さんから送られてきた写真には、俺と田浦さんの肩がくっつきそうなくらい近くにいて、お互い戸惑った様子で海をバックに映り込んでいるものだった。

 それはそれは、甘酸っぱい青春の味がしそうなほどに、初々しさ満載の一枚であることに変わりはない。

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