第二章 修学旅行編

第17話 ワクワクとドキドキの前日

 月日はあっという間に流れて、修学旅行前日の夜。


「ふんふんふーふふーん♪」


 鼻歌を一人で歌ってしまう程、俺は明日の修学旅行が楽しみで、完全に浮かれていた。

 今は荷造りを終えて、今は忘れ物がないかの最終チェックを行っていた所。

 明日からは、普段とは違う場所で、クラスメイト達と非日常の時を過ごすこととなる。

 それだけでもわくわくするというのに、今回は田浦さんと一緒に行動をするのだ。

 浮かれない方が無理というもの。

 お互いに誤解を解決してから、田浦たうらさんとの関係性も以前のように戻り、普通に教室で他愛ない会話をする程度には修復できた。

 そんな中迎える修学旅行というビッグイベント。

 可能性はゼロに等しいけど、田浦さんにもう一度告白するとしたら、この修学旅行で恋バナに発展した深夜テンションの勢いしかないだろう。

 この機会を逃せば、宇立高校の生徒たちは大学受験モードへと切り替わり、イチャイチャしているどころではなくなってしまうので、実質最後のチャンスとも言えた。

 正直なところ、誤解が解けたとはいえ、再度告白してOKを貰えるかどうかは分からない。

 それでもなお、田浦さんと付き合いたいという欲求は収まるどころか、日に日に俺の心の中で気持ちが増していた。

 これもまた、修学旅行マジックという魔法にはまってしまっている影響なのだろうか?


 そんなことを思っていると、スマートフォンのバイブレーションがブーブーッと鳴り響く。

 画面を見れば、電話相手はお隣さんの紗季姉さきねえこと大津紗季おおつさき先生からだった。

 俺はスマホを耳元に近づけて電話に出る。


「もしもし?」

『あっ、海斗? 明日の準備は終わった?』


 すると、紗季姉は案の定第一声から保護者のようなことを尋ねてくる。


「あぁ、言われなくても完璧だ」

『そう、なら明日はいつもより朝早いから、夜更かししないようにするのよ』

「分かってるって」


 ここで釘を刺してくるのは、先生である紗季姉らしいというか……。

 まあでも、修学旅行前というのはどうしても気分が高まってしまうので、いざベッドに入ったとしても寝付けない可能性もある。

 紗季姉の言う通り、早めに寝ておいて損はないだろう。


「そういえば、紗季姉」

『何?』

「あれから、紗季姉は困った事とかない? その、SNSの変な噂関連で」


 あれ以来、紗季姉と俺は出来るだけお互いに学校内でもプライベートでも接触を避ける生活を続けてきた。

 俺は田浦さんの誤解を解くことが出来て、一番の問題は解決したけど、紗季姉に新たな火種が出来ていないか心配になったのだ。


『そうね。今のところは特にこれと言って問題は起きていないわ』

「それならよかった。まあでも、明日からの修学旅行も油断は禁物だから、もう一度気を引き締めてこの期間を乗り切ろう!」

『そうねぇ。引率と生徒が宿泊先で蜜月⁉ なんて不祥事起こした暁には、私の進退問題になりかねないわ』

「そんな変なフラグみたいなこと言うのやめてくれる⁉」

『冗談よ。修学旅行は生徒たちの監視で忙しいから、海斗のことばかり気に掛けてる暇はないの。だから、変なことが起こるような事態にはならないから安心して頂戴』

「なら良かった……」


 俺はほっと一安心して胸を撫で下ろす。

 万が一そんなことになったら、俺の首まで飛びかねないからね!

 まあでも、SNSの件があってから今日まで、紗季姉は俺の家に来ることをよく我慢して耐えてくれたと思う。

 俺としては、この修学旅行で新たな恋の噂などが他の人に移ることを期待していた。

 この修学旅行を問題なく乗り切れば、二人のSNSで流れた噂話は生徒たちの頭から消え去り、晴れて普段の日常生活を取り戻すことが出来るだろう。

 そしてあわよくば……俺もこっそり田浦さんに告白を――


『それじゃあ、私は海斗たちよりも早く家を出なきゃいけないから、先に寝るわね。おやすみなさい』

「うん、お休み紗季姉。また明日」


 通話を切り、俺も明日に備えて寝る支度を整えるため、洗面所へと向かう。

 歯を磨きながら、明日からの修学旅行について妄想を膨らませる。

 あぁ……明日から沖縄かぁ……。田浦さんとの思い出、沢山作りたいなー。

 もう俺の頭の中は、田浦さんでいっぱいだった。

 はぁ……ホントワンチャン、田浦さんにもう一回告白できないかなぁ……。

 そんな淡い期待を込めながら、歯を磨き終えた俺は部屋へと戻り、紗季姉に言われた通り早めに眠りへとつくのであった。

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