第15話 浮かれた放課後

 放課後の視聴覚室で、俺は完全に浮かれていた。

 理由は無論、田浦さんとぎくしゃくしていた関係が解消され、元通りの仲に戻ることが出来たこと。

 これで俺は晴れて、楽しくてきらきらと輝く修学旅行という一大イベントを田浦さんと心置きなく謳歌おうかすることが出来る。

 ……いや待てよ。

 そこで俺は、とある考えに思い至る。

 修学旅行。いつもとは違うどこかうわついた空気。

 消灯時間後の発展する恋バナ。

 そこから、高揚した深夜テンションのままにトークアプリで田浦さんを呼び出して……。

 もしかして俺、修学旅行でまた田浦さんに告っちゃう?

 ワンチャン行けちゃうのかこれ?


「へへっ……へへへっ……」

「先輩、さっきから口元緩ませて怪しいっす。あと、その笑い方も正直言ってきもいのでやめてください」


 俺が妄想に浸っていると、引き気味に俺の様子を覗っていた後輩が辛辣な言葉で現実へと意識を戻してくる。


「きもいとはひでぇな……」

「だって、今の先輩超絶キモイですよ? 鏡で自分の顔見てきた方がいいんじゃないですか?」

「そこまでは酷くないだろ⁉ ってか、お前はもう少し先輩を敬え!」

「はいはい、ちゃんと慕ってますよー」

「棒読み!」

「んで、そんなに浮かれて、何かいいことでもあったんですか?」


 俺のツッコミをスルーして、姫織は半ば呆れた様子で尋ねてくる。


「ふっふっふ……まあな」

「うわぁ……」


 俺が声高々に言うと、姫織は超絶面倒くさそうな表情を浮かべた。


「お前……ホントいい意味で素直だよな」

「だって、言い方がうざいんですもん」

「ふっ……何とでも言え。今の俺は、どんな強敵が現れようとも勝てる自信があるぜ」

「はぁ……」


 姫織はついには呆れ返り、俺を見向きもせずにPC画面に向き直ってしまう。

 ここまで適当に対応されると納得がいかなかったので、俺は奥の手を出すことにする。


「仕方がない。今日は気分がいいから、姫織のゲームにとことん付き合ってやる。マカド討伐に苦戦してるんだろ?」


 そう言って、鞄の中から俺はスイッチを意気揚々と取り出す。


「えっ……マジでいいんすか? だって先輩、『お前とは絶対にモウハンストはやりたくねぇ』って言ってたのに」

「今日は気分がいいんだ。男に二言はない」

「よっしゃ! 先輩がやってくれるならもう瞬殺っすよ! 姫織が足引っ張っても、文句言わないでくださいね!」


 姫織はすぐさま鞄の中からスイッチを取り出して、手のひらを返したように浮き浮きとしながら、スイッチの電源を入れて準備をさっさと始めてしまう。

 全く、このくらいで喜んでくれるとは……チョロイ後輩だぜ。

 そんなことを思いつつ、今日もパソコン部は平和に楽しくゲーム活動に勤しむのであった。

 この裏でまた新たな計画が練られていることも知らずに……。

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