第14話 解ける誤解

「ふぃ……」


 ようやく自由行動での場所決めが終わり、俺は机に突っ伏した。


「お疲れさん海斗。随分と疲弊してんじゃねーか。どうしたんだよ?」

「誰のせいだと思ってんだ。こっちはヒヤヒヤものだったんだからな?」


 紗季先生を敵に回して、目のかたきにされるところだったんだぞ。

 京谷に不満の視線を送るものの、当の本人はけろっとした様子で反省の色は見られない。


「まあまあいいじゃねーか、結果オーライってことで。田浦さんとも一緒に修学旅行楽しめるんだかよ」

「まあ、それはそうなんだけど……」

「す、須賀君!」


 するとその時、俺を呼ぶ一人の女子生徒の声が聞こえる。

 声の元へ視線を向けると、そこに居たのは今まさに噂していた女子生徒。


「た、田浦さん……えっと、どうしたの?」


 俺は身体を起こし、多少戸惑いながら尋ねる。

 それもそのはず。

 田浦さんとこうして会話をすること自体、告白以降初めてだったのだから。


「ちょっと話があって……この後時間あったりする?」

「う、うん。特に予定もないから、別にいいけど……」


 まさか、田浦さんの方から俺に声を掛けて来るとは予想だにしていなかったので、呆気に取られていると、不意にポンと京谷が俺の肩を叩いた。


「それじゃ、俺は部活行ってくるな。田浦さんも、またね」

「おう……」

「うん、またね三浦君」


 後ろ手を上げつつ、京谷は荷物を持ってそそくさと教室を出て行ってしまう。

 その場に取り残された俺と田浦さんは、お互いに堪えきれないと言った様子で、あははっと苦い笑みを浮かべる。


「えっと……とりあえず、ここじゃなんだし、場所を移動しよっか」


 俺がそう提案して向かった先は、屋上前の踊り場。

 屋上の扉は施錠がされており、普段は出られない仕様になっている。

 そのため、ここへ上がってくる生徒はいないので、り入った話でも誰にも聞かれずに済むだろうと思っての判断だった。

 普段使われていないからか、辺りは少しほこりっぽい空気が漂っている。

 田浦さんとこうして面と向かって話すのは告白の時以来なので、俺はどう話を切り出せばいいのか分からず困ってしまう。


「あ、あの……」

「あの……」


 すると、二人の声が同時に重なってしまう。


「あっ、悪い。先にいいよ」

「ううん。須賀君の方から先にどうぞ」


 お互いに何度か譲り合い、これ以上譲り合っていても話が進まないので、俺から話を切り出すことにした。


「えっと、そのぉ……田浦さんも話があるって言ってたけど、実は俺からも話があるんだよね」

「えっ……な、なに?」


 緊張した面持ちで身構える田浦さんに対して、俺は大きく頭を下げて謝罪する。


「この前はごめん!」


 っと。


「えっ……なんで須賀君が謝る必要があるの?」


 謝られる筋合いがないと言った様子で田浦さんが尋ねてきたので、俺はずっと胸につかえていたことを吐露する。


「その……俺が校舎裏に呼び出した時、田浦さんは知ってたんだよね、SNSのこと」

「えっ、う、うん……」

「あんな噂が流れてるのに『好きです』って言われても、そりゃ信用できるわけがないよね。でも、一つずっと言いたかったんだ。あのSNSは……」

「事実じゃないんだよね?」

「……えっ?」


 言葉の先を汲み取り、田浦さんが言ってきたことに驚きを隠せず、俺は顔を上げて彼女を見つめた。

 すると、今度は田浦さんが申し訳なさそうに頭を下げてくる。


「私の方こそごめんなさい! その……普通に考えれば誰かが流したデマだってわかるはずなのに、夢香にSNSを見せられた時、私なんだかすごい動揺しちゃって……。気づいたら須賀君にあんな酷い事口走っちゃってた……。絶対に言っちゃダメなことだったし、謝らなきゃってずっと思ってたの。だから、本当にごめんなさい!」

「そ、そんな、田浦さんが謝ることじゃないよ。そもそも、元はと言えば俺の不注意が原因で……」

「ううん。本人に確認せず鵜呑みにしちゃった私が悪いの」

「いやいや俺が……」

「私が……」


 どっちも引かずに謝り続けて押し問答を続けていると、ふとお互いに目線があってしまい、同時にふっと噴き出してしまう。


「なんだ、結局お互い謝ろうとしてたんだね」

「うん、そうみたい」


 そう言って、また二人でくすくすと笑い合ってしまう。

 どうやら、お互いに心配に心配を重ねて、色々と自分の中で問題を大きく膨らませすぎていたのかもしれない。

 それが原因で、告白以降もギクシャクした状態が続いてしまい、ここまで来てしまったのだろう。


「まあ、今回はお互い非があったってことで、仲直りしない? ほら、これから修学旅行でも一緒に行動するんだし、田浦さんとはこれからも色んなこと話したいからさ」

「うん、ありがとう。そうしよっか……」


 こうして、俺と田浦さんはようやく誤解を解き、仲直りすることが出来た。

 良かったぁ……。

 田浦さんと仲直りできた。

 ようやく仲直りできた達成感からか、俺は力が抜けて脱力してしまう。

 すると、田浦さんも同じくしてその場にへたり込んでしまいそうになる。


「だ、大丈夫⁉」


 俺は咄嗟に田浦さんの腕をがしっと掴み、身体を支えてあげる。


「あははっ……なんか、ほっとしたら力が抜けちゃった。ごめんね、びっくりさせちゃって」

「いや、平気だよ……」


 心配しながら田浦さんの様子を窺っていると、田浦さんはふぅっと一呼吸ついてから足に力を入れて身体を起こした。


「そ、それじゃあ……これからは今まで通り……とはなかなか行かないかもしれないけど、前みたいに仲良くしようね」

「う、うん!」

「それじゃあ……戻ろっか」


 こうして、俺は無事に田浦さんとの間に生じていた誤解を解くことが出来た。

 結局、田浦さんとの関係性は、告白以前の状態に戻ったわけだが……田浦さんはもしあの噂が無かったら、一体俺の告白にどう返事をしていたのだろうか?

 解決してよかったと思う反面、そんな疑問が新たに浮かび上がってきたものの、今は田浦さんと仲直りできただけでも良かったと捉えることにした。

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