第13話 誤解を解くために~愛優Side~

 暗黙の談合が終わり、無事に二班が同じタイムスケジュールで行動を共にすることが決まった後。

 私の心中はざわざわと騒がしかった。

 まさか……海斗君と一緒に修学旅行を楽しめるなんて、夢にも思ってなかったから。

 嬉しさで、私の心は満たされていた。


「ふふっ……愛優、随分嬉しそうじゃーん」


 いきなり耳元で声を掛けられ、私はビクっと身体を震わせて振り返る。

 視線の先には、ニヤニヤとした顔を浮かべる夢香の姿があった。


「もう……そんなことないってば……」


 私は口を尖らせるものの、頬は自然と緩んでしまい、中途半端な反論に終わってしまう。


「まっ、おかげであーしも三浦達と一緒に行動出来るからある程度楽しい修学旅行になりそうだわ」

「あれっ? 夢香って、三浦君のことそんなに気に入ってたんだ?」


 夢香からそう言う話を聞いたことが無かったので、何だか以外だ。

 すると、夢香は違う違うと手を横に振る。


「そうじゃなくて、あいつは無害だから、変な色目とか使われなくて気楽だって事。あんなにサッカーでも実力があって顔もいいのに、それを誇ることもなく飄々ひょうひょうとしててさ。そんでもって、女の噂一つないとか、正気の沙汰じゃないっしょ?」

「まあ確かに、それはそうだね……」


 三浦君は学内で一、二を争うイケメン。

 にもかかわらず、数多の女の子から告白されてもそれを全て断ってきているらしい。

 三浦君には、があるのだろうか?


「というか、むしろ得したのは愛優の方っしょ? 須賀と一緒に行動することが出来て良かったじゃん! あとは、これで誤解を解くことが出来れば、もうルンルンの修学旅行間違いなしっしょ!」

「え⁉ う、うん……」


 私が素直に喜べなかったのは、同じ班の男の子たちを半ば強引に夢香の威圧で丸め込んでしまったから、申し訳ないことをしてしまったという罪悪感が心の中に残っているのだ。

 まあ、後ろめたさはあっても、心の中では浮かれてたんだけどね。

 すると、にやりと笑みを浮かべた夢香は、再び私の耳元でささやいてくる。


「愛優が嬉しいなら何よりだよ。なんなら、その勢いで、修学旅行中に愛優の方から告っちゃえば?」

「へっ⁉」


 唐突な夢香からの薦めに、私は動揺した声を上げてしまう。

 私の耳元から口を離して、夢香はにやりとした表情のまま、隣の机の上に腰掛ける。


「まあ、修学旅行マジックっていうの? 学校行事で南国の島に旅行とか、みんな気分が高揚するっしょ? そんで、消灯時間の後にスマホで須賀を呼び出して、先生にバレないような人気のないところで待ち合わせ。二人きりになったところで、その雰囲気を利用して告っちゃえばいいんだよ」

「いやいやいや、私には無理だって」


 私は、慌てて手を横に振って否定する。

 まあでも、修学旅行独特の部屋での女子トークや恋バナから発展して、その場の勢いに任せてスマホで呼び出して告白……なんてこともあると聞いたことがある。

 それこそ、夢香の言う修学旅行マジック。

 普段とは違う場所で同じ時間を過ごすからこそ、何だか特別感が湧いて、もしかしたら告白が成功するのではないかという淡い期待感が増してしまう。

 けれど、私は一旦冷静になる。


「そもそも私、海斗君に『先生と付き合ってるのに、私に告白してくる不誠実な人とは付き合えない』って言っちゃったから。まずは、その誤解を解かないと……」

「大丈夫だって。ちゃんと『あの時はごめんね』って謝れば、須賀も許してくれるって」


 夢香の言う通り、あれはSNSで見た情報を鵜呑うのみにしてしまった結果、冷静さを欠いて出てしまった言葉であると誠実に謝れば、海斗君は許してくれるかもしれない。

 でもその後に……『好きです。私と付き合ってください』なんて、どの口が言えるのか。

 あぁぁ……やっぱり言えないよ……。

 私が頭を抱えて悩み苦しんでいると、夢香が何やら意味深な視線を向けてくる。


「なっ……何?」


 恐る恐る私が尋ねると、夢香はニタニタとした顔のまま口を開いた。


「いやっ……須賀のこと、心の中ではって呼んでるんだと思って?」

「~~~~~~~~~~////////」


 羞恥で顔が熱い。

 もう墓穴を掘りすぎて、穴があったら埋まりたいよぉぉぉぉぉ!!!!

 私が恥ずかしさで身悶えている中、夢香は机から下りて、ポンっと私の背中を押して立ち上がらせる。


「とにかく! 愛優が今やるべきことは、須賀との誤解を解いて和解してくること。それ以外は考えない!」 

「う、うん……」

「ほら、分かったなら行った行った。早いうちに越したことはないよ」

「わ、分かったってばぁ……」


 半強制的に夢香に押し出されて、私は海斗君の元へと歩みを進めていった。

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