第10話 運命のくじ引き
迎えた、六時限目のロングホームルーム。
同性のペアごとに各々集まっているクラスメイト達は、緊張した面持ちで教壇を見つめていた。
教壇の上には紗季先生手作りの簡易的につくられた特製くじ引き箱が置かれており、中には番号の書かれた用紙が折りたたまれて入っている。
「いよいよだな……!」
「そうだな……ってか、なんで海斗はくじ引きごときでそんな気合入ってるんだ?」
「そりゃだって……田浦さんと一緒の班になるために決まってるだろ!」
「あぁ、そういうことね」
京谷は納得したように頷いていたけれど、表情は呆れ半分だ。
しかし、今はなりふり構っていられない。
絶対に田浦さんと同じペアになって、誤解を解かねばならないのだから!
「そんな遠回しなことしなくても、直接話に行けばいいのに。『SNSで出回ったあれは嘘だって』」
「それが出来てたら、今頃こんなに焦ってねぇっての」
あの告白の時以来、田浦さんとは
だからこそ、ここで学校行事という強制的な理由を口実にすれば、必然的に田浦さんと会話をしなければならない。
そこで、関係を修復することに加えて、誤解も解こうという魂胆だ。
「はぁ……お前はホント面倒くせぇ野郎だな」
呆れてため息を吐く京谷を横目に、俺は大きく深呼吸をして、全神経を右手に集中させる。
「
「やめろ、見てるこっちが恥ずかしいから」
俺の中二病全開の痛さに、京谷が困惑して周りを気にする。
けれど、今は何を言われようが構わない。
田浦さんと同じ班になれるなら、黒歴史の一つや二ついくらだってくれてやる。
それほどに、俺の頭はくじ引きのことでいっぱいいっぱいになっていた。
「それじゃあ、まずは女子のペアから順にくじを引きに来て頂戴」
紗季先生の声が掛かり、クラスの女子たちが教壇の方へと
その中に、田浦さんと木下さんの姿もあった。
丁度中盤くらいで田浦・木下さんペアがくじを引く。
二人はその場で番号を確認すると、そのまま何の気なしに教室の後ろの方へと戻っていった。
女子たちのペアがくじを引き終えたところで、今度は男子のくじが箱の中に入れられる。
「次、男子のペアは前に来て頂戴」
紗季先生が再び声を上げると、男子生徒たちは気合の入った声を上げながらぞろぞろと我先にと教壇へ向かっていく。
「うっしゃぁー!!」
俺も気合十分で他の男子生徒達に混ざり、肩を回しながら教壇前へと歩いて行く。
端から見たら、完全に浮かれている痛い男子。
けれど、今の俺には全く気にならない。
すべては、田浦さんと同じ班になるため……!
前から三番目に並び、一人ずつ番号の書かれた紙を箱の中から取っていく。
一人目、二人目が引き終え、ついに俺がくじを引く順番が回ってくる。
ちらりと箱の穴から中を覗くと、紙が八枚入っているのが確認できた。
一つ息を吐いてから、俺は開眼させた右手を箱の中へと突っ込み、紙をかき回しながら念を感じ取る。
『田浦さんとペアになれますように、田浦さんとペアになれますように、田浦さんとペアになれますように……っ!!!』
すると、右手の指先に一つの紙切れが引っ掛かった。
まるで、俺の念力に吸い寄せられたかのように……。
「これだっ!」
一枚の紙切れを掴み取り、手を引き抜く。
紙切れを持った右手を大きく上に上げ、思わず頬がにやける。
勝った……まさに確定演出、勝利BGMが教室に響き渡り、周りのクラスメイト全員が俺を祝福しているようだ。
実際は、気合が入りすぎていて悪目立ちしているヤバいやつにしか見えないのだが、本人にとってはどうでもいいのである。
右手に握り締めた紙を持ちながら、京谷の元へ
京谷は引きつった笑みを浮かべて俺を出迎える。
「お前、マジですげぇな」
「まあな」
「褒めてねぇよ」
京谷が呆れ交じりに突っ込むも、俺は京谷の言葉など聞いちゃいない。
ふっふっふ……勝った。
これでようやく、田浦さんとペアに慣れること間違いなし!
「ククク……ふーっふふふふ」
怪しい笑い声を上げながら、男子のペア全員がくじを引き終えるのを待った。
「はーい。それじゃあ、くじを開いて同じ番号の人と班を組んでください」
紗季先生の合図とともに、運命の時を迎えた。
俺は右手に握り締めていた紙切れをばっと開いて、番号をすばやく確認する。
広げられた紙切れには、『6』と数字が書かれていた。
田浦さんのペアも数字が『6』であれば、俺は晴れて同じ班で楽しい修学旅行を送ることが出来る。
俺の視線は、自然と田浦さんの元へと向かう。
田浦さんは、しばらく紙切れの番号を見つめながら、ちらちらとクラスメイト達の様子を窺っている。
すると、しびれを切らした木下さんが田浦さんの手元からひょいと紙切れを奪い取り、紙切れを掲げながら声を上げた。
「はーい、男子で『2番』の人!」
「……」
オワタ。
確定演出終了。
一気に俺の元に冬が訪れたかのように、冷たい冷気が突き刺さる。
呆然と立ち尽くす俺の代わりに、京谷が俺の右手から番号の書かれた紙切れを奪い取ると、続くようにして声を上げた。
「6番の人―」
京谷が声を掛けると、そこへドスドス……と音を立ててやってきたのは……。
「み、三浦君、よ、よろしく……」
「うっす三浦、よろしく!」
目元を前髪で隠し、か弱そうに細々とした声を出す女の子と、女子とは思えぬ筋肉質な身体つきで背丈も高く、野太い声をした女子生徒だった。
俺のメンタルは、トンカチで粉砕されたガラスのように粉々になっていく。
楽しい楽しい修学旅行、オワタ。
俺の夢は、こうして無情にも
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