第9話 班決め

 俺は宿題を終えて、ベッドに寝転がってスマホを開く。

 すると、紗季姉からメッセージが来ていた。

 メッセージには一文だけ――


『そう言えば海斗、修学旅行の班は決めた?』


 と書かれていた。


「あっ、そう言えば、何も決めてなかったな……」


 紗季姉からのメッセージで、俺はようやく思い出した。

 明日の六時間目のロングホームルームで、修学旅行の班で行く場所決めをするとか言っていたことを。

 俺はすぐさまスマホをタップして、紗季姉へ返信を返す。


『すっかり忘れてた。多分、ペアは京谷と組むとは思うけど……まだ何も決まってないや』


 すぐに既読が付き、紗季姉から返事が返ってくる。


『そう……ってことは他の子たちも、誰と組むかはなんとなく頭の中では決めてるけど、グループは出来上がってない感じかしら?』

『そうじゃない? まあほら、異性に班一緒に組もうって、中々声掛けづらいから』


 宇立高校うだこうこうの修学旅行の班は、男女二人ずつの計四人グループで組むこととなっている。

 ちなみに、修学旅行先は沖縄。

 班で一日自由行動となれば、基本的にタクシーを一台貸し切っての移動になるため、班内で密なコミュニケーションが求められるのだ。


『そう……なら時間もないし、男女の組み合わせは明日のHRでくじ引きで決めちゃおうかしら』

「くじ引きかぁ……」


 紗季姉の提案に思わず、そんな独り言が漏れる。

 最も公平性のあると言われるくじ引き。

 しかし、高校生活で最も青春の一ページの思い出となりえる修学旅行で、外れくじを引いてしまうようなことがあれば、修学旅行の思い出はつゆへと消え、生涯黒歴史へと塗り替えられてしまう。

 つまりこの班決め、クラスの女の子の誰と一緒の班になるかで、天国か地獄かを左右することになる。


『紗季姉、くじ引き以外で何かいい案はないかな?』


 俺はくじ引きの運に任せるよりも、自主的に班を組んだ方がいいのではないかと遠回しに尋ねてみる。

 そして、俺が修学旅行で同じ班になるならもちろん、田浦さんと同じがいい!

 そりゃ、振られてしまったけれど、彼女への想いというのは消え失せてはいないのだ。

 俺は、恋に対して諦めの悪い男なのである。

 しかし、振られて例の噂が出回ってから一週間ほど経過し、俺と田浦さんはまともに会話をするどころか、顔を合わせることすらままならない状態。

 そんな中で今回の修学旅行で田浦さんと同じ班になるためには、明日のロングホームルームまでになんとか田浦さんと二人きりのシチュエーションを作り、SNSの誤解を解かなければならない。

 それが今の俺にとって、同じ班になるための必須ミッション。

 今後の学校生活においても必要命題。

 うわっ、なにそれきっつ……。

 これ、無理ゲーだよ。


『海斗は、誰か組みたい相手がいるの?』


 俺が弱音をいていると、紗季姉から興味本位の返信が返ってくる。


『まあ、そんな感じ』


 俺はお茶を濁すように、返事を返す。


『ふぅーん。それじゃ、その人と同じ班になれるよう、自分の運をせいぜい祈ることね』


 あれぇ⁉

 なんか気づいたら、くじ引きでペアを決める方向に話が勝手に進んじゃってるんですけど⁉

 どうやら、俺の案は却下され、紗季姉はくじ引きという選択をした様子。

 紗季姉が一度決めた意見を曲げる可能性はゼロに近い。

 長年の付き合いで彼女の性格を知っているが故にわかるのだ。

 いくら俺が今から他の案を提示してもがきあがいても、無駄足を踏むだけだと。

 下手すれば、さらに紗季姉の機嫌を損ねてしまう可能性すらあることを……。

 明日のHR、修学旅行の班はくじ引きによって男女のペアが決められることが決定した瞬間だった。

 くじ引きは公平ともいえるが、運によっては地獄を味わうことになる。

 確率で言えば十分の一ほどだろう。

 こうなったらもう仕方がない、絶対にくじ引きで、田浦さんと同じ班になってみせる!

 天に祈りをささげるように手を合わせて、俺は夜空へと懇願した。


『お願いします。どうか、明日のくじ引き、田浦さんと同じ班になれますように』と。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る