第6話 後悔の念~愛優side~

 HR前の朝の教室で、私はため息を吐きながら頭を抱えていた。

 原因は一つ、先日校舎裏で受けた、告白の件である。

 あぁ、なんであの時、海斗君にあんな酷いことを言ってしまったのだろう。

 ました顔で『いくら罰ゲームだとしても、ここまでする必要ないと思うけど』とか、上から目線で言ってしまった自分を殴りたい。

 机の引き出しに海斗君から手紙が入っているのを見た時、私は嬉しさのあまり胸が幸せいっぱいに満たされた。

 あぁ……私の恋も遂に成就するんだ……。

 そんな妄想をしながら、うつつを抜かしていたのを覚えている。

 けれど結局、私は海斗君からの告白を断ってしまった。

 あぁ、絶好のチャンスだったのに、私はなんて馬鹿なことをしてしまったのだろう。

 自分の情けなさと後悔の念にさいなまれ、思わず深いため息を吐いてしまう。


「おはよー愛優あゆ! って、どうしたの? そんなに憂鬱な顔して?」

「おはよう夢香ゆめか……気にしないで」


 私に声を掛けてきたのは、友達である木下夢香きのしたゆめか

 グラマーなボディーに、金髪のロングヘアと日焼けした褐色色かっしょくいろの肌が特徴的な女の子。

 少しでも風が吹けば、簡単にパンツが見えてしまいそうなほどにスカート丈は短く、引き締まった太ももをあられもなく見せつけている。

 学校指定外のピンクのベストに、耳にはピアスをしている自由奔放なファッションスタイルのせいで、教師たちからは問題児として扱われているものの、彼女の明るさや周りを巻き込む不思議な魅力から、クラスメイトの女の子たちからは快く慕われていた。

 さらに、所属しているテニス部では、全国大会へ出場する実力の持ち主であり、強豪大学からの推薦の話もあるとか。

 そんな夢香は、なんの気なしに私の顔を覗き込んでくる。


「そんなうじうじして、どったの?」

「夢香には無縁の悩みだから、気にしないで」


 私は遠い目をして、窓の外へと目をやった。

 夢香は目立った容姿かつ美人であるため、好意を持った男の子たちがひょいひょいと群がってきて、その場のノリや流れやフィーリングの良さで彼氏を決めてしまうタイプなので、私のようにコツコツと好感度を上げていくタイプの参考には全くならないのだ。


「あっ、もしかして、ちょっと太った事気にしてるの? 大丈夫だって、愛優はちょっとポチャっとしてた方が可愛いし」

「ち、違うってば! ていうか、そんなこと大声で言わないでよ」


 私は慌てて夢香の口元を抑えて、辺りの視線を気にしてしまう。

 幸いにも、クラス内の喧噪で誰も聞いていなかったようで、こちらへ視線を向けている者はいなかった。

 ふっと安堵して胸を撫で下ろし、私は夢香の口を解放してあげる。

 そして、私は夢香の耳元で小さく囁いた。


「そうじゃなくて……ほら……この前のアレのこと」

「アレ……?」


 夢香は分からないと言った様子でキョトンと首を傾げる。


「だっ、だから! 例のSNSの噂」

「あぁーあれねっ! なに、まだ断った事気にしてるの?」

「そりゃだって……須賀君はそんなことするような人じゃないし……」

「まっ、人は見かけに寄らないってよく言うじゃん? 写真も出回ってるってことは、信憑性高いんじゃない?」

「うーん……」


 夢香はそう言うけれど、私は納得がいかずにうなりながら考え込んでしまう。

 あの時は頭の情報が錯綜さくそうして気が動転してしまい、海斗君にあんなむごい態度を取ってしまった。

 けれど、冷静に頭を冷やして考えてみれば、もしあのSNSの噂が真実なら、わざわざ校舎裏に呼び出して告白なんてしてこないのはすぐに分かること。

 結局、私は夢香から教えてもらったSNSの情報に惑わされてしまったのである。

 夢香は学校の色恋沙汰の話が大好きなのですぐにネタを提供してくれるけれど、今回はそれが私の恋路の足かせとなってしまった。

 校舎裏へ行く直前に夢香からそのSNSの情報を見せられていなければ、今頃私は晴れて海斗君とお付き合いすることが出来ていただろう。

 そんなたらればの話を何度も反芻はんすうしながら、私は自分のしてしまった行いを悔いていたのであった。

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