第15話 【一視同仁】

光一コーイチ一暗イアンが駆けて来る。

彼等は、それぞれ【人類村】から分かれた集落むらおさをしている。

【人類村】は、塀の中の広さが、東京ドーム位はあると思う。

そこに家を点在させていた。

これは、万が一 巨大なけものが、内部に入ってしまった時の対策として、この面積を確保している。

入るとしたら、5メートル前後の体躯のけものになると予想し、

もし入り込まれても、逃げられるだけの広さを確保したのだ。

もちろん、複数のシェルターも作ってある。


しかし、【人類村】が出来て、八年も経つと、子供達が増え過ぎて、流石に手狭になってしまった。

これでは、巨大なけものが侵入したら、逃げ場に困ってしまう。

そこで、安全対策として、【人類村】に付ける形で、二つの新しい居住区を作ったのだ。

もちろん、巨大な塀も作ってね。

そして、その居住区のおさに、年長の二人がなった。


居住区が一つでは無いのは、将来的な子供の増加を見越してと、私から分かれ出る子達の性質からだったりする。

分体スプリットを使うなよって話だけど、心が新しい子の存在を求めただけで、気が付いたら産まれているので、どうしようも無いのだ。


新しい居住区は、完成してから約二年経つ。


白族しろぞくおさのコーイチが、先ずは報告してきた。


「上水道の保守は済ませました」


「ありがとうね。コーイチお兄ちゃん」


「いえ、僕達の仕事ですから」


黒族くろぞくおさのイアンが、続いて報告をする。


「五つの狩場の様子は確認してきました。二箇所にかしょ けものが掛かってました」


「それじゃ、白族と黒族の年長者と、獣人ウェアの希望者で、狩りに行かなきゃね」


「はい」


「それぞれの大きさは?」


「10メートル級と5メートル未満です」


「じゃあ、みんなで気を付けて狩ってね」


「「うん。わかった」」


二人はそれぞれの管理する集落むらに帰る。


【人類村】を拡張して居住区を二つ増やした時に、外の狩場も一箇所 増設した。

大きくなった子供達が、外に出る事が増えたので、5メートル未満で2メートル以上の大きさのけものを集める狩場を作ったのだ。

最初からその規模の狩場を作らなかったのには、理由わけがある。

その大きさのけものが誘導されると言う事は、それに近い大きさ(より大きいけものと比較して)の人間や獣人ウェアも、移動がし難くなる事になるからだ。

でも、子供達の安全には代えられない。


「お母様!」

最近 産まれた白い髪の子が走り寄る。


「なぁに?」


「一緒にお外の畑に行きたい!甘いの食べたい!」


5メートル未満2メートル以上のけものの狩場を作った事で、塀の外の狩場の内側の部分は、道や水道の部分以外は、畑や田んぼにして使っている。

もちろん、出入口付近には、赤い実をつけるブルーベリーの様な果樹も沢山沢山植えている。

それを食べに行きたいと言っているのだ。

ちなみに、安直だけどレッドベリーと呼んでいる。


「じゃあ…… 他の子達も連れて、みんなで行こうか?」


「うん!呼んでくる!」


「黒の髪の子達も誘うのよ!」


「はぁーい!」


元々の【人類村】は、一番 幼い子達が残っている。

そして、大きくなると、髪の白い子は【白村しろむら】に、髪の黒い子は【黒村くろむら】に、移り住む。

髪の白い子と黒い子は、仲が悪い訳でも無く、ケンカをする事は無いのだが、誕生した時から、自然と同じ髪の色の子達と集まっている。

協力はし合うけど、白の子と黒の子は、過度には関わらない感じ。

同じ髪の色の子達と一緒の方が、居心地が良い、そんな感じにも見える。


「連れてきたよ!」

さっきの子の白光ハクコーが、他の子達も連れてきた。


「じゃあ、行こうか?」


総勢十一名で、お外に果物レッドベリー狩りに向かう。


「さあ、自由に採って食べておいで」


子供達に自由に採らせる。

私は周囲の監視だ。

狩場を内側に増やして、ここにけものが現れる事は、凄く少ないけれど、絶対では無い。

現れても大きさは人と同じ位のけものだけど、私には脅威じゃ無くても、子供達には危険だ。


「はい。お母様」

と、女の子の陽子ヨーコがレッドベリーを採ってきてくれた。


「ありがとう!」

かわいくてギュッと抱きしめると……

やばい状態になってしまった。


採っていた他の子達も、手に手にレッドベリーを持って、私に向かって来ている。


これは……全員をギュッとしながら褒める修行の開始だな。

即座に母親として、覚悟を決めた。

【分け隔て無く愛する】

これ絶対!

全員をギュッとしたら終わりでは無い。ギュッされた子は、絶対にまた採ってきて渡してくれるのだ。

何回 ギュッする事になるのだろうか……


先ずは二人目……


「はい!お母様!」

ヨーコと一緒に産まれた紗夜サヤだ。


「ありがとう!」

ギュッと抱きしめる。


私の前には、子供達の行列だ。

最後尾にはヨーコだ。


「お母さん がんばる!」


キョトンと私を見ている子達に笑顔を向けて、母親としての悦びに浸る。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る