1.5
「どうなってるの! リンクス君」
アルカスが地球世界から戻るなり、リンクスのもとへ詰め寄った。アルカスの表情からは、いつものわざとらしい大仰な笑顔が消えている。
リンクスは、管理局世界——リンクスたち管理者が住まう世界から、作業をしながら堂前明の行動を一部始終見ていた。
「なんであの人間は死なないのさ。運命をいじってまで殺そうとしたのに全部不発に終わってる。奥の手のビロコも失敗しちゃって。異世界から直接の召喚でたくさんリソース使ったっていうのに!」
アルカスが慌てふためくのも無理はない。アルカスとリンクスは、あの人間——堂前明を再び殺すために、管理局では使用を禁じられている運命への干渉を行った。
リンクスたちは、堂前明を蘇生させても簡単に殺せる、と腹づもりがあったからこそ堂前明との契約に同意した。明との契約は、「直接アルカスたちが明を殺さないこと」であるから、契約に反しない運命操作による間接的な殺害を試みたのだ。
しかし、結果はリンクスたちの予想を裏切るものだった。
運命操作による植木鉢落下で死ぬはずだった堂前明は、運命から逃れ、その後も、予備として用意していたいくつかの事故をも回避した。あまつさえ使用予定のなかった巨人の魔の手からも生き残った。
「沢山のリソースを使って、あいつを殺そうとしたのに、全部失敗なんておかしい! リンクス君、絶対なにかミスしたでしょう」
「私の操作は完璧でした。堂前明の運命の書き換えにミスはありません」
リンクスは端末を操作し、そばにある大型モニターに操作ログを映しだす。リンクスの操作が完璧だということがみてとれる内容だ。
「じゃあ、どうしてさ!」
「私もその点を疑問に思い、最初の事故が失敗に終わった時点で調査を行いました。その結果、非常に残念な事実が発覚しました」
リンクスは、先ほどのモニターに、堂前明の身長、体重、好きな食べ物、口癖などのパーソナルデータを表示させる。
「こちらを見てください」
リンクスは、明のパーソナルデータの中から、『
「『完遂する生命の
「詳しいことは不明ですが、堂前明の生命が危険にさらされた時、因果律を操作することで死を回避する効果のようです。分類は『
リンクスたちが行う運命操作は、絶対にさいころの六の目が出るようにするものだ。多大なリソースを割り当てることになるが、リターンは確実に得られる。しかし、堂前明が持つ『
「彼の
「なんで! 転生者でもないただの下等存在のくせに、最上位存在権限を持っているんだ! あり得ないよ。どうしてこうなっているの?」
「わかりません。ただ蘇生前の堂前明には、この能力はありませんでした。蘇生処理後に付与されたとみれるでしょう」
「つまり、リンクスのせいってことでしょ! やっぱりあの時、リンクス君の計画に乗らなきゃよかったんだ。あそこであいつを無理やり転生させておけばよかったんだ」
アルカスは空中で手足を振り回す。
明とアルカスが転生をするかしないかで平行線となったあの時、アルカスに一度蘇生して殺すことで転生に同意してもらおうと、リンクスは提案したのだ。
「転生には、彼の了承が必要でした。でなければ……」
「わかっているよ。僕らのやろうとしていることがバレて、最悪処分される、そうでしょ。耳がタコになるくらい聞いたよ」
ふてくされたようにアルカスは顔を膨らませる。
「それで、これからどうするのさ。あいつを殺せないんじゃ、バレる以前の問題で、僕らの計画が台無しになっちゃうよ」
「現時点で、彼のスキルの対策をこちらのリストにまとめてあります。有効かどうかは実際に検証してみないことには何とも言えませんが……」
リンクスは、モニターにあらかじめ作成した複数の対策案を映し出す。
それを読んだアルカスに、笑みが戻ってくる。
「いいじゃない。でも、もう一つ問題があるよ。僕らが呼んだ最終兵器ビロコを殺した女だ。人払いの結界もきかない、なによりビロコを一瞬で倒した戦闘力だ。地球世界の住民じゃないよね。あいつ何」
「そちらについても、調査済みです」
モニターの画面を切り替える。
明と同様に、姫宮桃花のパーソナルデータが表示された。
「姫宮桃花。お察しの通り、地球人類ではなく別世界からの転生者です。元の世界では、異次元から来た侵略者を退けた英雄です。一方で、大変女ぐせが悪く、複数の女性から恨みを買ったことが原因となって命を落としています」
「つまりそれって」
「はい。彼女——姫宮桃花は、元男性です」
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