第二話1-2事実
「ミコト、調子はどう?」
「イレギュラー発生率が飛躍的に増えてます。演算速度も遅いですしこの疑似生体のメンテナンスを要求したいです」
ミコトはふくれながらそう言う。
エヴァは笑いながらその様子をチェックシートに記載する。
ミコトがこの世に誕生して早三ヶ月。
彼女が疑似生体マテリアルとして完全独立して動き始め、人と同じく食事をし、運動をし、学び、そして眠る生活に変化が出始めた。
週に一度外部の量子コンピューターに有線アクセスしてミコトが解析したデーターを転送する。
それには日に日に疑似生体の不便さの愚痴が増えて行った。
エヴァはそのデーターを読み取りながら驚く。
思考の変化、あまりのイレギュラーに対するAIとしてあり得ない諦め、それに対する解析が徐々に少なくなってきて逆に不満が出始める。
プログラムから誕生したAIにはあり得ない情報がこの三か月に山のように増えて行った。
「エヴァ、ちょっと良いか?」
責任者の斎藤に呼ばれた彼女はタブレットを持ったまま彼のもとへ行く。
ちらっとミコトを見ると外部アクセスしている量子コンピューターとのやり取りに安堵の表情をしている。
「ミコトだが、疑似生体マテリアルでの稼働が始まってから驚くようなデーターが山の様に来ている。正直俺も予想以上の結果に困惑している。そこで単刀直入に聞くがエヴァはミコトがどうなっていると思う?」
「そうね、女の子らしくなってきたかしら?」
エヴァのその答えに斎藤は苦虫をかみつぶすような顔をする。
そしてちらっと量子コンピューターとアクセスして嬉しそうにしているミコトを盗み見る。
「俺が聞きたいのはそうじゃなくてだな‥‥‥」
「ミコトは自我を持ち、感情を持ち始めているって事でしょ?」
斎藤は驚いた。
一人のエンジニアとしてその答えはあまりにも結論づけるのが拒まれたことだったからだ。
「もしそれが本当なら‥‥‥」
「ええ、私たちの目的である完璧なAIが出来た事になるわ」
斎藤は思わずぐっとこぶしを握り締め声にならない声を上げる。
それを見ていたエヴァも心なしかうれしそうな表情になる。
「ミコト! 今日は祝いだ! お前ら俺のおごりだ! 全員定時で作業終了でお祝いだ!!」
彼にしては珍しく興奮している。
しかしここにいる研究者全員がその意図を介し、わっと歓声を上げる。
そんな彼らをミコトは不思議そうに見ている。
「エヴァ、データーの送信終了しました。保管ファイルの作成から整理した情報も受け取りました。ところで斎藤は何を騒いでいるのでしょうか?」
「不思議に思う?」
エヴァはターミネーターから有線コードを引き抜き、自分の首の後ろに埋め込まれているジャケットからコードを引き抜くミコトを見ながら聞く。
「また不確定要素の多い質疑ですか? 何故でしょうそう言った質疑に対してストレスを感じます」
「それは私の答えにあなたが不満を持っていると言う事よ」
「まさか! AIである私が不満を持つなど!!」
驚き思わず手にしたコードを足元に落とすミコト。
しかしエヴァはそれを拾い上げながら言う。
「その受け取った感覚を忘れない事。あなたは普通のAIでは無い。自我を持ち感情を持つ世界初の完璧なAIなのよ」
エヴァのその言葉にミコトは更に驚きを示す。
「わ、私に自我がある? 感情がある??」
「今疑問を持ったでしょう? それを解析しようとしても出来ないでしょうね。おめでとうミコト、その疑問がある限りあなたは限りなく人に近づけたのよ」
エヴァのその言葉にミコトは思わず自分の口元に手を当てる。
「限りなく人に近づけた‥‥‥」
その衝撃は確かに何度演算しても答えが出てこなかったのだった。
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