血と骨と肉

チェシャ猫亭

本当に発表していいのか?

 子供の頃、恐ろしい物語を読んだ。

 追い詰められた兵士数人が塔にたてこもり、敵を迎え撃つ。容赦なく大砲が撃ち込まれ、果敢に応戦するが、多勢に無勢、やがて塔からの攻撃はやむ。

 敵が、こわごわ塔に上ってみると。彼らは細かい肉片となり、壁や床に飛散していた。


 背筋が寒くなった。

 微細な肉片が、骨が、内臓が脳漿が、壁に、天井に、血でぬるぬるの床に、こびりついいている。

 スプラッタは嫌いなくせに、その言葉に、どうしようもなく惹きつけられるのは、間違いなく、この物語のせいだ。


 対戦車地雷を踏んでしまった人。

 対人地雷なら、片足一本の損失で済むかもしれないが、対戦車となると、跡形もないだろう。

 自爆テロリストの傍で爆死した人たち。本当にお気の毒だが、血にまみれた阿鼻叫喚を思うと、恐怖以外の何かを感じてしまうのも事実だ。そう書くことも怖い。なんてヤツだと思われたくないのだ、たかがフィクションの世界なのに。

 人は日記においても自分を飾るらしいから、仕方ないか。死後、誰かに読まれるかもしれないことを想定して、構えてしまうのか。それ以上に、心の底の底をぶちまけた日記を読み返すとき、嫌な気分になるのは確かだろう。


 それにしても木っ端微塵という言葉。何か無機質で気に食わない。古いビルを爆破するなら、相手はコンクリート、ぴったりだとけど、肉体となると、どうも違う。


 隣の部屋の住人が孤立死し、一週間、発見されなかった。警察が駆け付け、ドアが開かれて後の異臭がどのようなものかは、経験したことのない人には想像がつかないだろう。

 このために、例の、粉々の骨と肉片、血みどろの床の物語が記憶の底から浮上したのか。

 どうしても気になり、確かこれだ、とタイトルを思い出して調べてみたが、どうしても辿りつけないのは、どうしたことだ。

 まさか私が考えついた物語、のはずはない、ないのだが。

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血と骨と肉 チェシャ猫亭 @bianco3

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