第10話 日々は個性の殴り合い

 拠点である城が建ってから既に3ヶ月たった。

 まだ、冒険の旅には出発できていない。何故なら、実際に過ごしてみて城の中や外の森をせっせと自分たち好みに改造していたらあっという間に時間が過ぎてしまったからだ。

 俺の一日は、個性的な仲間に翻弄され、想像していた以上に、はちゃめちゃで、のんびりしている暇はないくらい楽しくて時間が経つのが速い。


 聖霊ハスキー犬の運動量はすざまじく、毎日、朝夕50キロほど全力疾走で散歩と称して駆け回るのに付き合わされている。勿論、サマル君も一緒だ。ついでに周辺いた魔物も狩り、他の魔素溜まりも浄化しながらなので、周辺の森もだいぶスッキリして、どこも空気が清々しく、木々も生命力溢れる緑の葉で覆われている。


 マサシ君と修行していたシマリスのかんちゃん、とんちゃん、チーくんは何と本当に人化できるようになったが、人化した姿がどう贔屓目に見てもただの可愛い2歳児でヨチヨチ頼りない足取りに周囲が不安になってしまった。ハスキー犬たちは、小さな子に庇護欲が湧くらしく、犬の姿でも人の姿でもそっとサポートしているところをよく目撃する。

 サマル君は少しだけスパルタで、何事もできるまで手を貸さず、仁王立ちで監視し、できると物凄く可愛い笑顔で挑戦したことを褒めるのでシマリスたちは俄然張り切りドンドン上手に体を動かすことができる様になっていった。

 今では、やりたい放題のわんぱく小僧の集団で、少し目を離すと自分で掘った穴にハマって出れなくなったり、階段で遊んで上から転げ落ちたりと忙しない。

 元がシマリスだし、魔力もある。マサシ君の修行で丈夫にもなったらしいので、怪我らしい怪我をしていないのが余計わんぱくに拍車をかけているし、驚くほど学習せず、同じ失敗を繰り返していて、ちょっと残念な知性が恨めしい…

 あの出逢った時に放ったthe愛らしいポーズが、実は魅了魔法だったらしく、魔物に出くわしても咄嗟に魅了して難を逃れていたと初めて聞いた時は驚いた。今はさらに、技を磨き威力が増したらしいが、残念ながら俺には効かない。

 彼らは今日もそこら辺を自由に走り回って穴にハマっているだろう。

 

 マサシ君が人化した姿は、ある意味予想通りの肉体系爽やかイケメンで逞しい胸板と上腕二頭筋が眩しい。 

 彼は今、開拓した城の周辺で作物を育てている。地球上の野菜や果物をせっせと植えてはドンドン収穫している。魔力が多く含んだ土のおかげと、マサシ君の作物への愛のせいか、やたらと成長が早い。収穫した作物はダン君が美味しい料理に変身させてくれるし、余った野菜などは周辺の動物に分け与えているので、たくさんの動物がよく遊びに来る

 

 周辺には結界と共に目眩しの術が張ってあるが、魔石を持たない動物は可と条件をつけたので彼らはフリーパス。

 おかげでいつでもモフれるので幸せだ。

 マサシ君が希望者に人化を教えてあげてるので畑を手伝ってくれる人手も増え、農耕地がドンドン拡張されていき、昨日とうとうストップをかけた。貴方、何処に向かってるの?

 

 ダンくんは散歩以外の時間をずぅーっとキッチンで過ごしている。いつの間にか大きなピザ窯まであったし、キッチン自体も広く改装しカフェスペースが併設されていたので驚いた。

 ジョン君と相談してより自分用に快適にしたと、とてもいい笑顔で教えてくれたけど、俺は?君のご主人様では?…まぁ、幸せそうだからいいけどね…

 大好きな料理を大量に作っては、自分で食べるを繰り返し、散歩に行かなければ、ぽっちゃりを通り越してデブと呼ばれる状態になるだろう。毎日、鬼教官のサマル君に無理やりキッチンから引っ張り出されて追い立てられるように森を走っている。

 軍事訓練かな?

 

 サマル君はメイド道を極めるのだと毎日何故か暗殺術に磨きをかけている。彼の中のメイドの定義がどうなっているのかよくわからない。何せお茶汲みどころか、掃除や洗濯なども一切しないのだ。それは自分の仕事ではないと真顔でキッパリ言われたし、どうやら猫の特性なのか俺を主人と頭ではわかっているようだが、ナチュラルに下僕認定している。かなり適当に扱われているからね、俺。それを許し、甘やかしてしまうのは、お猫様だからだろうか?先月も可愛らしく暗器のおねだりをされてジョン君と相談して鍛冶場を造設しちゃったしね。


 そして俺は恐るべき能力を自覚した。

 俺ってば一応、神様なので作れば神器が聖霊化できるみたい。


 鍛冶場自体は、カタログにあったので注文したし、鍛治聖霊はとても無口なナマケモノだった。ほぼ動かない。

 サマル君の暗器はナマケモノのラリー君が作り、その作業を見ていた俺も自分の武器が欲しくなり折角なので自分で作る事にしたのが、マズかった。神が作れば神器ですなと、ウキウキしながらラリー師匠に教えを乞い打ったのが所謂、日本刀の打刀で打ち上がった瞬間に刀が聖霊化してしまった。

 その時はまだ、某スマホゲームのように打刀自体が擬人化した訳ではなかったのに、意思があり会話もできたので話がややこしくなった。

 何しろ彼女?にとても残念がられ、激しくダメ出しをされたのだ。どうやら自分を振るう人には一定以上の筋肉を求めているようで、俺は不合格。もっとムッキムキになって欲しいと言われたが、この体は成長しないし、俺は今の体が気に入っているので、交渉が決裂。

 もういい!なら自分で振るう!と俺の神力を無理矢理引き出して自身を実体化したのだから勘弁してほしい。

 ただ折角、実体化したが、残念ながら彼女の理想とはかけ離れた姿だったようで細身で箸以上の重たい物を持ったことがない様な筋肉のきの字もないひ弱な細腕に鬼の形相で滅茶苦茶文句を言われた。

 余りの暴言の数々に俺氏涙目…

 一通り文句を言ったらスッキリしたのか、ないのなら作ればいいじゃない!と閃き、現在は肉体改造に余念がない。

 早急にジムを作るよう強く要求され、作るまで延々と筋トレしながら付き纏うという奇行に音をあげ、要求通りの立派なジムを城に作り上げた。マサシ君も喜んで利用しているので、この際これはいい事だと思っておく。

 

 俺は、素直にラリー君に頭を下げてお願いし、俺用の打刀を打ってもらい、二度と自分では武器を打たないと心に誓った。

 

 打刀の聖霊が実体化した女性は、見た目は深層の御令嬢なのに恐ろしく我が強く自分の欲望に忠実だ。

 自分を神が創り出した刀だから神刀、美筋びきんと呼べと命令してきた時は、そのネーミングセンスと筋肉愛に目眩がした。俺の深層欲求が形になった訳では無いと思いたい。

 

 一見真面そうなジョン君が意外と曲者だと最近気がついた。

 彼は極度のブラコンなのだ。弟たちが大好きで彼らのお願いは大抵無条件で叶えているし、彼らが最優先になっている。

 俺の知らない施設ができていると大抵が、弟たちのために彼が建てたもので、俺へは一切の報告はないのだ。問いかけても、可愛い弟のお願いを叶えないつもりですか?と真顔で訊かれヤバい奴認定をしておいた。 

彼は俺をご主人様と呼ぶが、何時でも幾らでも引き出せるATMだと思っている気がして、呼ばれる度に、ご主人様ATMと俺の中でルビがついている。

 幸い、弟たちはそれぞれクセはあるが素直でいい子たちなので、彼らを通してジョン君をコントロールするコツを短期間で学んだ。実地学習は効果抜群!でした。

 

 天野君に関してはある意味予想通りで、自分の部屋に引きこもりゲーム三昧だ。

 小さい体全体を使ってコントローラーを操るのは、側で見てると面白い。

 ただ、遊んで欲しいシマリスたちが突撃しては、ゲーム機の電源を落としてしまい、セーブ前のデータが消えて悲壮な雄叫びが度々聞こえてくるのはご愛嬌。嘆くが、切り替えも速いのでシマリスたちと全力で遊んでいるし、偶にサマル君による新作暗器の試し打ちの的として命懸けで逃げている。

 そんな日常を送っても心身共に元気なのはさすがだなと密かに尊敬している。


 この様に、一同が清々しいほど自己中に過ごしており、新たに鍛治聖霊のラリー君と神刀の美筋ちゃんも仲間に加わって、より日々の騒がしさが増した。


 ちなみに、未だにギンちゃんは戻ってこない…

 

 





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