第9話 生まれじゃない、育ちが重要

 姿勢良くお座りしている四匹に目を戻してご挨拶。

 「初めまして、俺がこの城の持ち主の真です。主でもマスターでもお好きに呼んでください」

 真ん中にお座りしているハスキーが代表なのか、一歩前にでて、かつてない落ち着きのある美声で各自を紹介してくれるのを驚愕の思いで見つめる。


 …できる聖霊だと…?


 「では、ご主人様我らはこの城の管理維持を任されております渡辺四兄弟でございます。私、長男で執事を仰せつかっております、ジョンと申します。こちらが調理関係を仰せつかっている次男のダン。三男のマサシは庭師としても優秀でございますし、四男のサマルはメイドとしてご主人様を陰日向にサポート致します。我ら心よりお支え申し上げますのでよろしくお願いいたします」

 ビシッと揃って頭を下げてから、一斉に頭を上げると期待のこもった目で見つめられる。

 オヤツを前にして飼い主のヨシ!を待っているワンちゃんのようで、微笑ましい。

 ……所々、ツッコミ箇所は有るが概ね許容範囲なのでは?と四匹を見つめる。

 えっと、ジョン君の右隣のちょっとぽっちゃりが次男のダン君で、ダン君の隣のガッシリが三男のマサシ君、ジョン君の左隣の猫が四男?のサマル君ね…サマル君が猫に見えるの俺だけ?それに三男だけ名前の系統違くない?

 「こちらこそ、そんな丁寧な挨拶してくれてありがとうね。でも、絶対に迷惑かけるからそんなに堅苦しくしないで仲良くしようね。適当に力を抜いてやってよ」

 猫の存在をツッコんで聞いていいのか、わからなくて微妙な表情になっていたら、空気を読まないことに定評のある天野君がズバッとストレートに問いかけた。

 「俺は天野だ!なぁ!猫だよな?犬の兄弟に猫が紛れてるよな?」

 天野君を嗜めた方がいいのだろうが、俺も気になるので今回はあえてスルーの方向で。

 

 天野君が猫と言った瞬間に、サマル君の目がカッと吊り上がり、毛をボァっと逆立てて猛抗議する。

 「オレは猫ではない!何処に目をつけているんだこのネズミが!何処をどう見ても立派なハスキー犬だろうが!」

 「!?ネズミじゃねぇよ!オレ様はモモンガだぞ?」

 天野君とサマル君が激しく口論を開始すると、ジョン君達ががこっそりと俺に事情を話してくれた。 

 生まれて間もない時に親に捨てられたサマル君を拾って育てたのが兄弟の母らしく、物心がつく前がらハスキー犬と一緒に育った為、自分をハスキー犬だと信じて疑わない。母親もサマル君を『私の小さな息子』と自分達兄弟と分け隔てなく愛を注いで育てたので余計に犬としての意識が強く根付いているらしいのだ。一応ハスキー兄弟はサマル君が猫である事を理解しているが、可愛い弟には違いないので問題はないらしい。

 うむ、良き家族愛だな。

 「いいね。別に犬か猫かなんて関係ないよな。ちゃんと家族の絆で繋がってるのが素敵だね。それより、何でサマル君は男の子なのにメイドなの?」

 犬としての矜持が強い猫ってことはともかく、男の子がメイドって嫌がられなかったの?

 「神器付きの聖霊は人気の就職先なんです。神器自体が聖霊になるか、神器に聖霊を付けるかどちらかなので。募集が出たら毎回取り合いです。今回、城の募集内容が執事、メイド、調理師、庭師他だったんです。私たちは皆、人化もできますし、家族なので纏めてこの城に受かりました。人化したサマルは美少女でメイド姿がとても似合いましたし、本猫も仕事内容が気に入ったのでそのままメイドとして採用されたんです」

 しゅ、就職先だったのねー!ちょっと面接官、ギンちゃんは車のナビ聖霊としてどうかと思いますけど?基準は何なの?

 現在どこかをノリノリで暴走中であろう九官鳥を思い浮かべて首を捻る。

 「人化って聖霊ならみんなできるもん?」

 「いえいえ、それなりに力が無いとできませんね。この城を維持管理するにはどうしても人化が必須スキルになりましたが、神器によってはそのままの姿で問題ありません」

 俺の足下でやってきたハスキー犬にビビって固まっていたシマリスたちだが、人化と聞いて息を吹き返し、興奮しながらジョン君に突撃して質問攻めにしている。

 「マジかよ!変身できるって本当か?カッコイイじゃねぇか!オレもしたい!」

 「ボクもできるようになる?」

 「わははは!興奮するなー!」

 一斉に喋るシマリスにダン君が匂いを嗅ぐように鼻を近づけ、食べれるかなっとボソっと言うのは聞こえないふりをしておく。

 シマリスはビクッとしたが、ダン君をチラッと見て少し距離をとりつつも、ジョン君に技の教えをおねだりしていた。

 ちっこいけど、逞しいよね。彼ら。

 「君達ほどの魔力では人化は無理ですよ。もっと修行して魔力量を増やさなくてはなりません」 

 「修行は厳しいぞ!それでもいいなら俺が教えてやるから死ぬきでついて来い!」 

 マサシ君ががっしりした体を見せつける様に胸をそらすと、シマリスたちは一気にマサシ君に師匠ー!突撃しその体によじ登る。

 「ご主人、コイツらは俺が預かってもかまいませんか?必ず立派な魔獣に育てあげますので!」

 「え?ああ、うん。シマリス君たちがいいなら俺はかまわないよ。寧ろ、マサシ君の仕事の邪魔にならない?」

 師匠と呼ばれ満更ではないムキムキのマサシ君にシマリスの行く末にちょっと不安になるが本人たちがすこぶる乗り気なので止められない。

 早速、修行に入るらしくシマリスを乗せたマサシ君が悠然と森の中へ歩いていくので一声かけておく

 「あんまり遠くへ行っちゃダメだよー!」

 「ご主人様、心配はいりません。マサシはアレで面倒見がとても良いのです。サマルが人化できる様になるまで、つきっきりで訓練に付き合ってましたからね。彼らもきっと立派なシマリスに成長することでしょう」

 立派なシマリスとは…?

 「そろそろ城の中をご案内したいのですが、よろしいですか?」

 「ああ、お願いします。できれば人化して案内してくれると嬉しいな」

 かしこまりましたと頷くとハスキー犬が其々光りだす。その光を見て、天野君と口喧嘩では決着が付かずとうとう追いかけっこをしていたサマル君が慌てて戻ってきて一緒に人化する。

 どんな姿になるのかワクワクするね!

 

 光が薄れ現れた人たちを見て、俺も天野君も口があんぐり開いてしまう。

 

 執事服を見事に着こなした細身の知的で美人なメガネイケメンは如何にも仕事ができますという知性が溢れているし、コック服姿の男人は、優しげな目元となキュートな笑窪が印象的で少々ぽっちゃりとした姿が美味しいものを作ってくれると安心感をもたらしてくれている。そんな2人に遅れて人化したサマル君は、何処から見ても完璧な美少女メイドで顎のラインで切りそろえられた艶やかな黒髪とちょっと生意気そうに吊り上がった猫の目が印象的だ。

 ジョン君とダン君は20代前半に見えるが、サマル君は10代後半にしか見えない。

 天野君がサマル君の美少女ぶりに落ち着きなくワタワタしているが、アレが噂の男の娘ですよ…

 天野君は、オレの人型は最高にイカすんだぞ!っと歯軋りしているが、残念ながら罰としてモモンガになったので、人化はできない。地球の天界の許しがいつかもらえるといいね…

 「…うん。まぁ容姿がいいのは予想通りだけど、本当に素晴らしく目の保養になるね」

 「お褒めいただき光栄です。では、早速中をご案内いたしますね」

 俺より頭一個分背が高いジョン君に促されて城に入るとその広さと外側からでは思い浮かばなかった内装に度肝を抜かれる。

 中は現代的にモダンなイメージで纏められていて、無駄に豪華なアンティークな装飾や絵画は一切なくどこも色彩が現代的で落ち着いた雰囲気だ。

 不要な箇所や欲しい機能も改装して追加も可能で、これからゆっくりと城を自分好みに育てることができるとかヤバくないか?!

 特に気に入った場所が図書室で1階から3階部分の部屋が中で独立した階段でつながっていて、本棚には地球上のあらゆる分野の本が欲しいだけ所蔵できる。現在は、日本の一部の書籍だけだが、ここに無い本もデータで管理していて頼めば本にしてくれるそうだ。

 「夢のような場所デス…幸せすぎて昇天しそう…ここに数日は籠っていられる」

 部屋が沢山ありすぎて覚えられないので、とりあえずは主要箇所のみ案内してもらったが、どの部屋も想像以上に快適で過ごしやすそうだった。

 天野君達にも気に入った部屋を個人部屋として好きに使ってもらい、この城がみんなにとって帰るべき場所になるといいなと、ちょっとクセのある個性豊かな聖霊達を見て思う俺でした。


 

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