第7話 『紅の九官鳥』はヒット作
真面目に仕事(魔物退治)をやり過ぎたのでしばしの休息を楽しむことにした。
ゆっくり湯船に浸かり、ベッドでぐっすり睡眠をとったら気分爽快!ベッドでゴロゴロする至福の時間を数日過ごして、たっぷり堪能できたので、そろそろ今後の予定を考える事にする。
「アレンさんは魔素溜まりを浄化して、そこを拠点にしろって言ってたけど、その魔素溜まりに行くまでが、面倒だよな〜」
場所をソファーに移動しコーヒーを飲みながら、森にいるだだけで魔物が寄ってくる状況を憂いてぼやきながら天野君を見やれば、ケーキに突っ込んで貪っていたらしく、全身に生クリームをつけていた。
「…どう言う食べ方?いやそれよりどうしたらいいと思う?」
ケーキで満たされ、ぽんぽこりんのお腹を満足気に叩きながら、ゲップをし、おっと失礼なんて軽く謝罪するモモンガに呆れた視線を向けつつも意見を問う
「この車、自動運転機能が付いてるだろ?ナビでそこまで一直線でいいだろ?拠点作ってから魔物をゆっくり刈っていけばいいじゃん」
「なるほど。それがいいね」
天野君にしては
「えっと…たしかここに神力を流して設定すると持ち主登録完了になって…ってうわ!」
神力を流した途端ハンドルにある某神印のエンブレムが光出して中から九官鳥がバァーンっと効果音と共に派手に現れた。
「あんたが私のマスターかい?私はこの車のナビ聖霊の佐藤だよ。ギンちゃんって呼んでおくれよ。さぁ、何処に行きたいんだい?誰よりも速く送り届けてあげるよ!」
おさなげで可愛らしい声に対して喋り方が合っていない…違和感が凄くて軽く脳が理解を拒否している。
「よう!俺は元死神で現在は主の眷属の天野だぜ。俺をただのモモンガとあなどるなよ?」
思考停止している俺を他所に、天野君とギンちゃんはイエーイと拳と翼を打ち付けるように合わせて挨拶を交わしている。スゴイもう打ち解けてる。そのテンションについていけない。
ナビ精霊が何で九官鳥なの?そこは疑問に思わないもんなの?
「佐藤ギンって名前なの?俺が持ち主になる新米神様の真だよ。よろしくね」
気を取り直して、若干引き攣った笑顔で自己紹介をする。
「おう!マスターはまだヒヨッコなんだねぇ!まぁこのギンちゃん様に任せてくれりゃ何の心配もいらねえってことよ。ギンちゃんはただの自称だけど、私は走り屋だからね!佐藤よりらしいだろ?」
…自由かよ。車のナビが走り屋ってどうなの?それ大丈夫?
「…想像していた機能とだいぶ違うけど、あの本当に任せて平気なんだよね?」
「ふっ…心配御無用!運転できない黒い鳥なんて只のカラスさ」
「え?うん?なんて??何でいきなりカラスをデスるの?君って九官鳥だよね?」
決め台詞?らしきものをポーズ付きで決めてくるが、余計不安になる。それ某アニメの豚のセリフを捩ったの?
「『
天野君は、興奮してピョコピョコ跳ねてるけど、それって天界ではメジャーな作品なの?それカラスからクレームきて九官鳥とカラスで争い事にならなかった?ツッコミどころが多くて処理が追いつかない…
「だろ?やっぱ九官鳥としてはいっぺん言ってみたかった憧れのセリフ!使い所が難しいんだよな〜とにかく
盛り上がるギンちゃんと天野君に、この二匹の聖霊と一緒って当初の予定とは違う意味でハードモードになる気がして震える。もしかしてカタログ内の神器の聖霊ってこんなのばっかなんじゃ…お詫びって言うより、ヤバイ聖霊をモリモリ押し付けられただけ?
恐ろしい事を想像してしまい気が遠くなっている俺を他所に、二匹は意外と真面目に目的地へのルートの設定を立体的に浮かび上がった地図を見ながら開始している。
「ここが一番魔素が濃いんじゃねえか?」
天野君が示した場所はここから南へ3キロ程下った所にあって、確かに魔素の濃さを示す様に赤く発光した丸が忙しく点滅している。
「そうだけどよ〜こんなちけぇとすぐ着いちまうから運転した気にならねえし、つまんねえよ。もっとこう私の燃えたぎる走り屋魂が満足できるくらい遠いとこにしねえ?」
「…待て待て、それじゃあ目的が変わってるじゃん。ギンちゃん今は君の走り屋魂は終っておいてよ」
ものすごく個人的な願望で行き先を決めるナビ聖霊に待ったをかけ修正をする。えっとナビだよね?コレに任せて本当に平気?ちゃんと機能してるの?
たしらめられて、不満たらたらのテンションだだ下がりの九官鳥がへいへいとつまらなそうに相槌を打ってから器用に上目遣いでおねだりをしてくる。
「…じゃあせめてそこの浄化が終わったら私の好きなだけ走らせてくれるかい?」
「拠点作りしたいからもっと時間をくれない?」
「マスターなんか乗ってなくてもいいんだよ!既に持ち主登録されたから神気は満タンだからな!走りてーんだよ!この熱い魂が私を駆り立てるんだ!この車を自由自在に扱ってかっ飛ばして〜ってな!」
「俺をガソリンスタンドみたいに扱うのやめて?マスターでしょ?…わかったよ浄化が終わったら暫く自由に走ってきなよ…」
許可を出さなければ、直ぐそこの魔素溜まりに辿り着くまで勝手に半年くらいかけそうな為、俺が折れる。
「話のわかるマスターで嬉しいねぇ!そうと決まればこうしちゃいられねぇな!今すぐ出発するぜ」
ギンちゃんはハンドルの上に陣取り、俺にシートベルトを着用させるとブオン!とエンジンをかける。
スピーカーからノリノリのダンスナンバーが大音量で流れ出したら、カッ!っと目を極限まで見開き翼を広げて胸を張ったと思いきや、此方が注意する間もなく、いきなりトップスピードで走り出す。
勢いが良過ぎて、首が後ろに持っていかれて、圧によって押し付けられる。
「くっ!…ちょ、まって!」
障害物はすり抜けてるいのに、足で器用にハンドルを動かし無意味に高速ドリフトしながら進んで行く。
その度に天野君がピンボールの様に吹っ飛ばされて窓やフロントに激突しているが、ギンちゃんはお構いなし。寧ろテンションが爆上げしたらしくヒャッハーっと奇声を上げながら首でリズムを刻み、ダンスをしながら更に激しくハンドルを操作している。
俺や天野君は
「ちょ、ちょっとギンちゃん落ち着いて…だぁっつ!」
弾丸のように吹っ飛ばされてきた天野君が眉間に命中して一瞬、星が飛ぶ。既に天野君は気絶しているし、頭にはでっかいコブができている。
「お願いだから止めてーーー!」
絶対に遠回りしたと確信しているが、目的地に着いたら直ぐに、ぜいぜい荒い呼吸をして疲れ切った俺たちをペイっと車の外に吐き出し、ギンちゃんは、さっさと走り屋魂を満足させに走り出してしまったので、文句も言えなかった。
浄化が済んでからって言ったのに…聞いちゃいねぇし、俺も天野君もヨレヨレ過ぎて止める間もない早業だった。
あの暴走九官鳥はいつ戻ってくるんだろう?他の人には見えないし、障害物をすり抜けるから死亡事故なんて起こさないだろうけど、想像もつかないことをやらかして俺に迷惑をかける未来が見える…これが予知?
一度キチンとお話し合いお話し合いをしなければ!と決意を胸に、未だ放り出されて座り込んだままの姿で、車が走り去っていった方を力無く見つめるのだった…
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