第6話 天野君

 最初の魔物を倒してから一体どのくらいの時間、魔物を倒していただろう…昼夜を問わず少し歩くだけでわらわらと襲いかかってくる魔物たちを千切っては投げ、粉砕し休む間もなく殲滅している。

 魔物ってアレか?アノ1匹みたら30匹いると思えという黒い悪魔の関係者ですか?

 神様モードの体は一向に疲れはしないが、さすがにもう飽きてきた…目を瞑っていても退治できる自信だってある。

 天野君なんて「これ主の神力でパパッと魔石だけを集められるよな?」と言って唯一だった仕事をやめて動きまくっている俺の頭の上で器用に寝ているくらいだ。

 解せぬ…我、主ぞ?主のみが働いておるぞ?

 既に何百体目かに当たる大型の蛇の魔物の首を切り落として絶命させた後、ちょっと休憩しようと縦横半径10メートル程に結界を張り、無限収納から貰ったカタログを引っ張り出す。

 「天野君いい加減起きてよ。俺も飽きたから少し休憩するし話し相手になってよ」

 頭にへばりついて寝ていたモモンガを引き剥がすと、気持ちよくウンガッといびきをかいて熟睡していたせいか、無理矢理瞼を開けようと変な顔になっている。

 「…ふぁ〜あ、もう終わったのか?いやーすんげー大量に魔物がいんのな?主、お疲れさん」

 「……天野君、ほぼずーっと寝てたでしょ?サポーターとしてどうかと思うよ?」

 半眼で見つめると、頭を掻きながら申し訳なさそうに悪りぃと謝ってくる。誠意が感じられない…

 「せっかくだし、カタログからなんか都合がいいものを選んで、ゆっくりできるようにしようよ。地べたに直で座っても全然休んだ気がしないもん」

 カタログ片手にそう言うと天野君は定位置の肩に陣取り甘いもんが食べたいな〜なんて呑気にリクエストしてくる。

 キャンプ用品のページを開くとキャンピングカーや大きめテントなどアウトドアグッツがたくさんあって見てるだけでも楽しい。

 「すんごい品が充実してるけど、これ一体何処から提供されてるの?」

 商品案内に何々工神作とか何々神工房とか書かれているのが気になる。機能がえげつなく高性能の天界品らしいが、何やってるの?神様たち…

 「さすが、お詫びの品だな!このカタログ特別版の最高級じゃん!一般の死神じゃお目にかかる機会なんてないぞ!このキャンピングカーいいんじゃね?」

 目を輝かせて身を乗り出してカタログを覗き込むが、俺がこれを手に入れたそもそもの原因は君です。覚えてる?

 天野君が指さしたキャンピングカーは一見某高級スポーツカーだが、中は広めのマンション並みに空間が拡張調整されている為、機能性も抜群だ。

 「これもう家じゃん。すげーな自動運転だし、神気で覆えば障害物をすり抜けて通るってなんだよ」

 地形なんて関係ない!何人たりとも神の行手の邪魔はさせないってこと?

 「あ〜それ簡易神域になるってやつだな。道なき道もなんのそのってやつだ。でも利用できるのは一定以上の神力のある者だけだし、メテウスの地上の住人は主が認めても乗れないな。なんせ神域だし!俺は眷属だから大丈夫!」

 天野君がコレにしろって急かしてくるのでとりあえず注文してみる。商品欄の魔法陣に神力を流すと<ご注文ありがとうございます>の文字。

 次の瞬間には目の前に見た目スポーツカーの真っ赤なキャンピングカーがドンと現れた。

 「おふっ!すごい!かっこいいじゃん」

 早速、中に乗り込んでみるが、運転席とは区切られた住居スペースは驚くほど広々としていて車の中とは思えない。デザイン性が重視された家具がセンスよく配置されているリビングに、使いこなせそうもない機能が満載のキッチン。ゆったりくつろげる大きな浴槽のある風呂場。寝心地が良さそうなキングサイズのベッドがある寝室。

 はぁ〜スゴイ…

 うっとりしながらソファーに脱力して座り込んでいるとはしゃぎ倒していた天野君が戻ってきた。

 「わはははどうだね。神の技巧は素晴らしかろう!」

 まるで自分が作ったみたいな言草だが、確かにすごいのは認める。

 「神様が直々に作ってるの?無駄に凝ってるんだけど…」

 「そうだぜ!たくみの神たちがわざわざ地上に降りて技術や製造過程を学んだ上で天界バージョンを作製するんだ!最高級品だぞ?神が神のために作るんだからな〜その劣化版は俺たち下級の死神とか天界の一般職員でも手が届くがな」

 「えぇ?なにやってるの?その恩恵に預かることができたんだから文句を言えた義理はないけど、自由すぎない?神様たち…」

 工場見学している神様を想像して笑ってしまう。

 「向上心と探究心が溢れているからな!常に最新の技術を求めていらっしゃるぞ?」

 天野君がうむうむと重厚に頷きながら神の特性を教えてくれる。

 「神様が率先して真面目に働いているのに、天野君はどうなの?」

 やらかし度合いがシャレにならない元死神にちょっと意地悪な質問を投げかける。

 「だぁー!人の古傷メッチャ抉ってきたな!俺だって二度目はないぞって脅されていたから慎重に仕事してたんだぜ?主には本当に申し訳ないと思ってるし…」


 ポツポツと人違いしてしまった過程を話を始めた天野君だったけど、その内容が酷かった…慎重って言葉の意味知っている?


 天野君が言うには、俺の魂を刈ってしまったその前日に待ちに待ったゲームの新作が発売されたから夢中になって朝まで寝ずに遊んでいて、就業時間ギリギリに軽く回収者の名前だけ確認して、現場に直行した結果の人違い。中々魂が刈れないから鎌を買い換えないとダメかなって思いながら力任せにしたせいで生の反発を喰らって俺は資材の下敷き。身体が現代医療では修復できないほどぐちゃぐちゃなったらしい。

 そりゃあ残り寿命が60年あれば生の抵抗力も強いよね…

 「ねぇ…どこが慎重なの?ダメじゃん全然反省してないじゃん。ペロッと被害者の俺に言っちゃうのもダメじゃね?」

 てへっと可愛らしく誤魔化しているけど、誤魔化しきれてないからね?

 「主には正直であろうって思って!なんせ廃棄されそうなところを救ってくれたんだからな!」

 天野君なりの誠意の表れらしいが、ちょっとずれてる。俺は別に怒ってはいないけど、呆れてはいる。コイツ、ヤベーなって…

 「それにしても死神って鎌で魂刈るんだね。それはイメージ通りかも」

 重厚な鎖鎌でバサーっと切る場面が浮かぶな〜と思っていると天野君があっけらかんとああ草鎌でな!とか言ってくる。

 「うん?草鎌?あの雑草とか刈るヤツ?鎖鎌じゃなくて?」

 「大体の死神は天界の量販店で売ってる草鎌を使ってるぜ?こだわりの強いヤツはオーダーメイド製を使ってるけどな」

 コレっとどこかから取り出した草鎌を見せてくれるけど、本当にただの草鎌…俺はこれで魂を刈られたのかと思うと微妙な気持ちになる。様式美って大事じゃない?

 「コレは魂しか刈れないし、ここは俺の担当じゃないから魂も刈れないんだよな…ごめんな役に立たなくて」

 しょぼんとしてるけど、寧ろそれでOKだと思う。だって天野君てば、また人違いで魂刈りそうなんだもん。こちらの天界の職員さん達に迷惑かけるし、下手したら俺も監督責任を問われそう。今度やったらアレンさんも許してくれないだろうね。廃棄は免れまい。

 「じゃあ時期が来たら偵察とかしてよ。やれる事はあるから気にすんなよ!今は俺の話し相手で十分だし」

 そういうと天野君はパァーと笑って小刻みに上下に揺れる。それ、嬉しいダンスなの?

 「任せろよ!完璧に任務を遂行してみせるぜ!」

 …張り切られると逆に不安になりますな

 「甘い物が食べたいんだっけ?何かあるかな?」

 話を逸らすためにカタログを捲りながら問いかけると元気にスイーツ!と叫ばれた。

 そういえば疲れないし、腹も減らないから忘れてたけど、ここに来てから何も食べてないし、寝てなかった。

 アレ?俺、働きすぎじゃない?疲れないって意外とヤバイ能力だな…これからは週3日で労働時間は休憩込みで8時間を厳守にしよう!じゃないと不眠不休で働いちゃう!すっごく真面目に働いちゃう!そんなのもったいないじゃん!

 改めて決意をしてから、天野君とあれこれ適当に甘味を選んで注文し、おやつタイムに突入。天野君も食事自体は必要ではないけど、食べるのは好きなんだって、嬉しそうにケーキを頬張りながら教えてくれた。

 「うまい!はぁ〜至高のパティシエ、ゴルチェ様のケーキはまさに至福!俺の魂がとろけそうだぜ」

 はふぅと幸せな吐息をこぼすモモンガに釣られて食べたケーキは確かに口に入れた瞬間から幸せが溢れだす美味さだった。

 「なんだこれ!ただ美味いんじゃなくてまさしく魂が喜ぶかんじだな!さすが神様作」

 天野君と2人で夢中になって食べ尽くしちゃったよね⭐︎

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