第5話 はじめまして、神です

 魔法陣を通り抜けた先にあったのは汚部屋でした…

 

 見渡す限りの本や書類の山で足の踏み場が無く、積まれた紙の上に絶妙なバランスでカップが置かれていたり、脱ぎ捨てられた上着が放り投げられている光景に呆気に取られてしまう。


 「うわっ汚い!アレンお前掃除しろよ!今時どうしてこんなに書類が溜まるんだ?データで管理してんだろ?」

 肩に乗っかったモモンガこと天野君が器用に顔を引き攣らせている。

 「汚くてすみませんね。どうも私は片付けるのが苦手で…3日前に数人がかりで綺麗にしたばかりだったのにいつの間に散らかったんだろ?」

 いや〜と頭を掻きつつ言い訳するアレンさんに俺も天野君もドン引きです。

 たった3日でここまで散らかります?

 ヨイショっとソファーの上の本を適当に床に置きスペースを作り、どうぞと薦められたので座るが、テーブルの上の書類の山で前に座るアレンさんが見えない…書類越しに何か飲みますかと問いかけられるが、衛生管理が不安なので遠慮しておく。

 「お構いなく…えっと、ここはアレンさんの仕事部屋でしょうか?」

 「はいそうですよ。私は文章は紙で読みたい派なので確認の際にデータをプリントするのでどうしても書類が増えちゃうんです」

 アレンさんは、部屋のドアを内開きから外開きに変えて閉じ込められるのは防いだと胸を張り、天野君にアホなの?とツッコまれている。

 見た目はキラキライケメンなのに残念な人だな…それともこれもギャップとしてウケるのだろうか?

 話を変えたいのだろう、コホンっと小さく咳払いをしてから、これからメテウスの地上にお送りしますと、アレンさんは書類をかき分けデスクへ向かう。

 「確かこの辺にあったはず…アレ?こっちだっけ?」

 バサーっと雪崩れが起こっているが、気にせず何かを探すこと5分。

 やっと目当ての物を見つけたらしく、いそいそと見つけた道具を設置していく。

 「あった!もうしばらくお待ちくださいねゲートを開きますので!」

 セット完了した道具を起動させると天井に魔法陣が浮かび上がる。 

 え?天井でいいの?篁さんは壁だったよ?

 「このゲートを潜れば地上にでれますよ。まず、地上で一番魔素が濃い場所に辿り着きますので、其処を浄化したら拠点を造ることをお勧めします。魔素が濃いということは使える神力も多くなりますからね。既に神力の使い方はご理解いただけてると思いますが、ご質問はありますか?」


 何か言いたげな俺の表情を見て、問いかけてくれるが、違うそこではない…

 契約が完了後、力の使い方などはどうすればいいのかを何となく理解できていたので、軽く首を振って否定する。


 「いや大丈夫です。ただ、今後はアレンさんには会う機会はないんすか?俺はほったらかしでしょうか?」


 信頼して任せてくれるのは嬉しいが、適度に俺の神様業務を査定してくれないと暴走しちゃうかもと心配になる。


 「あっ!渡すの忘れてた!」

 慌ててまた雪崩れを起こしつつ、引き出しをガサゴソした後、ゴツめのブレスレットを手に俺の側にやってきた。

 「こちら天界への通信も空間収納も可能な神具です。何かあればこの神具を通して連絡してください。行動データは定期的に天界に送信されるようになっていますし、こちらからお願いしたいことがあればこれを通して連絡いたします。…魔物の氾濫とか…魔素の暴走とか…」

 ちょっと目を逸らしつつボソッと付け足されるを半眼になって見つめてしまう。

 「まぁそれも仕事なんでやりますけど、せめてことが起こる寸前ではなく余裕を持って教えてくれると助かります」

 「はい、かしこまりました。他に心配事はありますか?なければこの魔法陣の下へお進みください」 


 ちなみに、ブレスレットの空間収納の容量はドーム一個分らしいが、俺自身の神力で作り出した亜空間収納は無限大だし、中身も把握できるお約束の便利能力!


 「何あればこれを通して連絡しますね。とりあえず行ってきます」

 「無理はせずに、とりあえずは異世界神ライフをお楽しみください。困り事や相談事は何時でも受け付けますし、その際はしっかりサポートいたしますので、メテウスの地上をよろしくお願いします」

 できるホテルマンのようにピシッと姿勢良くお辞儀したアレンさんに見送られて魔法陣の真下に立つ。

 ちゃんと魔法陣が反応するのか不安だったが、ゆっくりと体が吸い込まれ行く事にホッとして、その感覚を味わいながら最後にアレンさんに軽く手を振ってお別れだ。

 

 さぁ、次の瞬間から本当に俺の神様ライフとやらがはじまるぞ!


〜〜〜〜っって軽く思ってました!!


 現在、凄い勢いで落ちてます。

 強心臓のスカイダイバーも真っ青になりそうな高度から生身で落下中。

 魔法陣から空中に放り出させるなんて思ってもみなかったよね!

 モモンガの天野君なんて元死神のくせに、アババババと叫びながら大粒の涙を流している。

 すぐ側に自分よりパニックになってるのがいると途端に冷静になることがあるよな…なんて思いつつ視線をパニックモモンガから地上に移す。

 だいぶ高度から眺めているのに、目に入るのはやたら緑、なんか雄大な大自然オンリーで人工物は影も形もない。

 森、山、森、森、山って感じだ。

 魔素が濃い所に出るって言ってたから森なのは予想の範疇だけど、手付かずの大自然は圧倒される。

 こんな光景見た事無い

 

 とりあえず、体を浮かすイメージをして、神力を巡らせてみると、落下速度はだいぶ緩やかになる。

 うむ、ちょっとコツを掴めば意識しなくても神力を動かせそう。

 落下のスピードを意識的に変えて自由に空を飛んでみる。

 よし、いける!

 今だギャン泣きで落ちているモモンガを追いかけてハシっと掴み落下から救出してあげた。

 「怖かったーー!」

 ひしっと俺の顔に抱きついてでえぐえぐ泣いてるので、無理矢理引き剥がす。

 なんで真っ正面から抱きつくの?

 「天野君、君モモンガでしょ?滑空はお手の物じゃないの?」

 手の中でジタバタしているモモンガの天野君を呆れて見つめると、ハッとして固まっている。

 「…いや俺、元は人型の死神なんで…ってゆうか、この高さから落ちてモモンガって大丈夫なの?死なない?」

 「いやいや普通のモモンガならともかく一応は神のサポートなんだからそれくらいじゃ死なないでしょ?天野君って地上の人には見えない聖霊みたいなもんでしょ?空だって飛べるんじゃない?」

 

 お互いに困惑して見つめ合ってしまう。


 とりあえず天野君を定位置になりつつある肩に乗せゆっくりと地上に降りていく。


 「見渡す限り森だね。なんかあの周辺が密度が濃くて苦しいくらいだね。魔素溜りってやつか…」

 その一面だけ空気が他より明らかに澱んでいて森の木々も葉が黒い。

 「すげーな…ディ○ニーランドくらいの面積が澱んでんぞ」

 「え?天野君ディ○ニー行ったことあるの?何してんの?モモンガのくせに…」

 思っても見ない名称を聞き、天野君をガン見する。

 「おい!モモンガを馬鹿にすんなよ?!いいじゃねーか!夢の世界!モモンガだって夢見させてくれよ!」

 バッと小さな両手を広げて、威嚇するっように小刻みに左右に揺れながら抗議された。

 その動きがあまりにコミカルで可愛いので笑ってしまう。

 「冗談だよ、ごめんね?モモンガだって夢の世界に行きたいよね」

 笑われて、ちょっと下顎を突き出して軽く眉間を寄せ不満を表すモモンガにもう笑いが止まらない。

 「ッ!アッハハッ何でそんな変な顔してんの?!いちゃもんつけるおっさんみたいな表情やめてよせっかく可愛い小動物なのに!」

 「誰がおっさんだ!笑ってないで集中しろよ?ほらっ!お客さんだぜ」

 地上に降り立った途端に歓迎してくれたらしく、天野君の視線の先に小型トラック程の大きさのオオカミらしき魔物が3匹こちらに歯を剥き出しで威嚇している。

 知識の中から魔物を部分を引っ張りだしてみる。


 目だけが真っ赤で全身が真っ黒なのは魔素から生み出された魔物の証拠。

 積極的に生物を襲い、体躯が大きいほど強い傾向。

 急所は通常の獣と変わらないが、討伐すると核である魔石のみを残して跡形もなく消えるので消えるまで油断しないこと

 ーーメテ神ぺディアよりーー


 ふむ。自然に浮かんだが、なんだろうメテ神ぺディアって…

 「…魔素濃いもんな〜とりあえず血とか出ないのは俺にはありがたい。森だし火系の攻撃は無しとなると…」

 

 一斉に襲いかかってくる魔物に対して、冷静に分析し行動開始する。

 まず積極的に噛み殺しにきた一匹の体躯の下に潜り込み掌で圧縮した空気の固まりを本来心臓があるあたりに打ち付ける。

 ドンと魔物が垂直に打ち上げられ姿が霧散したのを横目に、二匹目の背を空気の刃で切断するように振り落とす。

 そのまま流れるように三匹目の首を落とし、あっという間に討伐完了。

 

 思ってた以上に体は動いて戦える、思い通りに神力も使えるし、何より恐怖を感じることなく一瞬のうちに最適解を弾き出し、省エネ神力でどう殲滅するか判断して行動できることにビックリした。

 戦闘経験なんて全くないのにこの無双…

 最終兵器感が溢れ出ちゃってるね…


 俺が自分に与えられた能力に微妙にひいてる間に、天野君が魔石を回収しようと頑張ってくれていた。

 魔石一個が天野君の体並みに大きいのでヨロヨロしながら俺の下へ運んでくれている。

 「天野君ありがとうやっぱり重い?この大きさの魔石」

 運ばれてきた魔石を持ち上げてみるが、一個が俺の握り拳ほどの大きさなので結構しっかりした重みがある。

 「う〜腰にくる…けど、俺は戦闘には役立たないからな〜これくらいはやらせてくれよ俺は主のサポート役だからなっ」

 ふぅ〜と一息つきつつ額の汗を拭う仕草をしてキラっと歯を見せてくるイケメン気取りのモモンガに落ちた気持ちも上向きになる。

 粗忽者だけど、笑わせてくれる天野君にサポートを頼んでよかったな

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