第4話 大事なこと忘れてました
契約も済み体中にエネルギーが溢れている為、何だか落ち着かない。
何でもできるという謎の自信とでっかい事をやりたいという漠然としたやる気でソワソワしてしまうのだ。
実際ちょっと想像するとそれが形になりそうで慌てて消すという行為を繰り返してしまう。
「人から神に魂を書き換えた影響で少々神力が暴走しやすくなりますのでご注意ください。所謂、魔法を使う場合真様は、己の神力を使用致します。イメージがハッキリしている方が力を発揮し易いですが、現代日本人の特性なのか魔法に対して順応が早く、威力も強力なんですよね。勇者も聖女も特に説明も無いのに次々と新しく強力な魔法を生み出していきましたから…」
篁さんがクイっと眼鏡を中指で押し上げながら説明してくれる。
「神力ってどれくらい使えますかね?枯渇して使えない場合もありますかね?」
「そうですね。メテウス自体が現在不安定になっているので核爆弾級の威力の攻撃を連続3回くらいで枯渇し休眠モードに入るかもしれませんね」
アレンさんがしれっとトンデモない事を言い出したが、そんな威力の攻撃は普通使わないだろう。不安定な状態でそこまで神力が使えるなら枯渇はしなそうだと少し安心する。
「メテウスに溢れている魔力を自然と神力へ変換して使用するので正直枯渇の心配はないと思います」
「神様として存在するのに信仰心とは必要ないんですか?教会とか作った方がいいのかな?」
俺自体は、生前特定の宗教を信仰していたわけではないが、節目節目で参拝はしていたし、御守りだって持っていた。
何となくは神を信じていたというか…
「いえ、別に必ずしも必要ではありませんね。メテウスでは教会などは不浄な場所にあえて作り、場を正常に保つと言う理由が大きいですから、それに神としての存在するのには信仰心というよりもポジティブな感情の方が重要なんです。生きる希望が魂を強くしていきますからね。笑うのにもエネルギーが必要でしょう?」
「なるほど…神としての力に信仰心は必要ないんですね」
「絶望した魂の循環を減らせれば大分違いますからね。現在のメテウス神様の神力はそれらの魂を浄化する、又は寿命をむかえた魂の代わりに新たな魂を創生し転生させる為に膨大なエネルギーを使われています。それらを回復へ回せればその分目覚めるのが早まるでしょう」
魂の創生はえげつなく神力を使うし管理も大変なんですとアレンさんは困ったように笑う。
「メテウス神が眠りについてからは、大気中の魔力や地下から溢れる魔素、それらが徐々に濃くなってきて、魔物の存在も大分増えました。そのせいで本来の住処を奪われた動物も少なくありませんし、生育環境が悪くなった植物も多いです。それらを整えてくだされば他種族の生活環境もよくなりますね。魔物を狩って魔素溜りを浄化するのが手っ取り早いかもしれません」
本当にシレッと要求するな〜と半眼になるが、やる事が明確だと行動しやすいので、そうですねと軽く頷いておく。
特定外来種の排除だな。了解した!
その後も細々した注意というか、説明をされた。
俺の魂は臨時の神だが、体の素材は人よりだそうだ。
見た目は好きに変えられるが、今は元の俺の姿だ。
ただし、神の能力を遺憾無く発揮するためにだいぶ頑丈で高性能になっているとの事。
その為、食べる必要も寝る必要はないが、睡眠も取れるし、味覚はあるので食事を楽しむのは自由らしい。
良かった〜食事は作るのが面倒で適当になるけど、ゴロゴロ惰眠を貪るとか至福だもんね。
さぁ!いざメテウスへとなったところで、篁さんが待ったをかけた。
「お待ちください。どうやらやっと捕まえたようです」
「え?何が?何を捕まえたの?」
俺の疑問にも答えずスタスタとドアの方へ向かいはじめるとノックがされてガチャっとドアが開く。
え?予知?その能力は標準装備なの?
篁さんは厳しい顔で胸元に小さな鳥籠を受け取り、それをテーブルの上に置いた。
中にはモモンガが小さな手を握り締めて、つぶらな瞳をウルウルさせている。
…何だか仕草が人間臭い
「??」
「真様の生を誤って無理矢理終わらせた粗忽な死神です。寿命を奪ってから誤りに気がつき逃げ出して隠れていたのを漸くとっ捕まえました。煮るなり焼くなりお好きになさってください」
「ごめんなさーーーーい!」
モモンガは号泣しながらベタっと這いつくばりガンガンと何度も頭を底に打ちつけて平謝りしている。
どうやら土下座をしているようだ。
「…モモンガが死神なの?そっちの方が衝撃なんだけど…」
うわぁ〜んと大泣きしているモモンガを冷たい視線で見つめていた篁さんが言うには、ミスは今回で2回目らしく、前回のミスの後、罰として減給と人型からモモンガに変えられたそうだ。
何とその前回のミスの被害者がメテウスを滅茶苦茶にしたあの勇者と聖女らしくあらゆる意味で肩身が狭くなっていたらしい。
でもなんでモモンガなの?そっちの方が気になるんですけど…聞かない方がいい感じ?
「むいて無いんじゃない?この仕事」
「はい。ですから廃棄ですね」
「流石に庇いきれないよね。残念だけどあれだけ騒ぎになったのに同様のミスをまたするなんてありえないからね」
俺のもっともな呟きに篁さんもアレンさんも救いようなしと呆れ返ってコイツは廃棄処分になると断言するのでモモンガの泣き声が一段と大きくなる。
「反省してるんです!!本当にごめんなさい!!」
見た目の可愛いモモンガが号泣しているので廃棄処分なんて聞くと罪悪感が込み上げてきてしまう…
「廃棄されるなら俺がもらってもいいですか?」
「!」
モモンガは頭をガバッとあげると期待に目を輝かせて主さま〜と叫びながらシュバっと鳥籠に跳びつく。
うむ…だいぶ現金な性格ですな
篁さんは真顔でそのモモンガは捨てた方がいいと最後まで反対していたが、何とか説得して粗忽死神モモンガから俺のサポートモモンガに所属変更してもらった。
粗忽は変わらないだろうが、死神でいるより被害は小さいだろうという希望的観測と最大の被害者である俺の意思が勝った。
「今度やらかしたら捨ててもかまいませんからね?真様が責任を感じる必要は全く無いんですから」
篁さんの冷たい視線と言葉にモモンガがプルプル震えている。
「そうならないように俺も飼い主としてしっかり躾けます」
躾は飼い主の義務だと思っておりますのでと真顔で淡々と返すと、アレンさんがブハッと吹き出し、篁さんもキョトンとする。
モモンガもビクッと強ばり俺から視線を逸らし、え?オレ、ペットなの?と呟いている。
「大丈夫そうですね。手綱をしっかり握ってくださりそうです」
アレンさんは吹き出したのは幻か?と思わせるくらいの早業でイケメンスマイルになっている。
「では、参りましょうか?心の準備はよろしいですか?」
篁さんがアレンさんが現れた時と同様に壁に魔法陣を表示させているのを横目にアレンさんが問いかけてきた。
「はい。よろしくお願いします」
了承を得てアレンさんは俺の腕を取り、魔法陣へ進んで行く。
いよいよ始まるのかと思うとドキドキする。
目の前の魔法陣に飛び込む際に篁さんが笑顔でお辞儀をして見送ってくれる。
「いってらっしゃいませ。真様のご活躍を心より応援させていただきます。あちらで楽しんでお過ごしくだざい」
「はい!楽しんできますね!いってきます」
これからとりあえず60年程は神様だ。
おら、ワクワクすっぞ!
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