第3話 事前確認は万全に

 俺の言葉を聞いた篁さんは、感動したように細かく何度も頷いていた。

 「ありがとうございます。是非是非よろしくお願い致します!」


 今すぐにでも俺を異世界転生させそうな程、喜んでいるが、少し落ち着いていただきたい。

 「勢いで転生させないでくださいね?できれば俺が行く世界の現在状況や使える能力を詳しく教えて欲しいんですけど」

 「勿論です。すみません興奮してしまいました。なんせずっと頭痛のタネだったので!それが良い方向へむかいそうなのが嬉しくて!彼の地の担当者をここに呼び出して説明させますので少々お待ちください」


 篁さんは、コホンと咳払いを一つして席を立ちどこかに電話し始める。

 「私だ、例の候補者が決まったぞ。今から契約を結ぶから説明に此方に来てほしい。ああ、AーN23の第4会議室だ。今からゲートを繋ぐから至急頼む」


 篁さんは、電話を終えた後、部屋の壁に設置されていた幾つかのコントロールキーを操作する。指の動きが速すぎきて残像が見えるくらいだ。すげえな篁氏!

 入力が終わったのか壁からスッと一歩離れると壁に魔法陣が浮かび上がり中からやたらキラキラしたイケメンが優雅に現れた。


 「初めまして、私メテウス担当のアレンと申します。以後お見知り置きを」


 アレンと名乗ったイケメンは篁さんの隣に座るなりテーブルの上に何処から取り出したのか大量の書類や本をバサ、ドサと置いていく。

 その様子にちょっと呆気にとられながら俺も自己紹介を済ますと早速というように説明を開始した。

 勢いがすごい


 「真様に来ていただくのは、神々が創った世界でも少し辺境な場所にあるメテウスと呼ばれているまだ若い星です。本来なら生命力が溢れ、担当神であるメテウス神の力をそれは豊かにする筈でした。残念ながら現状はメテウス神の力は世界を維持するだけで精一杯でゆっくりと滅びへと進んでおります。」


 押し売りが開始されるのか?と警戒したがアレンさんは資料片手に優雅に説明をしてくれる。

 嘆かわしいと沈痛な表情もイケメンだとさまになるなと感心する。

 「勇者と聖女がやらかしたからですよね?」

 「そうです。篁から聞きましたか?彼らを討伐するさい世界を治めていた2大超大国が崩壊し、大国の国民達だけでなく勇者達がもたらした高度な文明や魔法知識も木っ端微塵に消え去りました。それはもう跡形もなく綺麗さっぱりです。あの世界には今も魔法はありますが、勇者召喚時よりも更に後退し現状まともに使用できる人間はそう多くありませんし、使えても平均的に小さな火を出す位で、ちょっとした攻撃魔法が使えると魔導士と名乗って自慢できるくらいです。」


 メテウス様は過激派なんだな…報復も結構エゲツないか?行くのをやめたくなるな…やめようかな…

 動揺して若干震えている俺を尻目に、アレンさんはテキパキと説明を続ける。


 「あの地の人間には普通に魔力が有るので本来の使い方さえ覚えて訓練すればもっといろんなことができるようになります。むしろ魔力を使用し体外へ排出しない事が短命にも繋がっていますが、文明が崩壊したさいそれらの技術や教えも途絶えてしまいました」

 「あらまぁ、それならそこら辺は少し手を貸した方がいいのか…?ってかそもそも魔力ってなんだ?それにその星には人間だけ?それともエルフとか他種族もいるのかな?」

 「メテウスには魔力が大気中に溶け込んでいますね。ですので呼吸と共に意識せずに体内に取り込んでいるのですが、体内に入った魔力は魔法を使用しない限り体外へは出ていかないんです。そして蓄積された過剰な魔力は毒になり体内を蝕んでいきます」

 「出したくても出ない強烈な便秘のようですね…アレも溜めすぎると具合が悪くなるし」


 俺の例えに篁さんもアレンさんも沈黙するが、アレンさんが爽やかな微笑みでそうですねと受け流す。

 かわし方が綺麗だな!できる男ですなアレン氏!


 「何処まで干渉するかは、真様にお任せしますが、確かに生の短命が魂の寿命をかなり縮めており、それはメテウス神に相当な負担を強いていますので多少でも手を差し伸べていただけると本当に助かります。それとドラゴンなどの幻獣やエルフとドワーフはおりますが、獣人と呼ばれる種族はおりませんね。種族の特性などはこちらの本に記載してありますが、メテウスに関しての知識は全て真様が地上神の契約が結ばれれば自然に理解できるようになります。」

 

 分厚い本を手渡されたが、俺の興味は使える能力の方へ向かっている。

 「神様特典ですかっ!どんな事ができるんでしょうか?」

 

 やっぱり魔法だチートだって考えると斜に構えてても興奮してくるな!


 アレンさんはチラリと篁さんを見てからスッと真顔になった。


 「全てです。地上神となられた真様にできないことはないでしょう。貴方の放つ魔法一つで国が崩壊し数えきれない人の命を奪うことも破壊することもできるし、不治の病でも一瞬で治すことができ、致命傷の傷の治療や何年も前に失った手足を元通りにすることもできる。死んだばかりで魂がまだその場にあれば生き返させることすらできる…まぁでも性欲も生殖能力も無くなるし、恋愛感情を抱き、熱烈に愛することやその相手と子を持つことはできませんけどね。」


 アレンさんは気圧されたように固まった俺に対して最後は茶目っけたっぷりのウインクつきで微笑んでくれたが、俺の表情筋はぎこちなく口角を上げることしかしてくれない。

 力に溺れるなよという圧がドーーンと伸し掛かり浮かれていた感情が一気に冷まされ、改めて自分に託されるものの大きさに恐怖を感じる。

 

 「その恐怖を忘れないでください。忘れなければきっと大丈夫ですよ。貴方は利己的ではない愛を知っていますからね。そのアドバンテージは大きいです。折角なんですから無駄に萎縮せず楽しまないともったいないですよ?」


 アレンさんの言葉に大きく深呼吸をして肩の力を抜きゆっくり頷く。

 

 「はい。ご忠告ありがとうございます。アレンさんの言葉は肝に銘じますね」


 アレンさんは俺の言葉に微笑みながら頷くと一枚の矢鱈豪華な紙を取出し提示する。


 「最後に地上神となられた真様の命を奪うことは不可能です。武力も病も毒も貴方には無力です。神として不老不死になります。期間はメテウス神の力が回復して目醒めた時までですが、何百年かかかるかわかりませんので真様の本来の生の寿命60年経った時に延長するか、お役目を終えるか、再度確認させていただきます。飽きて生を終えたければ眠りにつくこともできます。まだまだ先の話ですけどね。 それとこれは真様の寿命を誤って奪ってしまったお詫びの品のカタログです。カタログ内のものは全て得られますので必要に応じてメテウスに降り立った後、ご利用下さい。内容をご理解いただけましたらこちらにサインをお願いします」

 

 どうやらとりあえず60年の仮契約で臨時の神として過ごしたらその後は応相談となるらしい、期限がハッキリするとちょっと気が楽になるとな考えていたら、お詫びのカタログに意表を突かれた。

 だって、ちょっとパラパラ捲ったら、家とか城に庭園なんてあるし、この最新家電製品類はあっちで使えるの?

 まぁ、有り難く頂き、遠慮なく使おう!

 

 「サインってどうすればいいんですか?」

 「お名前を言いながらこちらの魔法陣に手をかざしてください。契約完了時、発光して胸が熱くなりますが、魂を人から神へ変更するためですのでご心配なさらず」

 

 父さん、母さん貴方達の息子は異世界で神になります。ごめんね二人の遺伝子は俺で途絶えちゃうけど、勘弁して!

 呆れたように苦笑いした父親の顔浮かんだが、その一瞬後ゆっくり頷いた様な気がして父に背中を押してもらえたように感じる。


 「鈴木 真」


 名乗った後、浮かんだ魔法陣に手を翳す。

 目が開けられない程の光が俺を包み込み胸が焼ける様に熱い。

 これ本当に大丈夫なの?と思うほどだが耐えていると急に胸の熱が引いて何だか体中にエネルギーが満ちている感覚を味わう。


 「はい。お疲れ様です無事に契約が完了致しました。メテウス地上神様誕生おめでとうございます」


 篁さんとアレンさんが俺に向かって最敬礼をし笑顔で祝ってくれた。


 はは!本当に神様になっちゃったみたい

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