第16話〈仮タイトル〉1

「千夏、コレ届いてたよ」


ベットの上で振り返る千夏は、母親の言葉を待ち構えていたかのように笑顔を返す。


待ちに待った手紙だった。


慌ただしく封を開く千夏を「そんなに急いでも中身は変わらないわよ」と母親は微笑み見つめるが、返事する余裕も無く千夏は手紙の中身を見つめている。


「どうだった?」


優しい口調で尋ねる母親に「駄目だった‥‥」千夏は一言呟き、ため息混じりに天井を見上げた。


皮肉にも窓の外は雲一つ無い青空。


差し込む朝日に照らされた手紙の中身は、千夏が送った詩の賞その結果だった。


努力が必ず実る訳じゃない、そんな聞き覚えの有る言葉が胸に刺さるような朝だった。




 其の頃秋人の病室では「やっぱり難しいな~!なんか小っ恥ずかしいしな!」と虎太郎は慣れない作詞に頭を抱え、照れ臭そうに笑い飛ばす。


「でもスゴイよ~!自分で作詞なんて~!」


秋人が大袈裟な手振りで褒めると、虎太郎はまんざらでもなさそうに作詞を続ける。


悩み頭を掻いては書いて掻いては書いてを繰り返し、苦戦は数時間続く。


「これどうや?」


やっと出来た一作を見せようと虎太郎はノートを手渡すが、待ちくたびれ二度寝した秋人はまだ寝ぼけている。


「どうや?」


余程感想が気になるのか、虎太郎は渡して数十秒で聞く。


「そんなに早く読めないよ~」


焦る秋人は慌てて目配りするが「曲名が読めないよ~」と不満そうに漢字の読み方を思い浮かべている。


「シバくぞ!曲名は怒羅嵌や!ドラゴン!」


「駄目だよそんなの~!コレじゃ暴走族のチーム名だよ~」


曲名には自信が有ったのか、虎太郎は驚いた表情を返すが「う~ん‥‥、歌詞は良いけど、やっぱり曲名が‥‥」と秋人は答えづらそうに口ごもる。


慣れない否定に虎太郎は今にも飛び掛かりそうな殺気を放つが「歌詞は良いんやな?」と褒められた事に気付いてか、何とか留まる。


「良いと思うよ~!どんなメロディーにするかも重要だけど」


「メロディーか‥‥、じゃあ屋上行くぞ」


秋人のギターを取り上げ、虎太郎は直ぐさま立ち上がる。


屋上に着いた二人は早速作曲に取り掛かり「こうでもないシバくぞ、ああでもないシバくぞ」と口うるさく注文する虎太郎の鼻唄に合わせ「コレはどう‥‥?コレは‥‥?もっと軽い感じって解らないよ~」と顔色をうかがう秋人が、怯えながらコードを当て嵌めていく。


そんな作業が数十分続き、次第に曲は完成していった。


「出来た!正に名曲や!」


コードを書き足したノートを持ち上げ、虎太郎は感慨深そうに眺めているが「まだ人に聴いて貰わないと解らないよ~」と秋人は自信無さ気な言葉で、虎太郎に睨まれている。


「一回ホンマに歌ってみるから聴いとけ」


場所を気にするでも無く歌い始めた虎太郎の声に、秋人の表情は一変していく。


「‥‥どうや?」


歌い終えた虎太郎はいつになく真剣な様子で聞くが、其の事に気付いてもいない。


「虎君歌上手いんだね~、予想以上だよ~」


からかうでもなく秋人は手を叩くが「シバくぞ、俺は曲の感想を聞いてるんや」と虎太郎は照れ臭そうに睨みを効かす。


「とりあえず曲名変えた方が良いよ~!」


「とりあえずって何や?それよりここのコードこれの方が良くないか?」


「それならコレも良いと思うよ~」


こんなやり取りが更に数十分続くが、結局この日二人が納得出来る曲にはならなかった。




「どうや!電話掛かってきたか?」


「えっ‥‥?何の電話?」


翌朝病室に駆け込んで来た虎太郎は意気揚々と秋人に尋ねるが、質問の意味を理解出来ない秋人はキョトンとしている。


「俺達の電話番号書いて張り紙したんや、こないだのライブハウス!」


「もしかしてメンバー募集?」


寝転びゲームをしていた秋人は、思わず上体を起こすと「そうや、今度は俺が審査してメンバーを選ぶ!」と虎太郎は遠慮するでも無くベットに座る。


「審査って大袈裟過ぎるよ~!」


冗談だと思っているのか秋人は笑い飛ばすが「アホか!プロなる気の無い奴は要らんのや」と大口叩く虎太郎の表情は、真剣そのものだ。


「まだ曲も無いのに?」


それでも冗談づく秋人に「もうすぐ一曲完成するやろ、シバくぞ」と虎太郎の決め台詞と一睨みで、秋人は慌てて口をつぐむ。


虎太郎の電話が鳴ったのはその時だった。


「電源切らないと駄目だよ~、病院だから‥‥」


さっき睨まれたばかりだからか秋人は小声で忠告するが、すかさず電話に出る虎太郎は返事も反さい。


「はい、バンドマン募集中~!」


軽いノリで応対する虎太郎に秋人は「もっと、ちゃんと説明しないと疑われるよ~」と小声で不安がるが、虎太郎は全く気にする様子も無く会話を続けている。


その後も短い会話のやり取りを数回して電話を切った虎太郎は「ヨシ!審査しに行くぞ」と詳しい説明もせずに立ち上がる。


「今日は検査する日だから無理だよ~」


秋人は引き止めようとするが「大丈夫や!ええから来い」と虎太郎は強引に病室から連れ出す。


 移動した場所は病院2階の食堂。


どっしりと椅子に座りくつろぐ虎太郎を横目に、座ろうか座るまいか悩む様子の秋人は落ち着き無く椅子を触ったりしている。


「ここが審査会場や!」

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