第4話〈先生と師範〉2
二人が屋上に着くと虎太郎の見た目が威圧的なせいか、疎らに居た患者達は数分も経たないで立ち去って行った。
「んで、何から始めたら弾けるんや?」
「先ずはコレを使ってチューニングなんだけど‥‥」
持ち込んだ機器を秋人が取り出し始めると「面倒臭さいからソレはええわ」と虎太郎はタバコに火を着ける。
「真ん中にこうなったらOKで‥‥、順番に‥‥よしバッチリだよ~」
「次は?」
待ちくたびれた仕返しか、虎太郎は質問しながらタバコの煙りを秋人に吹き掛ける。
「最初はやっぱりドレミからだったような‥‥」
咳込みながら秋人が自信なさそうに答えると「ドレミ~!?もっとジャンジャカ弾けれんのか~?」と虎太郎は不満げにタバコの火を消す。
「そんなに簡単には弾けないよ~」
「まあええわ、んでどれがドやねん?」
早速ギターを取り上げる虎太郎は「コレか?コレちゃうか」と適当に弾き鳴らす。
「違う、違うよ!ココを押さえて弾くんだよ~」
「ほ~う‥‥コレがドか‥‥」
始めて鳴らすドに虎太郎は一人納得している。
「次はココがレで、ココがミだよ」
「ほ~う‥‥」
教わるがまま試しに弾いてみたドレミに感動した虎太郎は、飽きもせず何度も繰り返す。
少し鳴らし慣れてくると上手さが気になったのか「ちょっと同じの弾いてみろ」と秋人にギターを返した。
「そんな違いないよ~」
言われるがまま秋人がドレミを鳴らすと「そんなもんか‥‥、俺の方が響きが深いな」とギターを取り上げた虎太郎は、知った風な自画自賛で調子に乗っている。
「慣れてくると童謡のさくらとか練習に良いんじゃないかな~」
挑発するでもなく無意識に放った秋人の一言で、虎太郎は練習していた手を止め「ソレ弾けるんか?」と睨みを効かす。
「ほ~、そうなんか~、それは凄いな~」
虎太郎の明らかにトゲを含んだ口調に「すっ‥‥、すぐに出来るようになるよ‥‥」と秋人は下手くそな言い訳をするが、虎太郎は不機嫌な顔でタバコに火を着ける。
タバコを吸い終えると虎太郎は再びドレミの練習を始めるが、秋人は怒らせるのを恐れてか話し掛けようとはしない。
「もう飽きたな‥‥」
そう言って虎太郎がギターを下ろす頃には、練習を始めてから一時間が過ぎようとしていた。
「練習終わる?片付けるよ~」
そそくさとギターをケースに入れようとしていた秋人が「ウアァ~!!」突然叫び声を挙げる。
「オイッどうしたんや‥‥?」
思わず立ち上がる虎太郎に「イヤ‥‥、今‥‥、虫が‥‥」と秋人はケースごとギターを引きずりながら後ずさって行く。
「ビビりか!シバくぞ」
如何にも馬鹿らしそうに虎太郎は秋人を見下ろす。
「イヤ‥‥、大きかったし‥‥」
言い訳をしながらも、秋人の視線は逃げる虫から外せずにいる。
「アカン!もう一回鍛え直しや」
「え~?また相撲やるの~?」
「違うわ、度胸試しや!」
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