第14話 確信
翌朝。
いつの間にか、泣き疲れて寝てしまっていたようだ。
朝食が運ばれてきたが、喉を通らない。
いつものように、あきこが部屋にやってきた。
まだ、ナオヤの事を話していない。
「あら、全然食べてないじゃない。どうしたの?」
ひかりの表情が暗くなっているのがすぐに分かった。
もしかして、また目が見えなくなってしまったのかと思った。
「ひかり?大丈夫なの?具合でも悪いの?」
心配する母。
そんな母を見て、ひかりは、また泣いてしまった。
「うう・・ひっくひっく・・・」
突然泣き出したひかりを見て、あきこは一体何があったのか見当もつかなかった。
「ど、どうしたの!?何があったの!?」
「ううっ・・ナオヤさんが・・・ナオヤさんが・・・」
ひかりはあきこにナオヤが事故で亡くなったことを伝えた。
あきこはあまりの出来事に、うまく言葉にできなかった。
ただただ、泣いているひかりを抱きしめた。
あきこは、神様はなんて残酷な運命をこの子に背負わすのだろうと、
いたたまれない気持ちにさえなった。
まだ高校生なのに、他の子よりも過酷な人生を送っているじゃないか。
一番会いたかった人に会えないなんて、あんまりだ。
「ひかり、今はたくさん泣いて良いのよ。たくさん泣きなさい。」
泣きじゃくるひかりを、そっと抱きしめることしかできなかった。
今は何も言わず、思う存分泣いてもらうことが、一番心を落ち着かせることだと。
涙は、人の痛みと悲しみを外に出してくれる。
あきこはそう考えていた。
後に、ヒロシとカナタにも、ナオヤが亡くなったことを伝えた。
二人とも信じられないと、突然の出来事に困惑していたが、
ひかりの泣いてる姿を見て、確信へと変わっていった。
そして、退院の日がやってきた。
お世話になった担当医と看護師さんに挨拶をして、
部屋を片付けていた。
そのとき・・・
プルルル、プルルル、
電話だ。誰からだろう。
携帯の画面を見ると・・・ナオヤと表示されている。
「ナオヤさん!?」
ひかりは、慌てて電話にでた。
「もしもし!?ナオヤさん!?」
「あ・・・ひかりさんの携帯でしょうか?」
知らない男性の声が聞こえてきた。
「そうですが・・ナオヤさんの携帯ですよね?どなたでしょうか?」
「私は、ナオヤの父です。」
ナオヤの父親からの電話だった。
「あ・・初めまして。あの・・ナオヤさんは・・」
「・・・・もう聞いているとは思いますが、ナオヤは亡くなりました。」
分かっていたのに、まだ心の奥底で信じていた自分がいた。
「やはり・・本当なんですね・・。」
電話の向こう側で、ナオヤの父が悲しい表情をしているのが分かった。
ときおり、涙をグッと堪えてるような息遣いが聞こえた。
「ひかりさんに電話したのは、ナオヤとお付き合いしていた大事な方だと、幼馴染のジュンペイくんから聞いたのです。もしかしたら、ナオヤが亡くなった事を信じてもらえてないかもしれないので、私からも報告させて頂きました。」
「そうですか・・ありがとうございます。確かに、私も半信半疑でした。」
詳しい事故の状況を、教えてもらった。
ナオヤは、レコーディングが終わった後、夜道バイクで帰っていた。
急いでいたのか、スピードを出していた。
そこで信号を渡っている人をひいてしまいそうになり、大きくハンドルを切り、そのまま電柱に衝突したらしい。
すぐに救急車に運ばれたが、そのまま帰らぬ人となった。
この話を聞いたあと、きっとナオヤは、手術が終わった私に早く会うために、バイクを飛ばしていたんだなとすぐに気付いた。
「ひかりさん、うちの息子がお世話になりました。本当に、ありがとう。」
「そんな・・やめてください。私のせいです。私のせいで・・・」
ひかりは自分を責めた。自分のせいでナオヤは死んだ。
そう錯覚した。
「やめてください。ナオヤは、ひかりさんにそんな事を言われたら、余計に悲しみます。
あなたは、これからも、ナオヤの分まで楽しい人生を送ってください。それが、ナオヤの願いですよ。」
ひかりは、ナオヤの父らしい言葉だなと思った。
まるで、ナオヤと話しているような、そんな風にさえ感じた。
「お父さん・・ありがとうございます。また、ご挨拶に伺わせていただきます。」
「お待ちしてます。ナオヤの線香をあげにきてやってください。でわ・・」
ツーツー・・・
電話が終わった。
ナオヤは亡くなったと、確信した。
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