第13話 突然の別れ

ひかりが目を覚まして二日目。


だいぶ目も慣れてきたようで、昼間に病院の庭を母と散歩することにした。


久しぶりの外の景色。太陽が眩しい。

太陽の光の反射で草木がキラキラと光って見える。

大袈裟かもしれないけど、世界はこんなに美しかったんだ。


「ひかり、目は慣れてきた?」


「うん。だいぶ慣れたよ。」


「もうすぐ退院できそうね。ところで、ナオヤさんから連絡は?」


ひかりは立ち止まり、下を向いて首を振った。


「・・・・そう。何かあったのかしら・・・連絡はしたの?」


「・・・・してない。今日待ってみて、何もこなかったら明日してみようと思って。」


あきこは、ひかりの肩にそっと手を置いた。


「ナオヤくんと会ったとき、そんな顔しちゃダメよ。大丈夫、きっともうすぐ来るわ。」


「・・・・うん。」


散歩を終えて、ほどなくして担当医から呼び出された。


「この調子だと、あと2日程で退院できそうですね。」


ひかりとあきこは、目を合わせて喜んだ。

もうすぐ家に帰れるんだと。


「それじゃあ、お母さんは帰って夕飯の支度しなくちゃ。」


「お父さんの分も増えたもんね。」


「ほんと、良く食べる男二人が家にいると大変だわ~。」


言葉とは裏腹に、あきこの表情はどこか嬉しそうだった。

そんなあきこを見て、ひかりは、また父と母が仲直りしてくれたらと、切に願っていた。


母が帰ったあと、ひかりはベッドで1人、じっと携帯を見つめていた。

もどかしさと、寂しさで、心が落ち着かない。

今日は家族もお見舞いにはこないと分かっていたので、

余計に寂しくなった。


コツコツコツ


革靴の足音が聞こえてくる。

お父さん・・?今日は来ないって言ってたのに・・?


コンコンコン


誰かが部屋をノックした。


「はい。どうぞ。」


ガチャ


入ってきたのは、スーツ姿の青年だった。

まさか、ナオヤさん・・・・?


「あ、あの、ひかりさんでしょうか?」


声で分かった。ナオヤさんではないと。

でも、私の事を知っているようだ。


「はい、そうですが・・・どなたでしょうか?」


「・・・・僕は、ナオヤの幼馴染の、ジュンペイと言います。

実は、ひかりさんに報告したいことがあって、ここに来ました。」


ジュンペイという名前は、ナオヤから聞いたことがある。

唯一私の事を話している友人だと。


「報告ですか?あの、ナオヤさんは何をしてるんでしょうか?連絡がなくて・・・」


ジュンペイは、少し下を向いて、悲しげな表情をした。

少しの間があったあと、口を開いた。


「・・・・ナオヤは・・・一昨日、バイクで事故にあい、帰らぬ人となりました。」


「・・・・え?」


ひかりは、あまりの突然の知らせに、ただただ呆然とした。

嘘だと思った。いや、嘘だと言って欲しかった。


「ここを知っていたのは、ナオヤが良く話していたからです。手術の事も聞いていました。」


ひかりの目から涙が零れた。

今まで流せなかった涙を、まさかこんな形で流すなんて。


「うぇっ・・ううう・・・」


ひかりは、泣くことでうまく話せずにいた。

ジュンペイも、そんなひかりを見て、悔しそうな表情をしていた。


「・・・・突然の事で、混乱すると思います。僕自身も、未だに信じられないです。」


10分程泣き続けた後、ようやくひかりは話せるようになった。

ジュンペイは、ひかりが落ち着くまで、黙ってずっと待っていた。


「・・ううっ・・・ジュンペイさん・・知らせて頂いて、ありがとうございます・・」


「いえ、そんな・・・お礼なんて・・。」


ジュンペイは、こんな状況でも、ありがとうだなんて言える事が、

本当に強い子だなと、感心した。


「今日は何も考えられないと思うので、また話に来ます。ひかりさん、気をしっかり持ってくださいね。」


そう言うと、ジュンペイは、自分の名刺をひかりに渡し、部屋を出て行った。

ひかりは、まだ半分信じていなかった。

もしかしたら、ひょっこり顔を出すんじゃないか。

そんな妄想をしては、現実逃避していた。


「・・・・そうだ・・・電話してみよう・・」


ジュンペイの事を信じていないわけじゃない。

でも、諦めがつかない。

ひかりは、ナオヤの携帯に電話してみた。


おかけになった電話をお呼び出しいたしましたが、おつなぎできませんでした。

というアナウンスが聞こえてきた。


少しずつ、ひかりの中で、信憑性が湧いてきた。


きっと、これは本当の事だ。現実だ。


まただ。また私から光を奪っていくんだ。


光を取り戻しても、またこうやって奪っていく。


この世界は、残酷だ。


ひかりは、夜通し誰もいない病室で、泣き続けた。

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