第12話 光の先は

ひかりは、夢を見ていた。


夢の中で、ひかりはナオヤと手を繋いで、

一緒にバイクで行った海の見えるお気に入りの場所を歩いていた。


「ひかり、目が見えるようになって、本当に良かったね。

これでもう、1人でどこへでも行けるし、安心だな。」


顔はぼやけているが、微笑んでいるナオヤが見える。


「これからは、ナオヤさんがたくさん色んなところに連れてってくれるんでしょ?」


「ああ、もちろん!色んな景色を見て、たくさんの思い出を作ろう。

・・・・でも、これだけは約束してほしい。ひかりはこの先、どんな事があっても、1人じゃないってこと。どんなに辛いことがあっても、1人で抱え込まないこと。たくさんの人に愛されるような人間になるんだ。いいね?」


「なにそれ、ナオヤさんがどっか行っちゃうみたい。」


「俺だって、24時間ずっと一緒にいれるわけじゃないんだからさ!だから、俺がいないときでも、ひかりにはずっと笑っててほしいから。」


「・・分かった、約束します!愛される人間になります!」


ひかりはナオヤの方を向いて、笑顔でそう言った。

ナオヤは手を離し、ひかりの頭をポンポンと撫でた。


「頑張れよ、俺の自慢の彼女!」



ナオヤの声を最後に夢が終わり、目が覚めた。


白い壁の天井と、自分の腕に繋がっているチューブが見える。


ガチャ


誰かが部屋に入ってきた。

まだ少し視界がぼやけているが、認識できた。母のあきこだ。


あきこは着替えなどの整理をしていて、ひかりが起きていることに気づいていないようだ。


「・・・・お母さん。」


あきこは手を止めた。


「ひかり!?起きたの!?良かった!!このままずっと寝てるんじゃないかと、心配したわ!!」


「お母さん・・・・少し老けたね・・」


「ひかり、見えてるの!?見えてるのね!!」


あきこは涙した。ひかりの手をギュっと握り、目を見つめた。


「まだ少しぼやけてるけど、見えてるよ。ただいま、お母さん。」


「ひかり・・!!おかえり!!ひかり・・・!!」


ほどなくして、弟のカナタも駆け付けた。

カナタは担当医を呼び、ひかり達は無事、手術の成功を告げられた。

あとは目が慣れるまで、少しの間入院することになった。


「お母さん、ナオヤさんは・・?」


「そういえば、見てないわね。もうすぐ来るんじゃないかしら?」


「そう・・・・」


なんだか胸騒ぎがする。

あの夢はなんだったんだろうか。


コツコツコツ


誰かの足音が聞こえる。この音は聴き覚えがある。


コンコン、ガチャ


「・・・・お父さん?」


「ああ・・ひかり・・!!見えるんだな!!本当に、見えるんだな!?」


父のヒロシの登場に、あきこは少し動揺していた。


「ひかり、本当に良かった。本当に・・・良かった!!」


ヒロシもまた、感動のあまり涙していた。


「あなた、どうして手術の結果を知っていたの?」


「ああ、それは、カナタが連絡してくれたんだ。」


「おとーさん、遅いよー!!」


ひかりは、久しぶりに家族が揃った風景を見て、感激した。

目が見えていた頃と同じ、家族の笑顔がそこにあった。


「あきこ、少し話がある。ちょっといいか?」


「な、なんですか。今はひかりの事で・・・・」


「お母さん。私はもう大丈夫だから、お父さんと話してきて。」


あきこは戸惑いながらも、ヒロシと部屋を出て行った。


「ねーちゃん、なんか欲しいもんある?」


「そうね・・少し甘いジュースみたいなのが飲みたいかな。フルーツジュースみたいな。」


「りょーかい!買ってくる!」


カナタは嬉しそうに、でもどこか照れくさそうに、部屋を出て行った。


ひかりは、机に置いてあった携帯を取り、ナオヤから連絡がきていないかチェックした。


ところが、なにもきていない。


レコーディングが忙しいのだろうか。進行にトラブルがあったのだろうか。


そんなことを考えると、自分から連絡するのをためらってしまった。


ガチャ


「ねーちゃん、ジュース買ってきたよ~。」


カナタは、気を利かして、何種類かのジュースを買ってきてくれた。


「ありがとう。じゃあ、これにするね。」


「なんか不思議。ねーちゃんが見てこれにするって選んでるの。でも、昔はこれが普通だったもんな。」


「カナタも、背伸びたね。」


「もうお姉ちゃん越してるよ!」


カナタは、お父さんが出て行ってから、ちゃんと一家の大黒柱を務めていた。

離婚した親、盲目の姉という環境の中でも、しっかり周りを見て正しい行動ができる人間に成長した。

最年少でありながらも、家族の中で一番のしっかりものだ。


「カナタ、色々家の事でも迷惑かけてごめんね。これからはお姉ちゃんも手伝うからね。」


カナタは、泣きそうになったのを、グッとこらえた。


「・・・・あ、当たり前だろ!サボってたぶん、ちゃーんとやってもらうからな!」


強がるカナタを見て、微笑むひかり。


しばらくすると、あきことヒロシが戻ってきた。


「ひかり、カナタ、話がある。」


ひかりとカナタは、二人で何だろうと、首をかしげた。


「父さん・・・・家に戻っていいか?」


「!?」


まさかの発言に、二人は目を見開いた。


「もちろんだよ!!やったー!とーさんが帰ってくるー!!」


「お父さん・・!!おかえりなさい!!」


大喜びのひかりとカナタ。

しかし、水を指すようにあきこが話した。


「コホン!一応、まだ仮ですからね!仮!!」


「あはは・・・まぁ、そういうことだから、ひかり。早く退院できるといいな。」


「うん!!」


こうして、小倉家はハッピーなニュースが2つもあった。


ひかりの目が見えるようになったこと。

父のヒロシが家に戻ってくること。


ただ、ひかりはまだ素直に喜べていなかった。

心残りがあった。

そう、ナオヤのことだ。


明日になれば、必ず連絡がくる。


そう信じて、今日は眠りについた。

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