第5話 電話

アルバイトが終わり、家に帰宅した。


高校を卒業してからは、ずっと一人暮らしだ。


ワンルームの小さなアパートで、生活は楽ではないが、実家にいた頃のように親や親戚の目を気にすることがないので、そういった意味では楽だ。


俺はいつものように、ベッドに横たわった、


「そろそろ連絡しなくちゃな・・なんて送ろうか・・ん?その前に、メッセージ機能で大丈夫なのか?

最近は目が不自由な人でも伝わるような機能が備え付けられてんのか?」


しかし、いきなり電話はハードルが高すぎる。

電話越しにあの低いテンションでこられたらと思うと、たまったもんじゃない。


「えーい!考えててもしょうがない!とりあえず・・昨日はありがとうみたいなので良いか!」


俺は布団に潜り込み、無難な文章を打ち込んだ後、神に祈るように送信ボタンをタップした。


「送信・・!!」


あとは返事が来るのを待つだけだ。既読機能は見ないようにしよう。


「さて、晩飯でも作るか・・」


普段は自炊もほとんどしない。アルバイト先の賄いか、カップ麺や弁当などで済ませることが多い。

返事が気になってしまい、気を紛らわす為に手を動かしたいと思った。

そんなすぐには返事はこないだろう。そう思っていた。


ピコーン


携帯の通知音が鳴った。

まさか、もう返事がきたのか?まだ5分以内だぞ?

ほのかな胸の高鳴りを感じつつ、携帯に手を伸ばした。


「送ってくるの遅すぎです。やっぱりただの冷やかしかと思いました。

ありがとうとお礼を言われるような事は何もしていませんが、どういたしまして。」


俺は返ってきた返信文を読んで、彼女の声を思い出した。

きっとこんな口調で話してくるんだろうなと、想像していた。


「何を送ればいいのか1日中悩んでたんだ!でも良かった~!ちゃんと返ってきて!」


ここは、返事が返ってくるうちに、次の約束を取り次いでおこう。

女性は押しに弱いというのを聞いたことがある。この勢いでドンドン攻めていこう。


「あのさ、ひかりちゃんが良ければ、今度カフェにでもいかない?色々話したいなぁと思って!」


俺はまたベッドに潜り込み、神に祈るように送信ボタンをタップした。


ピコーン


またすぐに返信がきた。今は向こうにとっても都合の良い時間帯なのだろうか。

俺は唾をゴクリと飲み込み、恐る恐る、返信文を開いた。


「・・・・やめといた方がいいと思います。時間の無駄ですよ。」


遠まわしに断られているのか?

それとも、自分を悲観しているのか?

いや、それよりも、返信文の内容に俺は苛立ちを覚えた。


時間の無駄だと?俺にとっては、今こうして君と繋がっていることが、

何より大切な時間だと、心で叫んでいた。


「そういうひかりちゃんは、俺とこうして連絡している事が、時間の無駄とは思わないのかい?」


俺も大人げない。どうしてこんな言い方してしまったのだろう。

でもなぜか、凄く腹が立ったんだ。


ここから、返信がパッタリ止まってしまった。


きっと俺の言い方が悪かったのだろう。

返信に困ったはずだ。

俺は携帯をベッドの上に置き、結局自炊をやめて、カップ麺用のお湯を沸かし始めた。


それから、2時間後


プルルルル


携帯が鳴った。着信だ。

どうせジュンペイあたりだろうと思ったが、


まさかの・・ひかりちゃんからだ。


どうしよう、何を話せばいいんだろう。とにかく、さっきの事を謝ろう。

心臓の音がバクバクと、口から聞こえてくるんじゃないかと言わんばかりに高鳴っていた。


「も、もしもし!?ひかりちゃん!?さっきはごめん!俺の言い方が・・」


「・・・・こんばんわ。どうして謝っているのですか?」


「いや、俺がひかりちゃんを煽るような言い方しちゃったんじゃないかと思って・・」


「いえ、特に何も思ってませんでした。電話の方が色々と早いと思いまして。」


どうやら、気にしていたのは俺だけだったらしい。

安心して溜息が出た。


「はぁ~良かった~!それにしても、まさかひかりちゃんから電話がくるなんて、夢にも思わなかったよ。」


「そうですか。夢かもしれませんね。」


電話越しに、穏やかな表情をした彼女が想像できた。


「こらこら、あんまり年上のお兄さんをからかうんじゃないよ~」

「すみません。リアクションが大きいので、面白くてついつい。」

「あ、要するに、俺と話していると楽しいってことだね!」

「・・・・本当に、何でも前向きに捉えるのは尊敬します。」


俺達は、この後2時間近く電話で話し込んだ。

電話の内容は、大したことは話していない。

主にShineのここが良いとか、共通の音楽の話題で盛り上がった。


「あの・・すみません、私そろそろ寝ます。」


時計を見ると、もう0:00を過ぎていた。


「わー!ごめんね!遅くまでありがとう!また連絡するね!」

「・・はい、でわ、また。おやすみなさい。」

「うん!おやすみ!」


俺は聞き逃さなかった。

「また」という言葉を。

次のチャンスがある。

それだけで、今日は良い夢が見れそうだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る