第4回 再会、緊急戦隊レスキューⅤ!

 唐突に現れた敵対組織の幹部がうちの上司と添い遂げていたという事実に目を白黒させて言葉を喪うウルフマジーン。

 胸の内では思わず敵であるレスキューⅤに助けを求めてしまうほどの衝撃に見舞われていたが、更なる追撃が待ち受けていた。


「あ、それと僕は竜宮の三十六代乙姫と婚約関係にあります」


 顔を赤らめさせて照れ臭そうに背後のモニターに一枚の画像を浮かばせる総帥。

 其処には照れ笑いを浮かべる総帥と天女っぽい衣装の幼女から少女の中間位の見た目の女の子が腕を組んで笑顔を浮かべている。

 その相手の方が今の竜宮の統治者である三十六代乙姫であるとはウルフマジーンもすぐには理解出来なかった。

 ……というよりは頭では理解しても心が否定したかっただけなのではあるが。


「えぇ…何故に…」


 覚えてる範囲でこの少女はうちの構成員を見つけると問答無用で凶悪海生生物けしかけてくる極道もビックリ会話が通じないお嬢さんだった筈だが、

 画像の中では完全に恋する乙女の顔で笑顔を浮かべている。

 そのギャップにウルフマジーンは背中の毛が総毛立つほどの恐怖すら覚えた。

 そして、満更でもない総帥の様子で自分が知らない『5年間の空白』という未知の概念が忍び寄ってくるような感覚にウルフマジーンのそれほど強くもない精神は耐えきれなかった。


「う…うわぁぁぁぁ!?」

「おわっ、な、なんじゃい!?」


 狂気へと陥りそうな精神の瀬戸際から発揮された火事場の馬鹿力で自分に首輪をつけていたDr.マッギアを小脇に抱えてその場からの逃走を図る。


「もう上司のラブロマンス何て聞きたくねぇよぉぉぉぉ!!」

「あっ、に、兄さんまだ大事な事が…!」


 割と同意を得れそうな切実な叫びを上げながら走り出したウルフマジーンを総帥は引き留めようとするも、その制止の声を振り切ってウルフマジーンはその場を走り去っていく。

 後に残された総帥とコールド嬢は一瞬呆けてしまうも、頬白将軍の気まずそうな咳払いで我に返る二人。


「……総帥、肝心のをもしかしてまだ伝えていなかったんですか?」

「う、うむ…つい生きている兄さんをまた目にする事が出来た事が嬉しくて自分語りしてしまって…」

「まぁ、私も似たようなものですからそこは責められませんわ…」


 本来ならばを伝え忘れていた二人は同時に溜息を吐く。


「フムゥ…あの様子では今は何を言っても信じないだろうな。

 落ち着いた頃に切り出すのが良いと思うぞ」


 そんな様子の二人に頬白将軍が助言し、二人もそれに頷き返す。


 だが、


『総帥。 ウルフマジーンなんじゃが、ショックに耐えきれずに勝手に出撃用シューターで出て行っちまったぞい』


 其処に暢気な様子のDr.マッギアからとんでもない内容の通信が入るのだった。


「え、止めなかったんですか?」

『どうしてもと言うし、こういう時は現実逃避も一つの手じゃしな』

「えぇ…(そういえばこういう思考の人だった…)」


 この後、急遽ウルフマジーン捜索隊が総帥命令で組まれるのだが、其処は一旦置いておく。


 そして、海底基地から勢いだけで飛び出していった当の本人と言えば。


「思わず飛び出してきちゃったけど、そういえば俺、無一文だった」


 海岸線の前で1人黄昏ていた。


「まぁ、このままだと目立つし、変身は解くか…」


 そう呟くとその全身から水蒸気が噴き上がり、周囲が白煙に包まれる。

 煙が晴れてみれば、其処に立っていたのは一回りほど小さく(とはいっても一般的な成人男性としては大柄)なった青年が立っている。

 逆立った、白というよりは灰色の髪と筋肉質な体格の犬歯が目立つ男。

 ウルフマジーンの改造前の姿、『応嚙 迅(オウガミ ジン)』という。

 戦闘員用の伸縮自在のライダースジャケットとジーンズ姿のちょっと危なそうな感じの青年といった見た目の彼は自分の人間態の姿の腕などをジロジロと眺める。


「う~ん、まぁこっちも別に変った感じはしねぇなぁ…」


 5年越しに復活したとはいえ、彼にしてみれば目が覚めたらそんな状態だったというウラシマ気分なのであまり実感もない。

 それに目を上げてみてみた5年後の街並みもあまり変わってないように見える。


「つっても、建築物って10年20年使うのはザラだしな、急に変わるもんでもないか」


取り敢えず、飛び出してきてしまった手前、このまま海底基地に戻るのも気まずいのでウルフマジーンは5年後の世界の様子を確かめる事に決める。

ちょっとした観光気分である事は否めないし、少しウキウキとしていたのも事実である。

しかし、現実というものは非情であり、ここでも彼には望まないが待ち受けているのをこの時点の彼では知る由もなかった。


防波堤を越え、道路の向こう側に街並みを見据えた状況。

そこで彼の改造された人の4倍ほど優れている聴覚が異変を捉えた。


「ん…悲鳴と…爆発音か?」


自分の居る場所からは少し離れた街の中心地らしい場所から聞こえる喧噪に彼は怪人としての本能と目覚めた直後の騒動に好奇心がくすぐられる。


「どれ…いっちょ覗いてみるか!」


好奇心を刺激され、今までのどう処理すればいいのか分からない内心の鬱憤も溜まっていた彼は犬歯を剥き出しにした笑顔を浮かべるとその場を駆けだした。


それから数分、改造人間としての脚力を発揮した彼は目的地へと辿り着く。


「あれは…チッ、よりにもよって『フーリGUN』の連中かよ…」


物陰に潜み、暴れているモノの姿を視界に収めて彼は舌打ちを打つ。


ならず者集団『フーリGUN』。

言ってみればただの暴れたいだけのチンピラ集団であるが、作戦もへったくれもなく暴れるので同じヴィラン組織からしてみても迷惑な連中である。


「というか、真っ先に壊滅してそうだったのに息が長いなあいつらも…」


他の組織からも目の敵にされてるので5年後なら流石に滅んでると思っていたので、其処だけは思わずちょっと感心してしまう応噛。


「ン!? おい、其処に隠れてる奴出て来い!」

「やべっ、見つかっちまった!」


いかにも世紀末といった風体のモヒカン集団の一人が隠れている応噛に気づいて声を上げる。


「あいつらなら俺でも相手出来るが…どうするか?」


相手はちょっと武装したチンピラ集団なので怪人としての力を発揮すれば撃退自体は可能であるが、「それは怪人としてどうなんだろう?」と二の足を踏んでしまう。


「テメェー、出てこねーならこっちから行ってやる!!」


苛立った様子のモヒカンが隠れている場所へ鉄パイプのような物を構えてにじり寄ってくる。

仕方ないと覚悟を決めて怪人に変身しようとしたその時である。


「そこまでだッ!! 悪党共ッ!!」


声が高らかに響き渡ってきたのは。


「こ、この声は…!?」


その声に聞き覚えのあった応噛は飛び出そうとしていた身体を抑え、再び物陰に身を潜ませ、そして声の主の元へ目を向ける。


「行くぞ、皆!!」

「おぅ!」

「あぁ!」

「えぇ!」

「行きましょう!」


「「「「「レスキューチェンジ!!!」」」」」


中心の青年の声に応えて5人の集団が腕に巻いたアクセサリーを操作し、煌びやかな光が5人を包み、5色の戦士がその場に現れる。


「レッドレスキュー!」

「ブルーレスキュー!」

「イエローレスキュー!」

「グリーンレスキュー!」

「シルバーレスキュー!」


「「「「「世界の危機から命を守る、緊急戦隊レスキューV!!」」」」」


赤の戦士を中心にポーズを決める5人の戦士。

その姿を捉えていた応噛の視界が思わず滲む。

例え宿敵と言えども変わらずに存在していた彼らに奇妙な友情のような感覚すら覚えていた。

記憶と変わらない赤、青、黄、緑、白の5人の…変わらない?

フーリGUNと対峙して何やら投降を促しているらしいレスキューⅤの面々をもう一度端から見直していく。


赤、居る。 青、居る。 黄、居る。 緑、居る。 銀…銀?


「いや、お前誰だよ!? ホワイト何処行った!?」

「えっ?」


思わず飛び出して銀色の戦士を指さしてしまった応噛は「しまった!」と内心で思うものの、其処で流石に自分の人間態は知られていないかと思いついて開き直ろうと心に決める。


「あ、すいません…勘違いです、頑張ってください…へへ」

「あ、ハイ…ハイ?」


急に指さされて罵倒された上に勘違いと言われて困惑している銀色の戦士に卑屈そうな笑みを浮かべてその場を去ろうとするも、妙な空気を感じて足を止める。


見ている。

残りの4人が凄いこちらを食い入るような目で見ている。


「(な、なんだ? バレてないよな俺の正体?)」


ただ単に不審者を訝しむにしては反応が妙である。

まるで何かに絶句しているかのような様子だ。

取り敢えず、何か言ってこの場を逃れようと思って口を開こうとした時、


「ウルフレスキュー…君なのか?」

「アッハイ、ウルフ…うん?」


震える声で応噛に向かって言葉を投げかけてくる赤の戦士に応噛ことウルフマジーンは首を傾げるのだった。


次回、第5回 消えたホワイトとトンデモナイ真実。

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再生怪人は今日も戦えない @akinu2

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