第3回 「助けて、緊急戦隊レスキューⅤ!」
(今回は終始ウルフマジーン視点です)
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「ウルフマジーン…所詮は初期型の改造怪人。
貴様には何の期待もしていない」
そう言って、冷めた目で跪く俺を見下ろしていた『鉄の女』と陰で部下達には囁かれていた女性。
それが俺の思い起こせる「キャンセラー=コールド」という女史の姿である。
それが今や…
「君が亡くなってから5年…世の中も私達も大分変わったのよ…」
「ワンワン」
「お~よしよし、そうねワンちゃんですねぇ~」
ちょっときつめの吊り目なのは変わらないが『冷酷な女』とか呼ばれていた頃の名残なんか見られないただの母親の顔をしている女性が目の前で赤子をあやしている。
あと狼です。
「えっと…その子は…」
今までの展開からして嫌な予感が頭を過ぎる、まさか違うよね?
「あぁ、今の旦那との子よ」
あぁ~~~~~ビビったぁ~~~~!!
これで俺の子とか言われたらマジでどうしようかと思った!!
「アハハハハ! まさか自分との子だとでも思った?」
そんなこちらを見透かすように愉快そうに目を細めながらコールド女史は笑う。
えぇ~、この人こういう顔も出来るんだぁ…こっちの方が確実にモテてただろ…
「い、いや、それは…!? ちょっと思いました…」
「素直でよろしい、でも残念ながらそれはないから安心してね?
第一、この子の年齢も合わないでしょ?」
言われてみればその通りだ、今もこっちに手を伸ばしながら「ワンワン」と呼びかけ続けている幼児はいいとこ2歳いってるかどうかという感じで俺の1回目の死亡時期とは計算も合わないし。
自意識過剰だったかと恥ずかしくなって誤魔化すように薄ら笑いを浮かべつつ頭を掻く俺。
完全に不審者の挙動。
「え~ッと、おめでとうございます?」
「…今更過ぎる祝福の言葉だけれど、取り敢えずありがとう。
思えば私もこんな風に所帯を持つなんてあの頃は想像もつかなかったし」
バリキャリでしたもんねと心の中で相槌を打つ。
「別に仕事を生きがいにしてた訳じゃないのよ?
あの頃は本当にそれが使命だと思い込んでただけで」
目を細めて薄っすら笑ってそう言う女史は記憶の中の女史を彷彿とさせる。
…サイコメトリー能力あったっけこの人?
それとも単に俺が分かりやすいだけ?
チラリチラリと総帥や博士に視線を送ると苦笑いしてたりするので俺が分かりやすいだけなのだと納得した。
「と、ところで旦那さんって? あ、もしかしてフールー様?」
俺がこの場に見当たらない大幹部の名前を告げるとその場が急にシンと静まり返る。
…あ、あれ? もしや、これは?
「彼は…ウルフ兄さんが亡くなった後の戦闘で…ウルフ兄さんの弔いだと単独で出撃して…」
総帥が顔を俯かせて呟く。
「そ、そんな…あの鋼の様なフールー様が…!?」
「いや、生きとるぞい?」
「はっ?」
最悪の結末を予想して声を震わせる俺に向かって博士があっけらかんと事実を告げる。
「ウルフ兄さんはフールーさんを慕っていたから、これを伝えるのはどうかと思ったんだけど…フールーさんはもう帝国を抜けているんだ」
顔を上げ、決意を固めた表情で総帥が語り出す。
「フールーさんは単独出撃した結果、重傷を負ってしまった。
でも、これ自体は別に命に関わるほどの問題でもなかった全治3か月ではあったけど」
それは十分、命に関わるのでは?とウルフマジーンは訝しんだが声には出さなかった。
「その入院期間中にね、暇だからと観だした動画サイトで運命の出会いをしてしまったんだ…」
総帥が指を鳴らすと背後の壁がディスプレイと化し、映像を浮かび上がらせる。
『は~い、じゃあ今日はこのゲームをやっていきたいと思います!』
其処に映し出されたのはカメっぽい衣装の可愛い感じの女の子のキャラクターだ。
あー、あんま興味なかったけどなんかあったな、こういうの。
バーチャルアイドルだっけ?
……え、もしかして?
「ま、まさか…このキャラクターに嵌まって帝国を抜けたとか…?」
アイドルなんかにのめり込んで人生を捧げだす人間というのを俺も幾人かは知っている。
何を好きかは個人の自由なのでとやかく言うつもりはないが、あの硬派なフールー様がアイドルに嵌まるとか想像もつかない!
しかし、俺のその言葉に総帥は首を横に振ったので内心でほっと息を吐く。
「これ、フールーさんです」
「ハァァァァァァァ!?」
硬派の欠片もないんですけど!? 今も何か画面端から強襲かけて来たゾンビみたいなのに悲鳴を上げながらブレブレの照準で対応しているけど!?
「い、いや、でも声…」
「ボイスチェンジャーです」
……うそ~ん。
「あ、ほらやっぱり放心しちゃったじゃないですかウルフ兄さん!?
フールーさんを慕ってたから、出来るだけこの話題は避けようって決めてたのに!?」
「聞いて来たのはこ奴の方だからのぅ…」
「どちらにせよ、いずれ分る話でしたわ陛下…」
あまりのショックで気が抜けそうな俺の周りで総帥や大幹部である3人が慌てたり呆れたりしている。
…何なのこれ?
「おぅ、コールド! 何度連絡しても返事がないから様子を伺いに来たぞ!!」
そんな時に広間に大声が響き渡る。
呆けていた視線をそちらに向けると入り口に巨漢の人物が仁王立ちしている。
「き、貴様は…頬白将軍!? 何故此処に!?」
その姿を見定めた俺は慌てて臨戦態勢を取る。
それも当然である、何故ならば奴は敵対組織の幹部だからだ。
深海覇宮:竜宮。
日本古来の神話体系から存在する神の系譜である大自然の精。
ぶっちゃけ、お伽噺で有名なアレである。
彼らは日本海の海深くに拠点たる竜宮城を有し、自然への敬意を忘れた日本人へ報復を行っている結構な過激思想の集団だ。
そして、問題なのが我らが
……その所為でお互いに支配圏を主張して結構にいがみ合ってきた。
そんな組織の幹部が我が物顔でここまで乗り込んできているのだからとんでもない事態である。
とんでもない事態である筈なのだが…
なんか総帥も幹部も慌ててなくね?
「…ん? お、おぉ、お主は!!」
俺の存在に気づいた頬白将軍がこちらに向かって猛烈な勢いで駆けてくる。
思わず身構えてしまったものの、相手は敵の幹部で鮫の化身。
要するに滅茶苦茶怖い、木っ端怪人の敵う相手ではない。
「ひぇっ!?」
勢いに押されて思わず情けない声を漏らして顔を逸らした俺に対して迫りくる鮫の巨漢が大きく腕を広げる。
や、
「生き返ったのだな、我が盟友!!」
しかし、次の瞬間には歓喜の声を上げながら何故か俺はこの鮫肌巨漢に全力で抱きしめられていた。
…すっごいジョリジョリする。
というか、ブルータスお前もか!!
「そこまでにして貴方、ウルフ君が今にも泡を吹きそうになってるわよ?」
鮫男に全力で抱きしめられている俺の方に呆れた様にコールド女史が声を掛けてくる。
ハイ、今も全身の骨が悲鳴を上げてます。
…というか、今のは俺に掛けられた言葉ではないよね?
そこで俺は視線を俺を抱きしめる鮫に向けた後、何とか指をこの鮫に向ける。
「あ、貴方って、もしかして!?」
「そっ、今の私の旦那♡」
そう言うと、微笑みながらコールド女史はやっと手を離した頬白将軍に寄り添う。
「フアァァァァァァァァ!?」
「キャディかの?」
訳が分からなくて絶叫する俺に対して博士が素っ頓狂なツッコミを入れた。
しかし、完全に目を白黒させている俺に無慈悲な更に追い打ちが来る。
「彼女と結ばれたのもお前のお陰だ、我が盟友よ。
我ら竜宮の民はお前の復活を待ち望んでいたぞ!!」
一体、何がどうなってるんだ!?
「助けて、緊急戦隊レスキューⅤ!」と俺は心の中で仇敵に救いを求めるのだった。
次回、第4回 再会、緊急戦隊レスキューⅤ。
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