おめでとうございます

「今井くん、誕生日おめでとー!」


「あ、はい、ありがとうございます」


僕はワンテンポ遅れてジョッキを差し出した。


カチーン


互いのジョッキから泡が飛び出す。


「あぁ、もー篠崎さん押しすぎですよー」


「何言ってんのよ。年に一度の君の誕生日なんだから、ホラホラ、もっと嬉しそうに笑って笑って!」


今年の僕の誕生日は休みの前日となった。お酒大好き篠崎さんが、僕の誕生日を理由に酒宴を開いたのは言うまでもない。ま、酒宴と言っても二人きりだけど。


僕と篠崎さんは、その後も仕事でペアを組んでいる。久しぶりの二人の飲み会は、仕事の愚痴から始まり、お約束のように恋バナ大会になっていった。二人とも痛い目に遭ってるのに……酒の力は恐ろしいものだ。

現場への移動中に、えっちゃんに会った話をしたのでそれが引き金になったようだった。


「初恋の人かー。懐かしいなぁ。だいたい小学校の時に好きになって、中学では何もなくて、高校で告白されたのにそれをフッて、改めてこちらから告白して付き合うって、何なのよ!」


「何なのよと言われましても……」


「それで田舎に戻ってきて、再会してときめいたら人妻だったって、マジウケるんですけど!」


篠崎さんはゴキゲンだ。人の不幸は蜜の味ということだろうか。


「しょうがないじゃないですか。実際、可愛くなってたんだから」


「今井くんはさ〜、タイミング悪すぎだよね〜。だからダメなんだよ〜」


篠崎さん、酒乱モード入ったみたい。語尾が「〜」で伸び始めた。


「ナーニ言ってるんですか。篠崎さんだって相変わらずの独り身じゃないですか! 目クソ鼻クソですよ。あ、僕が目クソですからね。篠崎さんは鼻クソってことで」


「フフン」


僕の挑発を鼻クソが鼻で笑ったかと思うと、篠崎さんはスクっと立ち上がり、高校野球の選手宣誓のように右手を高々と掲げた。でも酔っているので、ピンと伸びた指先はフラフラと8の字を描いている。


「宣誓〜っ!篠崎真理子31歳、彼氏ができました〜っ!」


「え! マジすか? いつの間に?」


「えへへへへ〜。ま、私が本気になればこんなもんよ〜」


確かに篠崎さんはあれから変わった。

無造作にまとめていた髪も、小綺麗にセットしてるし、きちんと化粧をして口紅の色も上品なピンクだ。隣りに座って打ち合わせをしていて、ドキッとすることもあるくらい。


「で、彼氏ができたのはいいとして、例の懸案事項はクリアできたんですか?」


僕はオブラートにくるんで、そっと聞いてみた。


「……(ぽっ)」


篠崎さんは純情可憐な乙女のように頬を赤らめて、コクリと頷いた。


ヤバい、可愛いんですけどー。


「良かったですね! じゃあ景気づけに一回僕とえっちしときましょっか?」


軽い調子で冗談を言ったら、


「え? 今井くん、何言ってるの? そんな不謹慎なこと冗談でも言っちゃだめだよ! えっちは好きな人としかしちゃだめなんだよ。これだから東京帰りは怖いわ〜」


――おいおいっ……。


ま、それはさておき、篠崎さん、おめでとうございますっ!

末永くお幸せに。

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