今井くんはどうなの?
篠崎さんの彼氏は大学の同級生だそうだ。建築学科の友人の結婚式の二次会で久しぶり会って、意気投合したらしい。
その人は東京にいるから会うのもちょっと大変みたいたが、互いに行ったり来たりして愛を育んでいるとのこと。
「学生の頃は大人しくて地味な奴だったんだけどさ、いい感じに歳を重ねてて一緒にいて心地いいんだよね。そんな奴が『篠崎、綺麗になったな』なんて言うもんだから、これは逃すまいと私から猛アタックしたんだ〜」
誇らしげに恋の武勇伝を語る篠崎さんは自信に満ち溢れていた。
この人はやっぱりとても綺麗だ。性格もいいし、スタイルもいいし。
もしあの時、……いや、それは野暮というものだろう。
でも、彼氏ができたと聞くとちょっと悔しい。
「ねぇ、そう言えば、前に話してくれた彼女って来月卒業式なんじゃないの?」
「え? えーっと…………あ、ホントだ。卒業かぁ」
あの羽月ちゃんが大学生になるのかと思うと感慨深いものがある。
「会いに行くんでしょ? 早く会いに行かないと誰かのものになっちゃうかもよ〜」
「う……、でも何だか申し訳なくて。会うのやめようって一方的にサヨナラして、今度は会いたいなんて言ったら勝手過ぎですよね」
「うん、まぁね。でも彼女がどう思うかはわからないけど、どんな結果になっても会わないことには前に進めないんじゃないの? だって、今井くん、今でも彼女のこと好きなんでしょ?」
篠崎さんは直球な質問を投げ込んでくる。僕は少し考えてから答えた。
「はい。大好きです。今すぐにでも会いたいです。会って…………」
「会って……何?」
言葉が浮かんでこなかった。
「いや、会えたら、それだけでいいです。彼女の笑顔が見れたら、それだけで」
「またまた〜、そんな中学生みたいなこと言っちゃって」
「いや、あの、恥ずかしながらホントなんです。彼女に会えたらそれだけでいいんです」
「そんなに好きなんだね。そこまで言えるって、ちょっと悔しいな。とりあえずもう1杯飲んじゃおっと」
「篠崎さん、俺、4月になったら東京に行って彼女に会ってきます。そして俺の気持ちを全部伝えてきます」
3月は年度末であり、決算期であり、1年で一番忙しい時期なのだ。
「そんなのんびりしてていいの? これから行けばいいのに?」
「いや、飲酒運転で捕まっちゃいますよ。それに仕事がバタバタしてるときに会うんじゃなくて、落ち着いてからゆっくり会いたいんですよね」
「そっか。じゃあ困った時は何でも言ってね。こんな私だけど力になるからさ」
篠崎さんはホント、いい人だ。
でも、4月にゆっくり会うなんて悠長なことを言ってる場合じゃなかった。
それは3月上旬、一週間後の休みの日に突如訪れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます